表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/19

【室町編】⑲★恋人と彼女

「なんじゃと!有馬の娘が行方不明じゃと!」烏丸資任は激怒する。

「はい、御所様。今依様は一昨日、有馬の屋敷を出奔されて以来、いまだ行方知らずとの事で・・」側近は恐懼して答える。

「どういう事なのだ!説明せよ!」憤懣やるかたないといった資任は説明を求める。

「これは、有馬の家にいる当方の間者からの連絡なのですが・・・」側近は説明を始める。

「一昨日の事です。不遜にも当家を名乗った黒衣の男が有馬の屋敷を訪れて、今依様の引き渡しを持家殿に求めたのです。

しかし今依様がそれを拒んだため、黒衣の男とその手勢が無理やり連れ去ろうとしていたところ、突如二人の若武者が現れ、今依様を連れ去ったという事なのです。」

「その者たちは一体何者なのじゃ?」

「当家を名乗った黒衣の男とその手勢の正体はわかっております。河内の土豪楠木友利の配下のものと思われます。」

「なんと?河内の楠木か!一体何のために?」

烏丸資任は、楠木友利の行動の目的を考える。


・・・彼女を人質にして、何か当家との交渉を行う事が目的か?・・・

・・・確か、ある所領を巡って当家と楠木との間に諍いがあったはずだ・・・

・・・あるいは、持家が今依の引き渡しを拒むために、楠木に頼んで誘拐させようと企んだのか?・・・

・・・あいつの性格からすれば、むしろこちらのが合点がいく・・・

・・・しかしなぜ?・・・


「楠木の事はさておき、それでその二人の若武者とやらのほうは?」資任は続きを促す。

「申し訳ありません。それがとんと分からないのです」

「わからない?このたわけが!」

「申し訳ございません。しかし例の間者が申しますに、二人組の片方は人間離れした猛者だったそうです。なんと、この者一人で十数人の荒くれ者をねじ伏せたというのです。その動きはまるで天狗のようであったとも。」

「天狗?」

「そして、その者が名乗るのを聞いたのです。我こそ安倍晴明の生まれ変わりであると」

「安倍晴明じゃと?馬鹿な事を言うな!」

側近を叱りつつも、この国の最高の魔道の大家である烏丸資任は、安倍晴明の魂がいままで多くの人間の肉体を乗っ取っ生き続けているという説を否定していない。

烏丸の家に残る過去の文献のいくつかにも死んだはずの安倍晴明との接触を示すものが残っているのである。

そして先日の細川勝元の奇行こそ、安倍晴明の魂によるものではないかとさえ思っている。


・・・もし本当に安倍晴明であれば、稀有な有馬今依の能力に気づき、それを欲さない理由はないだろう・・・

・・・もし、相手が安倍晴明であれば安易に敵対するのも得策ではない・・・


そんな事を考えつつも引き続きの調査を命じる烏丸資任であった。




一方、こちらは楠木の館。

「まったく洒落になりません!御父上!」黒衣の僧服の男は頭巾を脱ぎながら楠木友利に向けて怨み言を言う。

その顔は赤く腫れあがっていた。

楠木友利の嫡男、楠木正利くすのきまさとしである。

館の大広間には、彼の他にも大勢の怪我人が女たちから治療を受けている。

有馬今依を拉致ろうとしたあのならず者たちであった。

「御父上はちゃんと永園殿に手加減をお願いしたのでしょう?それなのに!」父を難詰する正利。

「正利。死人や深い手負いは?」

「さすがに、そこまではおりませんが・・・」

「永園殿は何か申しておったかか?」

「最初に謝罪を。そしてその後、今日、私は機嫌悪いと申しておりました。」

「ハハハ、そうか、そうか。では、それが永園殿の手加減というものであろうよ。命あったことを喜ぶべきじゃ」鼻で笑う楠木友利。

「父上の酔狂には開いた口が塞がりません!わざわざ我々が准大臣の手下のように装って有馬今依を攫うところを若武者に変装させた日野様たちに救出させるとか。

わざわざ、そんな手の込んだ事をする意味がわかりません。」

「まあまあ、いいではないか。ところで事の次第は、准大臣側には伝わっておろうな?」

「はあ、有馬には当方と准大臣の2重の間者がおりますので、その者を通じて今頃は」

「ハハハ、准大臣殿の悔しがる顔は想像できるわ」

「御父上、笑い事ではないのです!」

「しかし正利よ。今日の事でわかっただろう。」

「はい、わかりました。まだまだ世の中に豪の者がいるということが・・」

「違うわ、未熟者。女の嫉妬は恐ろしいという事だよ」

「嫉妬ですか・・」

その言葉の意味が理解できなかった正利ではあるが、女性経験についてはその父親よりも豊富だった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

