第12話 古き紋章
多くの古代人が暮らしていたのであろう、集落というより、一つの村か町があったと言えるほど古代遺跡は広く、10数人が手分けして探索しても中々骨が折れた。
「ここはどうかな? おや? この箱は?」
ハルも探索者の一人として、かつて人が住んでいた民家や店と思われる痕跡を丹念に調べている。それをコツコツ続けていると、彼は自身の膝くらいの高さがある石の箱を発見した。それはちょうど小さな本棚くらいの奥行きがあり、金属の装飾がうっすらとまだ残る。
明らかに重要物だと判断したハルは、シリルやレイラ、皆を呼び集めて箱を開けてみることにした。2、3人でこじってみると、石の箱蓋は思ったよりすんなり開き、中には数枚の羊皮紙と、何かの鳥が羽根を広げているのだろうか? それが紋章として彫られている金属製のレリーフが一つ入っていた。レリーフを作っている金属の種類は不明だが、手のひらに収まる大きさだ。
「これはお宝だな! よく見つけたな、ハル君」
「へへへっ、ありがとうございます。でも、いったい何の意味があるお宝なんでしょうね?」
「分からんなあ。アンカーレストへ持ち帰って調べてみるしかないな」
石の箱で保存されていたとはいえ、古代文字が書かれた羊皮紙は気の遠くなるような歳月を重ねており、気をつけて持たなければ崩れてしまいそうだ。シリルは手先が器用な自警団員に手袋をつけさせると、用意していたガラスの容器へ慎重にお宝を移し替える。
その後も、古代遺跡の残り区画を調査したが、特にそれ以上、目ぼしい物は見つからず、調査を終えてシリル率いる魔物討伐隊は、町へ帰還した。
「ふーむ、こりゃあ久しぶりに驚いたぞ」
白く長い髭を撫でながら背丈の小さい老翁が、羊皮紙と鳥の紋章のレリーフをじっと見続けている。傍にはハルとレイラ、それにソフィアもいて、三人ともこの老翁がどんな鑑定をするか、非常に興味津々だ。
「セトおじいちゃん、いったい何なの? これ?」
老翁の小ささに似つかわしく、小ぢんまりした木造りの家の一室で、ハルたちはお茶を飲みながら待っていた。時間をかけて古代遺跡のお宝を鑑定する老翁の名は、セトと言う。この翁はアンカーレストの主であり、何年住み着いているか誰も知るものはいない。絶大な魔法力を持つ生き字引であり、ハルとソフィアにとって、魔法の師匠でもある。先日までフラフラと旅に出ていたようで、やっと放浪から帰ってきた。
「そうじゃなあ、このあたりから話すかのう」
遠い昔を懐かしく思い起こすように、セトはゆっくりと語り出す。それは一つの物語であり、壮大な広がりを持つものだった。