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【室町編】②★たかが一人の女性の行動によって未来の歴史が変わるとかありえないでしょう

「よりによってあの室町時代の日野富子に転生するとかないわ」

私は深い溜息をつき、これから起こるであろう歴史的展開に思いをきたす。

日野富子。

日本三大悪女の一人。ちなみにあとの2人は、北条政子と淀だったかな。

応仁の乱。

約11年にわたる間断のない戦乱の末、京都の市街全域は焼野原と化す。

その戦乱の発端、元凶と言われる日野富子。

室町幕府八代将軍足利義政の正室。

16歳で義政の正室となり、20歳の時に第一子の男子を出産するも、すぐにその子を失ってしまう。

それ以降、義政夫妻は男子に恵まれず、半ば諦めた義政は弟義視を還俗させて後継者に指名する。

そしてこの義視の後見人となったのが室町幕府管領の細川勝元。

しかしその直後に富子は実子義尚を出産する。

彼女は、自分がお腹を痛めた義尚を溺愛し、将軍職をつがせるべく細川勝元の政敵である山名宗全に接近する。

この将軍継嗣を巡った細川勝元と山名宗全との対立を背景にして、管領家畠山氏のお家騒動をきっかけに応仁の乱が勃発する。

富子は将軍正室という立場上、形式的には義政とともに東軍に属していたが、裏では山名宗全と通じ義尚を将軍職につけるべく画策する。

さらには、両陣営へ米や金銭を貸し付けて自分の懐を増やすなどやりたい放題であった。

そして戦のさなかに細川勝元、山名宗全が死去。

膠着状態になりつつもだらだらと長引く戦乱。

政治への意欲を失った義政が富子と別居し趣味の世界に閉じ籠るようになると、必然、富子が幕府の実権を握ることになった。

そして両陣営を揺るがす驚天動地の事件が起きるのだが・・・


・・・日野富子か、最低だな・・・


・・・戦争とか、嫌だな・・・


・・・これからどれだけの人たちが亡くなっていくんだろう・・・


富子の前世の時代。

それは決して平和で豊かな時代とは言えなかった。

領土、領海を巡っての近隣諸国との慢性的な緊張と紛争。

国内のおける貧富の差、格差社会の拡大。

住民の暴動や犯罪の多発。

私服を肥やす政治家や官僚たち。

そして度重なるパンデミック。


本来であれば、そういった政治・社会問題を先陣を切って解決すべき立場が五大名族を中心とした貴族階級であるはずなのに・・・

何もできそうもなかった自分。

何も変えれそうになかった私。


そして、この時代、いままさにおきつつある大乱・・


多くの人が命を奪われ、住む場所を焼かれていく・・・


でもこれが全部が日野富子の行動がきっかけなの?

全部、これからの私のせいなの?

たかが一人の女性の我儘によって歴史的大乱が起きるとかありえないでしょう!

そんなのあってはいけないでしょう!


でも、確か歴史は変えちゃいけないって法則があったか・・・


でも違う!


これは違う!


そんなのあくまでも前世の記憶での世界の話!


私のこれからの行動が、あの未来に影響するかなんてわからないじゃん!


前世のあの世界といま私が生きているこの世界が同じ世界線だと決まっているわけじゃない!


むしろ、もしかして神様がこの狂った歴史の歯車を変えるために私を転生させたのかもしれない!


そしてことの発端が、私日野富子と足利義政の婚姻!


だから私は・・・・


自分の思うように・・・


私の好きなようにしよう!・・・・


私の前で若い男性が丁重な態度で私の怪我についての謝罪を行い、その上でその責任の取り方について、説明している。


「富子様、いかがでしょうか?」一通り言上を終えた彼は、私の目を見つめながら返答を促した。


「お断りいたします!!」私は即答した。


「えぇぇぇぇぇ???」

挿絵(By みてみん)


その場に居合わせた者は皆、私の拒絶の言葉に驚嘆する。

「いや、しかし絶世の美女とうたわれております富子様の美しいお顔を傷をつけた責任は・・・」驚いた彼は続ける。

「美人?私のどこが?そもそも私の自業自得でしょ、これ」

「しかし、それでは富子様の将来が・・・」

「私の将来?!だから余計お断りいたします!!」”将来”というワードに少しカチンときた私は、なお一層語気を荒めて拒絶する。

「姫様!どういうことですか?!」侍女筆頭である竹林が私を叱るような目で睨む。

「竹林。どうもこうもないわ。言葉通り、このお話、お断りします」

「はぁ?仮にも六代将軍足利義教の庶子、いずれは将軍になられるかもしれない足利義政様からのありがたい申し出ですよ!それを簡単にお断りできると思っているんですか?」竹林は他の侍女と異なり私に遠慮なくずけずけと物を言うタイプ。はっきり言って嫌いじゃない。

