第30話 グリーンドラゴン(小型)
塔の内壁面も外壁と同様、深い緑色で覆われている。壁に透明感はあるのだが、透過して外の景色が見えるほどではない。壁の内部に遮りがあるのかもしれない。
「なかなかの広さがあるわね。見たところモンスターがウヨウヨいるわけでもなさそうだけど」
「そうね、って言いたかったけど、お姉ちゃん。あっちに強そうなのがいるよ」
ハルたちが扉から入った場所は塔の一階になる。そこは非常にシンプルな一続きの大広間になっており、ハルたちから見てちょうど真反対の向こう側に、2階へ登る石階段が見えた。だが、それを簡単に登ることはできなさそうだ。鮮やかな緑色の分厚い皮膚を持ち、長さがある首を上げてこちらの様子を窺う怪物がいる。それは小型のグリーンドラゴンで、戦うなら強敵になることは間違いない。
「ドラゴンなんて生まれてはじめて見たよ。どう見てもこっちに気づいてるよな」
「悠長なこと言ってられないわよ。ハル、どうするの?」
「戦うしかなさそうだな。あっちもなんだこいつらって顔をしてるが、俺とレイラで探ってみよう。ソフィアは後ろでサポートしてくれ」
「小さいけどドラゴンだからね。凄いブレスを吐くかもしれないよ。気をつけてね」
可能性として高い忠告をソフィアはしたのだが、それを聞いてハルもレイラも嫌な予感しかしていない。とは言っても目的のアイテムを見つけるためには、石階段を登る以外なく、眼前で敵意を向けている小型のグリーンドラゴンを倒さなければ道が開けない。腹を括った男気をここでハルは見せる。切り札として控えてもらうため、レイラを手で制し、
「ファイア!」
自身の頭ほどの大きさがある火球を、ハルは魔法を唱え発生させ、それは瞬間的に左腕だけが顕現した戦女神の魔力も加わり、加速度を増して高速で緑竜目掛け飛んで行った!
「グギャアアア!!」
炎の塊は分厚い緑竜の体に命中し、あまりの熱さにその怪物は咆哮を上げて苦しんでいる! ダメージを確実に受けているが、命を奪うにはまだ遠い。ハルたちへの殺意を完全なものとし、グリーンドラゴンは体を震わせ、渾身の毒ガスブレスを吐きつけてきた!
「うわっ!! 息苦しい……体が鈍い」
「私も吸い込んじゃったわ……ヤバいわね」
油断である。ソフィアが予期していた忠告が無駄になり、ハルとレイラは毒に冒された。命に危険が及んでいる窮地である。しかし、それを回生したのが、
「キュアミスト!」
周囲に毒を消し去る浄化の霧を作り出したソフィアであった。なんと心強い小さな癒し手であろうか!