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【室町編】⑮双子ゲーム あるいはプリンセス・プリンシパル

「双子当て?良子様、久しぶりにこちらの屋敷に戻られて、まずやることはそれですか?」

久方ぶりに日野家に戻った良子の初手に竹林が眉をしかめる。

「久しぶりに会って言うことはそれなの?竹林はつれないねえ」

「この遊びするのは久しぶりにだね。良子姉ぇ」富子は嬉しそうだ。

「富子、これは遊びじゃないのよ。足利義政様が夫たるに相応しい人物かを見極めるための重要な試練なのですから」

「そういえば姫様たちは、幼少の頃はいつも同じ服と髪型でしたね。周りの人が見わけできなくて困ったものでした。」

「そりゃそうだよ。あたしたちは双子だしね」と富子。

「・・まあ厳密には違いますが・・」竹林は独り言ちる。

「え、竹林なんか言った?」

「いえ、何も。しかし元々瓜二つなのですから、わざわざ服装も髪型も同じにしなくてもいいかと。さて、できましたよ。」

竹林は2人の髪を同じように結い終わった。

あるで合わせ鏡のような良子と富子。

確かに、これでは誰しも2人の見分けは、つかないだろう。

「時に竹林は、私たちが子供の頃から見分けできていたよね。なんで?」富子は今さらながらの質問をする。

「それは筆頭侍女だからです」

「つまらない答えだなあ」富子はがっかりする。

「愛あればこそだよ。だからこれで義政の愛の深さを推し量れるわけじゃん」と良子。

「良子姉ぇ。まあ見た目は完璧だけど、あとは喋り方だよね。」

「富子。そこはカンペを用意したわ。基本的にここ書いてあることを言えばいい。あんたは無駄な事いわないこと」

「準備いいなあ。あ、そうだ。それとお姉ぇにいい事教えてあげる」そう言って、富子は良子に耳打ちする。

「そうか、それはいい考えね」良子は不敵な笑みを浮かべる。

「お見えになったようですよ」竹林は義政の来訪を告げる。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あは、本当にこんな事をされるのですね」瓜二つの2人の姿を目の前にして義政は失笑する。

「では質問です。のび太くん。どっちが富子で、どっちが良子でしょうか?」

義政から向かって右側に座った女性は口を開く。

その喋り方は、まさに某国民的アニメの猫型ロボットのようだった。これをすると喋る際の本人の特徴を消すことができるという富子の入れ知恵だった。


「ふむ」義政は下を俯き目を瞑る。


・・・時間が過ぎていく・・・


「義政さまは、やはり愛する女の顔がわかりませんか?」と右側の女性。あのダミ声でだ。


そしておもむろに顔を上げた義政は、右側の女性を指さす。


「義政さまは、添い遂げたいと思わる相手の声をお忘れですか?」今後は、左側の女性が問う。当然、ダミ声で。


「うむ」義政は腕を下して組み。再び目を瞑る。


・・・また時間が過ぎていく。・・・


「抱きたいと思う女の肌の香を覚えておりませんか?」今度は右側。


そして今度は左側の女性を指さす。


このようなやりとりが続いていく。


「義政様、そろそろよろしいですか?最後の回答をお願いいたします。」と左側の女性。


「では」そう言って、義政は右側の女性を指ししめした。


「わ、わたしですか?」


指さされたその女性は少し驚きを見せた。


「はい、貴方が・・」義政は右側の女性を指さしたまま続ける。


その瞬間、義政には、左側の女性が一瞬残念そうな顔をしたように感じられた。


「貴方が、日野良子様です」


「えっ」


良子と富子は呆気にとられる。


「流石は、義政様!残念ながら正解ですよ。さよう私が良子です。」良子は例のダミ声から普段の声に戻す。

「良子姉ぇ、負けちゃったね」と富子。

「勝ち負けで言うと、私も負けですね。」義政は意外な事を言う。

「お二方の姿、声、仕草を見て残念ながら私には区別がつきませんでした。だから時間稼ぎをさせて頂いた。そしてお二方の足を観察させて頂きました。富子様は正座も苦手で、長い時間じっとしていられない性格ですからね」

「流石は、義政様。なかなか姑息な作戦ですね」と良子。

「はは、得意なのですよ。偽物を見抜くことは」やや自嘲気味の義政。

「偽物ですか?どちらが?」良子は首を傾げる。

「それはもちろん、普段と異なって畏まって正座している富子様のほうですよ。」

「偽物とかひどいなあ」すでに下品に足を崩している富子の言葉に説得性はない。

「私も偽物ですからね。そういう事は、よくわかるのです」

「くやしいなあ、義政様、そのうち是非とも再戦お願いしますよ!次は負けませんから」富子は鼻息を荒くする。

「再戦、御受けしますよ。まあでは次には、良子様が偽物にでもなって、私を負かしてください。」


しかし、義政様には、最後の瞬間、左側の女性が富子に見えていたのである・・・


理屈ではなんとも名状しがたい気持ちではあるが、彼女こそが富子であると・・・・


・・・そんな事はまだ言わなくていいだろう・・・ 義政はそう考える。


「望むところよ、ねえ富子!」そう言って富子のほうを向いた良子。


その瞬間!


口を開けたまま良子は固まっていた。


「思い出した!」


「良子姉ぇ!何を?」


「私が『富子』だったわ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

それは前世で二人が5歳の時。


「今日は、富子ちゃんにお迎えが来るんだよね」

「うん、良子お姉ちゃん、今日行くよ。土御門の叔父さんのところに」

「叔父様優しいし、あっちには色々面白い玩具あるからいいなあ」

「良子お姉ちゃん、あたしすぐに帰ってこれるよね?」

「富子ちゃん、当たり前だよ」

「そうだよね。でも少しの時間だけど良子お姉ちゃんと別れるのいやだな」

「ねぇ、富子ちゃん。じゃあ双子ごっこしよう」

「いいけど、どうするの?」

「あたしが代わりに土御門さんの家に行ってみるよ。それでばれないかの実験だよ」

「良子お姉ちゃん、面白いね。それ」

「うん、だから、うちでは富子ちゃんはあたしのふりしててよ。パパもママも明日から旅行だし、それでばれないでしょ」

「良子お姉ちゃん、どれだけばれないかなあ。」

「まあ3日くらいかなあ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「しかし、富子に変装して土御門家の養子に入った良子は、二度と日野の家に戻ることはありませんでした。めでたしめでたし」

「良子様、それ、めでたい事なんですか?」ベッドを共にする良子と菫。

「ごめん、菫、ちっとも、おめでたくないね」良子は目を伏せた。

「私には、その話、よくわかりません」

「だってさ、本来は私が土御門にいくはずだったんだよ。そして死んでいたのは・・・」

「それが良子様が私と付き合おうって言ってきた理由なのですか?」

「菫、どうだろう。罪滅ぼしかな」

「罪滅ぼし?」

「いや違う、さらに罪を重ねている、こうやって」そう言って良子は菫の唇を奪い、すぐに離す。

「良子様。であっても、私の富子様は富子様です。あなたは良子様以外に何者でもありません。それに・・」菫は良子の瞳を見据える。

「それに?」

「唇の味が全然違います」

「あはっ!そうだね、そうだね、菫!その通りだよ」


あっけらかんに笑う良子の姿が、菫には却って痛々しく感じるのであった。

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