「できると思っているから、そう言ってんじゃん」必然、私の物言いも雑になっていく。

「姫様はこの間、頭を打ってからというものの、少し、いやかなり頭がおかしくなっておりますね。ああ、義政様、このような状況ですので改めて・・」竹林は義政に向かって頭を下げる。

「改めなくていいわよ!それに義政殿。あなたはこんな日野富子と本当に結婚したいのですか?別に私のこと好きでも何でもないでしょ?」私は竹林の言葉を遮る。

「はっ?私ですか?私は・・」意表を突かれ言葉を慎重に選ぼうとする義政。

「日野富子の評判知ってるでしょ?利己主義で高慢で計算高くて、狡猾な女よ。あと私ガチレズなんですけど。貴方には、こんな女より好きな女性とかいるでしょう?今参局とか」私はまくしたてる。

「はは、そうですね。今参局ってのが誰だか知りませんし、ガチレズってのが何か分かりませんが。」私の言葉に怒るでもなく、何故か薄い笑みを浮かべる義政。しかし嫌味な感じはしない。

「はっきり言いますね。仰る通り、私は富子様が別に好きでもなかったし、結婚したいとも思っていませんでしたよ。まあ、元々私には好きな人なんかいませんでしたし、そんな人ができるとも思ってもいませんでした。将軍庶子の結婚なんてそんな恋愛感情とは無縁の単なる政治的道具だと思っていました。」

「でしょ?」

「いや、でもそれはさっきまでの話。だって今、私はあなたの事が好きになりそうですから。まあ、でもわかりました。今日は引き上げさせて頂きます。」

「あ、そ、そりゃどうも・・・」彼の言う「好き」という言葉の意味を大して重いものとは受け取らずに返答する私。

そもそも男性からの「好き」という言葉が感覚的に理解できていない。ガチレズなんで。

「だけど私はあなたを諦めませんよ。だから、私はあなたの事をもっと知りたいと思っていますが、それはそれで構いませんか?」

「構わないわ。きっと貴方は私を知ってもっと幻滅すると思うわ。」まるで売り言葉に買い言葉である。

「きっと幻滅なんてしませんよ。むしろ、もっと好きになるんじゃないかな、ガチレズの姫君とやら。じゃあ、今日はこれで」そう言い残し義政が帰っていった。



・・・や、やばい・・・


・・・やっちまった・・・


・・・こんな事してしまった暁には・・・


今さらながら我に返る。

「あれれ?私何を言っていたのかなあ、多分、悪霊がとりついていたのでしょう、こういう時は散歩でもして・・・」私はすかさず逃げようとするが、

「姫様!!!待ちなさい!!この侍女筆頭竹林から大切なお話があります!日野家の姫君として必要な品位、振る舞いについてゆっくりとお話させて頂きます!」

竹林は逃してくれなかった。そして小一時間の間、たっぷりと説教を受けげんなりとした私であった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

時は一昨日に遡る。

ここは花の御所。


「日野富子様ですか?」俺は父上足利義教からその名前を聞いた。

「ああ、そうだ義政。日野家の姫君だ。その姫が先日、ここにお見えになられた」

「父上、存じております。庭でお怪我をなされたという」

「そう、庭の石に頭をぶつけられてお顔に傷をつけられたそうだ」

「それはいたわしゅうございます」

「そもそも、今回重正殿は、当家がここに招いたのじゃからして」

「はい」

「当然、当家から姫様へのお見舞いをせんとならん」

「はあ」

「はあじゃないが!義政!お前が行くのじゃ」

「わ、私がですか?」

「日野家の姫君を傷物にした。この落とし前はつけんと。お前がそれをつけてくるんじゃて」

「はぁ、落とし前ですか」俺は父義教の雑な物言いに苦笑する。相変わらず、豪胆な人だ。

「その場の状況、先方の態度によって、お前が考えるべき最善の策をとってこい」

要は、傷物にした姫君を当家に迎えるべく求婚せよということだ。


そして俺は、日野富子にあった。

俺の人生を大きく変えた女性に。

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