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【室町編】⑭★享年26歳

挿絵(By みてみん)

「桜ちゃん?でいいんだよね?六分寺の」富子は春姫に確認する。

「うん、富子お姉ちゃんも転生してたんだね。そっちは永園菫ちゃんでしょ?」と春姫。いな転生した六分寺桜。

「桜ちゃん、そうだよ。なんで分かったの?」と富子は不思議そうな顔をする。

「分かるよ、それくらい。同じ転生者同士、なんか通じるものがあるって言うか」

「六分寺さん、いいですけど、余計な事は言わないで下さいね」菫が釘を刺した。

「菫ちゃん、余計な事って何?例えば、菫ちゃんが良子お姉ちゃんと付き合っていたとか?」お構いなしの桜。

「えええええええええ!そうなの?菫!」目を丸くする富子。

「い、一時的にです。そういう六分寺さんだって、烏丸様とお付き合いされていたではないですか!」菫は狼狽する。

「えええええ!菫!その話詳しく!」富子は興奮している。

「付き合ってた?だったら嬉しいけど、多分違うな、あんなの私の一人相撲だよ」少し寂しそうな顔の桜。

「六分寺さん・・・すいません」菫は余計な事をいったと思い反省する。

「いいよ、別に。麻衣はやはりずっと忘れられなかったんだよ。あの人が・・・だから私には本気で振り向いてくれなかったんだ。」

「それは違います!」菫は語気を荒めた。

「何それ!こんなに可愛い桜を袖にするなんてまいんも見る目がないわ、それに誰よ。そのまいんの想いの人って!」富子は口を曲げる。

「富子お姉ちゃんは、相変わらずの困った性格なんだね。」苦笑いの表情で菫を見やる桜。

「はい、富子様は、相変わらずなのです。」菫も苦笑する。

「では、皆さま、私、六分寺桜。享年26歳。以後お見知りおきを」



・・・しかし享年26歳か・・・・


六分寺桜は、前世のあの日の事を思いだしていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「お姉さま!六分寺様!」

「桜様!お姉さま!」

「しっかりなさって下さい!お姉様!」

「目を開けて下さい!お姉様!」


・・・お姉様?・・・


・・・ああ、私の事か?・・・


・・・私はいつも誰かをお姉ちゃんって呼んでいたな・・・


・・・ふーん、お姉ちゃんと呼ばれるのって、こういう気持ちなんだ・・・


・・・悪くはない、悪くはないけど・・・


・・・ちょっと違うな・・・


・・・だから、私が悪かったんだよ・・・


・・・あれ、みんな泣いてるの?・・・


・・・ああ、私死んじゃうのか・・・


・・・最後に見た顔、知らない顔だな・・・


とめどもない事を考えながら徐々に意識が遠くなるのを感じる桜。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

それは今朝の事。

「麻衣お姉ちゃん、昨晩も徹夜?あんまり無理しないでね」コーヒーカップを手に桜は麻衣に声をかける。

「おはよう、桜、そこに置いといて」桜のほうには見向きをせずに一心不乱にキーボードを叩き続ける麻衣。

そう、あの日から麻衣は変わってしまった。

麻衣は、変わらずにはいられなかった。

10年前の悲劇。

自分の身代わりになって命を落とした大好きな幼馴染。

完璧だったはずの警備システムの網を搔い潜り、一片の証拠さえ残さずに消えていった暗殺者。

その謎を解き、犯人を捜すための糸口。

それをつかむために蟻一匹の動きさえ見落とすことのない完璧な監視と統制システムを構築すること。

それが、烏丸麻衣が目指したものであった。

帝国魔術科女学院を退学して、府立の進学校に入り直して京都帝大のシステム工学部に進んだ。

類まれなる魔術能力を持ちながらも、それを捨てて科学サイドへ転向した彼女の事を両親は理解できなかった。

度重なる口論の末、家を飛び出した彼女は帝女時代の1年後輩の六分寺桜を頼った。



「今日、桜んち、泊めてくれないかな?」

・・・麻衣から、そんな電話を貰ってから、もう6年か・・・

・・・麻衣は随分変わったよな・・・

・・・以前とは別人だよ・・・

穏やかで、誰にでも優しいお淑やかな将軍家の御令嬢。

しかし、今の麻衣ときたら、自分勝手で、我儘で、気分屋で、性格がひねくれている。


・・・愛する人の死によって、人ってそこまで変るんだね・・・

・・・じゃあ、私が死んだら、変わる人はいるのかな・・・・

・・・麻衣は変わるのかな・・・


桜は22歳の誕生日に麻衣に告白した。

「うん、いいよ。桜にはお世話になっているから」


・・・私にとって桜はそういうんじゃないから。妹みたいなものだから・・・


桜は、そんな風に断られると思っていたのに、麻衣の口から出た言葉は意外だった。

お世話になっているとか随分と残念な言い方であるが、桜は素直に嬉しかった。


「じゃあ、これからもずっとお世話するよ、麻衣お姉ちゃん」麻衣に向けて満面の笑みを浮かべる桜。


・・・ああ。そうか。ダメだったのは私じゃん・・・


・・・私は、妹という立場を利用して卑怯な事をしていただけか・・・


・・・どうせ、麻衣のあの人への想いには勝てっこないから・・・


・・・麻衣の側にいるには、これしか方法がないから・・・



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「桜、今日は新交通システムのお披露目だよね?」突然の麻衣の言葉に桜は現実に引き戻される。

