第28話 魔術師ウリル
何代にもわたって暮らしているのだろうか、杜の町と共に歴史を重ねてきたそのレンガ造りの家は、早朝の陽光を浴びて、照り輝いていた。転移の魔術師ウリルの家を、宿で一泊したハルたち3人が訪ねている。少しの間、立ち止まり、家の様子を見ていたのだが、ちょうど家から庭へ出て、洗濯物を干す若い女性の姿を認めることができた。ただ、この女性がウリルとは思えない。
「どうみてもお婆さんじゃないよね」
「ハル……そんなこと言ったら怒られるわよ。あの女の人に、ちょっと話を聞いてみましょ」
思ったことが正直に出過ぎるところがあるハルは、このようにレイラからたしなめられることが昔から多い。失礼がないように注意して、洗濯物を手際よく干している若い女性に話しかけると、特にこちらを不審に思うこともなく、愛想よく応じてくれた。紫色のロングヘアーと、ぱっちりとした目が魅力的な美人だ。
「アンカーレストから来た子なのね。お師匠様に会いたいの?」
「お師匠様? じゃあ、お姉ちゃんは、お弟子さんなの?」
「そうよ。住み込みでウリル様の身の回りの世話をしながら、魔法を教えてもらってるの。ベラって呼んでね」
ベラはひまわりが咲いたような明るい笑顔で話す、気立ての良い女性だった。だが、肝心の用がある魔術師ウリルは、気難しく人と会うのを嫌うとギルドで聞いている。果たして、まずハルたちと話してくれるのかすら怪しいが、
「ちょっと待っててね。お師匠様に聞いてきてあげるわ。今朝は機嫌が良かったから、もしかしたらいい感じかも」
望みが多分にある言葉を残し、ベラは造りが頑丈な家に一旦入り、ウリルへ取り次いでくれた。程なくして、微笑みながらオッケーのサインを出し、戻ってきた紫髪の美女はハルたちを案内する。今日は早朝から幸運な彼らであった。
ギョロリと大きな目でハルたちを見据え、真っ白な髪を無造作に髪留めで束ね、後ろに流した老婆、それが魔術師ウリルである。背は低く、ソフィアほどの高さもないが、別段背筋が曲がっているわけでもない。今朝は夢見が良かったからか、ウリルの機嫌はとても良いらしく、ベラに聞く所、こんな朝早くに客と会うなど普段ありえないそうだ。
「お前たちアンカーレストから来たそうだね。あそこには知り合いの爺さんがいてね。セトというんだが、知っているかい?」
「はい! セトは俺と、隣りにいるソフィアの魔法の師匠です。魔法以外にも、色んな話をしてくれました」
「ほう、こりゃ驚いた。どうもお前たちとは、今日ここで話をする繋がりだったようだね。私に用があるんだろ? 言ってみな」
ウリルはニコリともしないが上機嫌には違いないようだ。ハルたちは千載一遇の好機と思い、経緯とウリルに求めることを、詳らかに伝えてみた。