第22話 冒険の始まり
故郷を離れ何かに挑戦する時、人は決意と希望を持つとともに、不安と寂しさも感じる。アンカーレストの大門の前に立つ、ハルたちは正にそういう心境であった。親としてその若者3人を見送る、バイロンやシリルなどは、旅の許可を出したとはいえ、笑顔の中に苦さがはっきりと表れている。
「困った男になったなあ、ハル君」
「すみません……シリルさん。レイラとソフィアもついてきてくれるとは考えていませんでした。本当にすみません」
本当に好きな男を想う女というのは、こうしたものなのだろうか。シリル自慢の器量が素晴らしい娘たちは、2人とも、ハルの旅に同行すると言って聞かなかったらしい。彼のことをレイラもソフィアも好いているのは知っていたが、これほど離れたくない存在だったとは、父親としてシリルは見抜けていなかった。
「いいよ。それだけ君がいい男になったんだよ。あれこれ面倒をかけるかもしれないが、娘たちを頼んだよ」
「失礼ね! お父さん! 絶対に私たちの方が、ハルの面倒を見るようになるわ!」
「そうよ、お父さん。私たちがいないと、ハル兄ちゃん一人で、こんな旅できるわけないじゃない」
「レイラ、ソフィア。ありがとう。シリルさん、絶対に2人を守ります」
ふくれっ面で父シリルに言い返していた美少女姉妹であるが、恋人であり想い人でもあるハルから「絶対に守る」という、身を賭した非常に心強い決意を聞き、2人とも頬を赤らめている。自分たちだけの騎士のように、彼を想えた。
「シリル、本当に申し訳ない。俺からも詫びさせてくれ。ハル、男に二言はない。絶対にレイラちゃんとソフィアちゃんを守り抜きなさい」
「はい! 父さん!」
「よし! 大門を開いてくれ!」
バイロンが野太い大声で号令をかけると、機械仕掛けで太いロープが左右にある太鼓型の装置に巻き取られ、幾星霜も町を守ってきた大きな門が、ゆっくりと開いていった。一歩踏み出せば町の外、青い鳥と戦女神の謎を求める彼らの旅が始まることになる。
「ありがとう、父さん! みんな! じゃあ、行こう! レイラ! ソフィア!」
「ええ、行きましょう。私もハルを守ってあげるわ」
「お姉ちゃんだけじゃないよ~、私もだよ。どんな旅になるか楽しみだね」
ハル、レイラ、それにソフィアは、互いに笑顔で確かめ合い、長い旅の第一歩を踏み出した。交易都市アンカーレストを出て見渡すカルタリアの地には、ハルたちが織り成す冒険を待っているかのように、明るい陽光がそそいでいる。