「うん、そうだよ。デモンストレーションには、私の後輩ちゃんたちも参加するんだよ。」

「後輩?ああ帝女のか。」

「新型の大型自動運転車輛には、帝女の生徒と私が乗ることになっているのよ。じゃあ私行ってくるね」

そうして桜は麻衣に軽い口づけをして家を出た。


新交通システム。

政府と六分寺重工が中心となって進めている無軌道型無人交通システムである。

今日のデモンストレーションでは、大型の無人バスに帝女の生徒20人とマスコミ関係者が乗り込み、他の有人運転車輛と同じ道を走行する内容であった。

万一の際の技術サポートとして同乗する桜を次期六分寺家の頭領としてお披露目する意味も兼ねていた。


そして無人バスが油小路高速道に入った直後に事件が起きる。

反政府勢力のテロリストが無人バスに向けて発砲したのである。

2名の女子生徒が即死し、多くの怪我人が出た。桜も腹部に銃弾を受けた。

さらにその銃弾は無人バスの電子制御システムにも重大な損傷を与えた。

無人バスが暴走を開始したのである。

桜は激痛に耐えながらも、暴走した自動走行システムを停止させ、自らハンドルを握った。

緊急無線を使い、バスの停車予定場所を伝え、救急要請を行う。

桜はそのバスと救急車が最速で合流できる場所を探して目的地に設定する。

激痛に耐えながらも、これ以上の被害を増やさないようにできる限りの事をした。

ようやく目的地に到着してバスを停車させた桜。

ブレーキロックをかけた瞬間、桜は運転席から崩れ落ちる。

自分たちの命を救ってくれた恩人の周りで涙を流しながらその名を呼ぶ女生徒たち。

救急隊員がバスの中に飛び込んできた。

女性の隊員だ。


・・・女性の救急隊員とか珍しいな・・・ 


意識が薄れていく中でそんな事を考えていた桜。


「みんな、ありがとう・・」それが桜の最期の言葉であった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ねぇ、菫ちゃんは、何歳で死んだの?」

「六分寺さん、その質問は、何歳まで生きたかと聞くのが礼儀だと思いますが。」

「同じことじゃない。相変わらず菫ちゃんは硬いなあ」

「66です。烏丸様より先に死にました。だから烏丸様が何歳まで生きられたかは、知りません。」

「ふーん、じゃあさ、私が死んだ時に麻衣が、何て言ったか教えてよ」

「それは、聞かないほうがいいと思いますが・・」

「その判断は、聞いてから、私がするよ」

「聞いてからですか?まあ、わかりました。烏丸さんは、大嫌いだと仰ってました。六分寺さんの事が大嫌いだと。あと嘘つきだとも言ってました」

「あは、麻衣らしいわ・・・でも・・・麻衣・・・ごめん・・・ほんと、ごめん・・・」桜は一瞬笑顔を浮かべたが、すぐに両手で顔を覆う。美しい瞳からボロボロと大粒の涙が落ちる。


菫もあの日の事を思い出していた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「烏丸様、ご無沙汰しております。六分寺様の事は・・・」

「ああ、菫か。なんかこの前と逆のパターンね。面白い・・」端末を見つめたまま素っ気ない返事をする麻衣。

「私に烏丸様を慰めることなんてできないと思っております」

「私も別に菫に慰めて欲しいなんて思ってないよ。だって、私、桜なんか」

「烏丸様?」

「桜なんか!あんなやつ!大嫌いっよ!」

「・・・・・」

「あの馬鹿!なんでこんなに早く死んじゃうのよ!」

「・・・・・」

「桜言ったのよ!私に!ずっと面倒見てくれるって!」

「・・・・・」

「ずっと迷惑かけてやるつもりだったのに!嘘つき桜なんか大嫌い!」

「烏丸様・・・」

「なんでなの!なんで私にとって大切な人が、皆いなくなるの!私が悪いの!?」

「・・・・・・」

「富子だってそう!もう富子も桜も大嫌い!!大嫌い!」そう叫び、号泣する麻衣。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・こんな話を桜にしても意味ないだろう、


・・・いや、あの言葉だけで桜は全てを悟ったんだろう


そう考えた菫は、今度は富子のほうに顔を向ける。

「ちなみに烏丸様は富子様の事も大嫌いって言ってましたよ」

「なにそれ!酷いなあ、まいんも」こっちは鈍感の女王である。

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