金獅子
何時読んでくれている読者様!本当にありがとうございます!
今や半壊状態である連合国の街を、機神兵を壊しながら歩く2人組がいた。
白い髪の少年にして現連合国特攻隊長、アイン=ナブル・アルタイル。
もう一人は元連合国特攻隊長、アイン=ナブル・シンリ。
雑草を刈るかのように機神兵をスクラップにする二人は、止まることを知らずに破壊をまき散らす。
アルタイルは赤い魔剣、グリゲィスを機神兵の心臓部であろう機関に突き刺す。
核を貫かれた機神兵は途端に動かなくなり、アルタイルはそれをボウリングのボールの如く他の機神兵のいる方向に投げ飛ばした。
バラバラと、砕け散った機神兵の残骸はまるで雨のように降り注ぎ、他の機神兵の装甲を凹ませた。
鉄の雨は止むことなく、男女を中心に吹き荒れる。
鉄が降り注ぐ暴風雨の如く、二人は機神兵を蹂躙していた。
と、アルタイルが機神兵を空に打ち上げたところで、隣のシンリから話しかけられた。
「今更かもしれないけど、あなたあの場所に残ってた方がよかったんじゃない?」
ナイフで機神兵を穴まみれにするシンリのそれは、まるでレイピアの突きのように美しく、圧縮された空気砲の如く威力を持っていた。
所々降ってくる機神兵の残骸をグリゲィスで弾きながら、問いに答える。
「確かに、あの場所に俺たちがいた方が、負傷している兵や民間人の無事も確保できた」
だがな、そう言ってアルタイルは拳を右に放った。
べしゃあっ!、と、機神兵が吹き飛び、鉄塊となり民家に突き刺さる。
余りにも早すぎる速度で振るわれたその右腕は、ところどころ煙が見え、拳は燃えていた。
「それじゃあ、余計に兵が死ぬ」
燃える拳を開き、目を細める。
シンリは機神兵の残骸を適当に放り投げ、呆れ顔で言う。
「・・・・・・・・さっきも言ったけど、それは侮辱よ」
「侮辱じゃない」
大きめの声で、アルタイルはシンリの言葉を塞ぐ。
黙り込んだシンリの目の前に立ち、顔を近づける。
「人が死ぬのを許容するな、 母さん。
人には、絶対に譲れない時と言うものがある。
自分のプライド、命、大切なものが失われる時。
今回は、たぶんこれが譲れないモノなんだろう。
シンリを間近で威圧し続けるアルタイルを見て、シンリは背を向けた。
返す言葉が無いというわけではなく、気を使っているような感じがした。
「・・・・・許容なんてしてない、してたら母親なんてしないわ」
でも、一番辛いのはシンリなのだろう。
許容してないということは、それを許さないということ。
そして、そうしなければいけない時、シンリはある行動をとらなければいけない。
誰かが犠牲にならなければ打開できない状況で、手を挙げた仲間を送り出すこと。
そして犠牲にした仲間に、背を向けないといけないということだ。
強かったら、そんなことしてない、してたまるか。
シンリは遠くで射撃準備をしている機神兵を、瓦礫を蹴飛ばしてスクラップにしながら言う。
「私が言ってるのは可能性についての話よ、絶対にないとは言い切れない、可能性の」
「可能性?」
アルタイルは裏拳で機神兵の銃弾を返し、グリゲィスでスクラップにしながら思考する。
あたりを見渡し、状況を見てみる。
機神兵の残骸で散らかされた、自分たちが通った道。
城から離れた場所にいる自分。
そして、あの城には・・・・・・・。
「・・・・・・・まさか」
気づいた。
違和感に気づいた。
城から自分たちまで、続く道は一直線。
自分たちが壊したのもあるが、思い返してみれば殆どが一直線に壊されていた。
アルタイルの顔が青くなっているところに、シンリが言う。
「今からでも、戻った方がいいと思うけど」
シンリの問いに、最悪の情景が頭をよぎる。
ここで、仮説を立てる。
仮に自分たちが壊してきた機神兵が、量産が効くものだとしたら。
そしてこの機神兵を裏で操っている、あるいはプログラムした者がいるとして。
さらに機神兵を操っているのが、機神兵の何倍も強いとしたら。
これらの仮説が正しいなら、納得がいく。
なぜこんなことをするかは不明だが、動機以外なら辻褄が合う。
機神兵を単独で破壊できる自分たちがおびき寄せられているのが、何よりの証拠だ。
そして、アルタイルが行動を起こす前に、悪意は破裂し。
避難所に指定されている『ヴェクテルの千年時計』が、空彼方から流星の如く振ってきた何かによって、崩壊した。
飛来した何かは見えない、舞い上がった粉塵により視界が霞んでいる。
だが目では見えなくても、周辺の建物が衝撃で倒壊する様を見れば、結論は一つに限る。
――――――其処は、地獄だ。
「ッッ!」
「文句は後!動けるならさっさと動く!」
瞬間的に地面を蹴り、落ちてくる瓦礫などを避けながらシンリは飛び出す。
その表情は焦りと困惑、何より怒りに満ちていた。
