第42話 魔王となった神の子
師であり、育ての親とも言えるセトは、魔法力を絶妙にコントロールし、誰にも扱えないはずの魔人のワンドで、楽しそうに遊ぶルシフェルを、少しだけ離れたところから見つつ、
(この子は本当に人の子じゃろうか?)
あまりのことに無邪気な愛弟子へ、そんな疑いさえ向けている。どれくらいの年月を生きてきたかわからない魔人の老翁ですら、それは驚愕させられる光景だった。
「ルシフェル、面白いか」
「あっ!? 御師様!? 申し訳ありません!」
少年のルシフェルは、歳相応になく礼儀正しい子であった。師への大変な非礼と思ったのだろう。すぐに謝ると、彼は魔人のワンドを急いで元の場所へ片付けようとする。
「いや、よい。お前がもし欲しいなら、そのワンドをやろう。ルシフェル」
「えっ!? ですが御師様、このワンドはとても大切になさっていたのでは?」
「いいんじゃ。代わりのワンドならある。お前がそれを扱えるなら、これから研鑽を積んでいきなさい。そういう時が来たのじゃろう」
セトは何も咎めることなくルシフェルの手を軽く握って制し、その代わりに、彼へ思いがけない宝物を授けた。その時のルシフェルが浮かべた無垢な喜びの笑顔を、
「わしは忘れんじゃろうな……」
と、懐かしさと寂しさをたたえた目でセトは思い、遠い日を振り返っている。
不世出とも、あるいは神の子とも言えるだろうか、かつての愛弟子であったルシフェルと再会し、変わってしまった彼を正すため、先日、人知れずとてつもない戦いを繰り広げたことまでセトは語った。
「何があったかは知らんが……いや、あやつは底しれぬ力を身に付けすぎたんじゃろう。町を飲み込んでしまうような瘴気が、ルシフェルからプンプン漂っておったよ。わしの力でも、どうにもできんかった」
「セトおじいちゃんでも? 嘘でしょ?」
目を丸くして驚きながら聞いているソフィアからの、自分への信用に自嘲気味な笑顔を浮かべ、老魔人は答える。
「はははっ、嘘でこんなこと言うもんか。全く手がつけられんかったよ。わしは聞いたよ、ルシフェル、お前は魔王にでもなったのかと。そのようなものになりましたと返してきおった。あやつも嘘をつく質ではないしの、なったというならそうなんじゃろう」
「じゃあ、テラがおかしくなってきているのって……そういうことなの?」
申し訳無さそうに白髪の頭をかき、
「そういうことじゃ。あやつに自覚はないかもしれんが、災厄の震源じゃろう。その災厄がどう広がっていくかもわからん」
リアリストであるレイラの、真剣で切迫した問いかけにも答えを返した。