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【室町編】⑬蛞蝓豆腐

漆黒の闇がどんどんと大きくなっていく。

「菫!」

富子は菫のほうに駆け寄り、その身体を抱き起す。苦しそうに喘ぐ菫。


・・・ああ、さすがにこの状況ではもうダメかな・・・


・・・折角、転生したのに、ここでお仕舞なのか・・・


・・・何もできなかったな・・・・


・・・また、私、何もできなかったよ・・・・


・・・誰も助けられなかったよ・・・


・・・不甲斐ないよ、不甲斐なさすぎるよ・・・・


死への恐怖というものはない。


むしろ自分の情けさなさに涙が出る、


・・・菫、ごめん・・・


苦しそうな菫の顔を撫でる富子。



すっ



・・えっ?・・


富子は、背中を向けて自分たちの前に立っている人影に気づいた。


・・うそ、なんで?・・


両手を広げた春姫、本物の春姫が勝元の前に立ちはだかっていた。


「勝元様、貴方だけは許せません!」春姫は勝元を睨む。

「誰だお前は?ああ、この女のお付きの侍女か。じっとしておれば命まで取らぬものを。では三人一緒に仲良く死んでいけ!さらばだ」

勝元は深く念じる。


闇はその大きさを増していく。


闇が迫ってくる


漆黒の闇がどんどんと



・・・ああ、もうだめだ・・・



そして、富子たちの体が漆黒の闇に包まれようとしたその瞬間!



『力を・・・』



・・・まばゆいばかりの光が・・・



『私の力を・・・』



・・・春の木漏れ日のような・・・



『解放いたします・・・』



・・・温かい光が・・・



・・・なんか意識が遠くなってきた・・・



バタッ



力が抜けて倒れこんでしまう富子。


・・・ん??・・・


そして富子は自分の唇が温かいものに触れているのを感じる


・・・私、もしかして今キスしているのかな?・・・


・・・誰と?・・・・


・・・ぼんやりとした意識の中で・・・


・・・闇が消えていくのを感じる・・・


・・・『まさか、お前が、お前がそうだったのか』・・・


・・・近くで男の人のささやき声が聞こえる・・・


・・・優しい声・・・



闇とともにまばゆい光も収まり、ようやく周りが見渡されるようになった。

そして富子は意識を取り戻す。


うわっ! まじかよっ!


事もあろうか富子は仰向けに倒れた勝元に覆いかぶさり唇を重ねていたのだ!


「富子様、菫様、もう大丈夫です。邪気は完全に消えました。」と春姫。

「春姫様!何が大丈夫ですか!富子様が勝元とあんな事になっているではありませんか!」意識を取り戻したばかりの菫は顔を紅潮させている。

「うん、びっくりしたけど、私なら大丈夫だよ。菫。それに春ちゃんもありがとう。」

「全然、大丈夫でありません!富子様が大丈夫でも、私は大丈夫ではないのです!!」

「まあまあ菫。これもアクシデントと言うことで。でもこれって作戦だったの?」富子は菫に問う。

「はい、私が春姫様に変装して捕まったふりをする。そして勝元を捕縛しようと思っておりましたが、全くの不覚でした。」と菫。

菫は、細川勝元こそが、先日の春姫誘拐の首謀者であると考え密かに内偵を進めていた。

そして、細川勝元が春姫のみならず、富子の命をも狙っているという事実を突き止めたのであった。

そして菫と春姫は富子には内緒で、この作戦を計画したのであった。

「私は、自分の力で細川勝元様の憑き物を追い払う予定でしたが、思ったよりもその力が強大で勝元様を気絶させるのが精一杯だったんです。

でも、富子様のおかげで勝元様の邪気を払うことができました。万一の際の富子様への保険が思いもよらぬ形で役だったのです。」春姫が続ける。

「二人とも私に内緒とか酷いよ。それに何よ。その保険って、うっ!」

富子は突然、強烈な嘔吐感に襲われる。


「春ちゃん、菫ごめん、ちょっとごめん」富子は、口を押えてその場に屈みこんだ。



おげええええええええええええええ。。。。。うっぷ



富子は、喉につかえていたものを一気に吐き出した。

そして自分が吐き出したものを見て卒倒しそうになる。

気味悪くウニョウヨと蠢くドロドロとした無数の白い生き物!

そう、富子が吐き出したものは生きたナメクジの大群だったのだ!


「げえぇええええええええ、な、なによ、これ!なんでこんなもんが、私の口から出てくんのよ!」富子は叫ぶ。

「富子様、このナメクジさんたちは邪気を払い、いかなる毒さえ中和するありがたき力をもった神の使いなのです。実は今朝の朝食の際に仕込ませて頂きました。

富子様を勝元様の闇の力から守るためにです。ちなみに、このナメクジさんは、澄んだ心の持ち主の体の中でより強く繁殖し力を発揮するのです。ですから富子様のお心の美しさ故に大きく増したその力が、口移しとは言え、勝元様の中の邪気を消し去ったのでございます。」

「春ちゃん、お前いいことやったつもりかもしれないけど、実際は随分ひどい事してるぞ、ナメクジを朝食に仕込むとか」

「富子様、そんなナメクジさんを悪くいわないでください。可愛いじゃないですか。子供の頃、私はずっとこの子たちと一緒に暮らしてきたんです。」

「えっ?春ちゃん、子供の頃って?」

「はい、久しぶりに力を使ったせいか、少し昔のことを思い出しました。そしてその前の時のことも・・」

「その前の時?何それ?春ちゃん」

「思い出しましたよ。富子お姉ちゃんの事を」

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