さてこちらはその嫉妬の元凶。


「それで、富子様は大事な大事な幼馴染を恋人にされたというのですか!?」顔を紅潮させている菫。

「ちょっと富ちゃん!なんでそんな事までいちいち説明する必要があるのよ!」今依は口を尖らせる。

「いや、だって、あの後の状況を菫が知りたいって言うから・・」と富子。

「今依様!」

「なに?菫。あと他人がいない時は麻衣でいいから」

「じゃあ。麻衣さん、言っときますけど、今の私は富子様の彼女なのですよ。」

「ふーん、そうなんだ。よかったね菫。ちなみに私は恋人だけどね」

「富子様!」今度は富子のほうを睨む菫。

「何?」

「富子様にとって恋人と彼女のどっちが大事なんですか?」

「はっ?同じものだけど」

「同じ?同じじゃだめなんです!」

「あはっ、菫ってなんでこんな嫉妬深い子になったの?富ちゃんの教育のせい?」麻衣は笑う。

「嫉妬なんかじゃないです!それだけ富子様を想っているだけ・・な、なんです・・」ついには菫は嗚咽を始める始末。

「まあいいじゃない。今の時代は一夫多妻制なんだし」迂闊な事を口走る富子。

「はぁ?富ちゃんがその口で言うの?なんかさっき聞いた話じゃ富ちゃんは応仁の乱を防ぎたくて義政との縁談を断ったそうじゃん。」麻衣は目を剥いた。

「うん、まいん、そうだよ」

「一夫多妻制。それこそが戦乱の根源でしょ?」

「でも女同士だし、そもそも子供とか後継者とか関係ないし・・・」

「関係あるわっ!養子縁組とかあるだろ!それで揉めたんだろう!でもさあ、菫」

「なんですか?麻衣さん」

「菫は、富ちゃんを独占したいっていうのとは違うと思う」

「それは、自分でもよく分からないのです。」

「菫は怖いんだと思う。富ちゃんを失って、また自分が一人になることが。それは私もわかるよ」

「麻衣さん・・・」

「誰だって一人になるのは嫌だよね。じゃあさ、あたしは菫とも付き合うことにするわ」

「えっ、麻衣さん、何言っているんですか?」

「皆で二股かけあえばいいじゃない。それが保険になるのよ」

「まいん、何それ?三方一両損みたいな解決法?」

「富ちゃん、さらに頭悪くなった?誰も損していないじゃない。これは互助よ互助」


「ねぇ、麻衣。その互助には私は入れてくれないのかな?」

「えっ!」思わず新たな声の主のほうに振り向く麻衣。

「麻衣、お帰り。あれ、これでいいのかな?」可愛らしく首を傾げる桜。

「桜!ただいま!って逆だよね」麻衣は桜の身体をぎゅっと抱きよせる。

「じゃあ、ただいま麻衣」

「お帰りなさい、桜。遅かったね。ご飯にする?お風呂にする?」

「うーん、やっぱ元に戻そう。」


「何、みんな楽しそうじゃん」良子が合流してきた。

「これで5人、みんな過去の世界に転生したってことだよね。これって偶然なのかな」と富子

「富子様、そうとは思えないです」と菫

「だよね。何かの目的をもって転生させられた。送り込まれたって感じがしないでもないね」良子も同意する

自分たちが過去に送り込まれた目的とか意味とかを語り合う彼女たち。

しかし何故か麻衣だけは沈黙を続けていた。

彼女は考えている。


・・・果たして、ここは本当に自分たちのいた世界の過去なのか?・・・


・・・別の平行世界という可能性もある・・・


・・・あるいはやり直しの「2周目」の世界とか・・・


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