第41話 魔人のワンド
どう見てもただのワンドではないことは、すぐ分かる。
「これって……手にとって大丈夫なやつなの? 俺、おかしくなったりしない?」
「やはり気づくか。見ての通りの物じゃが、まあ触っておかしくなることはない。じゃが、無理だと思ったらすぐ手を離せ」
ワンドの膨大な魔力により精神が侵されることはないが、何かしら異変が起こる可能性はあると、セトは言っているのだろうか。レイラとソフィアも、なぜこんな物をセトが持ってきたのか意図を酌み取れず、心配そうにハルを見守っていた。
(ええい! なんとかなるだろ! ワンドを握るだけなんだ!)
強い恐れを抱いている自分の心を振り払い、おもむろにハルは深い紺色のワンドを両手に掴んだ。手にとった瞬間、それはなんともない軽さだったが、拍子抜けした次の瞬間、ずっしりと両手にどう力を入れても支えられない異常な重さがかかる! ハルは危険を感じ、とっさにワンドを持つ手を離した。何事もなかったように、金属が木製のテーブルに転がる軽い音をたて、紺色のワンドは、また静かに魔力を放っていた。
「ハアハア……何これ!? 俺の魔力がどんどん吸われる感じがして、めちゃくちゃ重くなって……」
「大丈夫なの!? ハル?」
「うん、大丈夫なのは大丈夫。セトじいさん、これいったいなんなの?」
一部始終をその紺色のワンドのように静かに見ていたセトは、白い髭をゆっくり撫でながら、
「まだ無理じゃの。すまんすまん、試すようなことをして悪かった。詳しい話をしよう」
と、いつもの飄々さで、ハルたちがアンカーレストを留守にしていた間の、あの出来事を語り始める。
元々、このとてつもない魔力を持つ深い紺色のワンドは、セトが愛用していたもので、使い込んでいるうち、老魔人としての魔力がワンドに上乗せされて移り、何時しかセト以外だれにも使いこなせない物になった。
「そうだったんじゃが、あやつはヒョイッと簡単にこれを持ちおった。あれには魂消た」
セトは目を細めて懐かしそうに昔を思い出している。この老翁の心に浮かんでいる「あやつ」というのはルシフェルだ。孤児の少年だった彼は、セトの家に身を寄せていた頃から、天賦という言葉以上の神がかった魔法の才を持っていた。それを大いに見込んだ老翁は、自分が知り得る魔法の扱いの全てを教えた。ルシフェルの魔法の習得スピードは、1を見せたら100を知るほどであったという。
そんな昔のある日、ルシフェルはセト以外だれも持てず、扱えないはずの紺色のワンドを、いとも簡単に持ち、無邪気に遊んでいた。




