第48話 ハルの全てを守る盾
「ああっ!! ハル!?」
大切な恋人を目の前で失わんとしている、絶望的なレイラの絶叫がハルの耳をつんざく! 彼を失いたくない者はレイラ、ソフィア、バイロンそれ以外にも沢山いる。そして何よりも、
「守ってくれている……?」
ハルの心奥に存在する戦女神がそうであった。強大なエネルギーシールドを広く展開し、シー・サーペントが吐き出した青炎のブレスを完全に打ち消している。水竜がどんな攻撃を仕掛けようともハルを守る。その意志が、顕現した青髪の女神の強い眼差しから伝わってくる。本気の目だ。
この船は小型だが砲は数門ある。しかし、シー・サーペントは海から船べりに近づきすぎており、砲撃をぶちかますのは距離の面から難しい。
「ハルを殺そうとしたわね!! 許さない!!」
恋人であるハルの無事に一瞬安堵したあと、レイラは猛烈な怒りを小型の水竜に向けて発した。普段リアリストを貫く彼女だが、怒りに我を忘れるのをハルもソフィアも幼い頃から知っている。
「待って! おねえちゃん!?」
妹のソフィアの案じる声が届く前に大剣を抜き、疾風のようにシー・サーペントへ、レイラは突貫した! 我を忘れた彼女の身を守るため、戦女神は光のエネルギーシールドをさらに厚く広く展開する! それはほとんど船全体を覆うほどである。
「ハアアアッッッ!!!」
怒りに身を忘れているとはいえ、レイラが持つ天賦の剣才は自身を無意識に助けてくれた。高い気合声と共に放った渾身の突きは、首筋の急所を正確に捉えている! 水竜は深いダメージに苦しみもがいた! だが、まだ戦意を失わず、瘴気を帯びた目でこちらを睨み、態勢を立て直しつつある。
「まだやる気なの!? それならぶった斬ってやるわ!!」
「どいてくれ!! レイラ!!」
超強気のレイラは啖呵を切り、再びシー・サーペントへ斬りかかろうとした。それより一瞬早く、ハルの大声が彼女に届く。攻撃を瞬間的に翻し、レイラはバックステップで素早く身を引いた。
「フレイムピラー!!!」
戦女神から絶大な魔力の増幅を受けた無数の爆炎の柱が、シー・サーペントに向かって超高速で飛んでいく! 3つの爆炎の柱を身に受けた時点で水竜は力尽き、海へその亡骸を沈ませていった。
戦いが終わり、結果的に誰も身に傷を受けていない。しかしそれは、戦女神が護ってくれたからであり、ハルを見る青髪の女神の目はいつになく厳しく、また得も言われぬ美しさが感じられた。
「怒っているよね? ごめんよ」
彼はそう考え謝ったのだろう。違うのだ。戦女神は悲しさをたたえた目で少し頭を振り、
(そうじゃないの、心配なのよ)
ハルの心奥に戻る時、彼の心へそうメッセージを残していった。