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追憶の転生  作者: チャラン
第1章 聖母の守護
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第2話 さざなみのレクイエム

 幼い頃から包み込んでくれた海は、ハルにとって怖いものではない。魚を取る時、少し怪我をすることはあったが、それくらいのことで、彼は恵みの海を恐れはしなかった。


 無造作に海へ飛び込み、ハルは目当ての大物を狙う。程なくして、彼は自身の背の半分以上はあろうかという大魚を見つけ、銛の狙いを定めた。


(ようし、ここまで来たらこっちのもんだ)


 銛の漁に、ハルは充分慣れている。その慣れに油断があった。狙いをつけ、銛は素早く大魚を刺し抜いた! しかし急所がわずかに外れ、眼前の死に怒り狂った大魚は、猛然とハルに向かって突進して来る! 彼は捨て身の反撃をかわすことができず、足に大傷を負ってしまった。大魚は銛が体に刺さったまま、死物狂いで沖へ逃げていく。


「ぐっ……。痛い……。なんとか帰らないと……」


 かろうじて浜辺まで辿り着いたハルは、動かすことも困難な足で、這うようにしてカレンが待つ家へ戻った。




 精巧すぎるアンドロイドは、女神かと疑うような能力を備えている。カレンは、ハルがどこかで怪我をして帰るたび、両手のひらを彼の傷にかざし、優しい暖色の光で、たちどころにやんちゃな息子を回復させてきた。しかしこの大傷は、そのようにはいかない。


「どうしてこんなことに……」


 大傷はふさがってはいるのだ。だが、カレンの回復光にも限界があり、完全には治っていない。血を大量に失ったハルは、体力と抵抗力を失い、傷から入り込んだ病原菌により、高熱を発する大病にかかっていた。こうなってはカレンにも為す術はない。熱を和らげ、必死に見守ることしかできない。


「はあはあ……。母さん……」

「どうしたの? お母さんはずっとここにいるわ。大丈夫よ、ハル」


 高熱に浮かされながら、ハルはカレンに微笑んでいる。その微笑みが何を示すのか悟ったカレンは、すぐにありったけの回復光をハルの体に注ぎ込んだ。


「いいんだ……。母さんが駄目になっちゃう……」

「私はどうでもいいの! ハルは生きなきゃダメ!!」

「母さん……。俺、母さんの子でよかった……。楽しかった……ありがとう」

「ダメよ!! 生きて!!!」


 安らかな笑顔を残し、母を一人残し、ハルは黄泉へ旅立つ。全てを失ったカレンは、ハルの遺骸を抱き、一晩中泣き続けた後、焦点を失った目で、茫然と潮騒の響きを聞いていた。


 寄せて返す波は幾星霜も繰り返すが、ハルはもう戻ってこない。最愛の息子に旅立たれた聖母には、もう絶望を通り越した心しか残されていなかった。

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