吹きあがってくる怒りを抑えながら、アルタイルは走り出す。
道があろうがなかろうがこの少年には関係ない、瓦礫を砕き邪魔者を切り捨て進むのみ。
災害とも呼べる二人は音の如く速さで破壊をまき散らす、道の途中に在るモノが瓦礫だろうが機神兵だろうが同じこと。
ズザザザっ!砕け切った瓦礫を滑りながら、アルタイルは顔を上げた。
怒りに満ちた冷静な表情、熱を帯びた鉄塊のように固く燃える目で。
「・・・・・・・は?」
思わず、絶句。
グリゲィスが手からずり落ちるのではないかと心配になるほど、体から力がすり抜ける。
其、黒き鋼鉄の爪。
絵具をぐちゃぐちゃに混ぜ、最後に人間の血を塗り込んだような、黒の爪。
其、巨大なる鋼鉄の翼。
完成美のある曲線を描いたそれは二本で対を成し、先端には青い炎が灯っていた。
其、長き鋼鉄の尾。
先端には棘山のようなものがあり、所々赤い液体がこびりついている。
其、全てを見下ろす眼。
右に二つ左に二つ、赤いその目を隠すかのように、上から鋼鉄の仮面が被せてある。
その様、姿、細部に至るまで異形。
人の子などが敵う訳も無し、機械の龍神。
神々しさよりも禍々しさが勝ってはいるが、神と呼ぶしかない。
常人ならば平伏すだろう、命を乞うだろう。
地面に頭を擦りつけ震えるだろう、逃げ出すだろう。
「・・・・・・・は?」
だが、その龍神を見ても怯まぬ仔、此処に有り。
意志ではなく衝動的な怒りにより、手から落ちかけていた魔剣を握る。
「・・・・・・・ハハッ・・・・」
乾いた笑い声が、龍神を振り向かせる。
「笑わせんなよ、クソッタレ」
その一言が終わる瞬間に、いったい何度の攻防があっただろう。
初撃・・・・アルタイルが走り出し、つまらなそうにそれを見る竜神が、戯れに尻尾からミサイルを飛ばし、それを棒を振るった風圧のみで吹き飛ばす。
続く第二撃・・・・近づいてくる不敬者を叩き落とすべく、龍神の右腕が叩きつけられ、それをアルタイルは避け、地面にめり込んだ手の上を駆ける。
そして、三撃目。
アルタイルはすでに宙を舞い、スイカ割りの棒の如くグリゲィスを両手で握っている。
目の前には、身の丈の幾倍もある、巨大な頭。
鋼鉄の仮面により隠された、その頭部。
赤い目がこちらに焦点を合わせ、威圧してくる。
だが関係ない、その意思を尊重してやる意味も無い。
さて、ここらで一つ、神話の話をしよう。
君たちの世界には無いかもしれないが、この世界にはある赤い棒がある。
それは空より飛来した人類の選別を行う「最後の審判」を切り捨て、地に落とした救世の武具。
世界の三つある魔具の一つであり、再現不可能とされた武器。
其即ち、悪成す機械を斬るモノ。
構えられたグリゲィスが、垂直に叩き落とされる。
龍神の鋼鉄の仮面を容易く切り潰し、そのまま一閃する。
黒板を爪で引っ搔き回すような不快音が鳴り響き、仮面が真っ二つになった。
これまでの時間、僅か3秒。
体の動き、機械の性能。
どちらも人の形をしていてもしていなくても、文字通り化け物なのだ。
今回勝利したのは人の形をした化け物、叩き切った仮面の破片を踏み台にし、巨大を飛び越えた。
だが。
「構えてアルタ!まだあの機械動いてる!」
「なっ!?」
着地寸前のアルタイルの耳にシンリの甲高い声が響き、とっさにアルタイルは身を捻る。
直地と同時に機械を凝視する、自分が叩き切ったはずの機械を。
同時に舌打ちをする、心底不機嫌そうな舌打ちを。
「・・・・・・クソッタレ」
吐き捨てた言葉の先に、巨大な影が一つ。
動いていた、今も尚。
「クソッタレェッ!」
ドン!大砲の弾のような、鉄砲玉と呼ぶに相応しい速度と轟音を以て、アルタイルは龍神であり機神である化け物に突っ込む。
その様子が、建物や倒壊した瓦礫の上を走るシンリには悪夢にしか見えなかった。
「あの馬鹿・・・・あーもう!これだから子供を持つと人生辞めらんないのよ!」
軽く10メートルはある建物から飛び降り、シンリは両手に果物ナイフを構える。
何の変哲もない果物ナイフ、だが彼女にとって武器の良し悪しは無に等しい、何なら素手でも良いと言い出すだろう。
両手にあったナイフを勢い良く投げ、目の前の龍神に投げる。
銃弾を遥かに超える速度で投げられた銃弾は、真っ直ぐと胴体あたりにぶち当たった。
威力だけなら、恐らく小型ミサイルの威力に匹敵する、過去にもこの投擲は敵国の艦隊を撃ち抜き、大爆発を起こしたことがある。
これは別の話だが、この戦いにより世界各国ではこの少女が「金獅子」と呼ばれるようになったのは、言うまでもない。
肉弾戦、遠距離戦、対兵器戦、あらゆる戦術に置いてもこの少女は後れを取ることなく、対象を抹殺する。
冷酷な殺し方をすることから「金獅子」以外にも「殺し屋」と呼ばれることもあるが、先述の戦いが余りにも有名すぎたため、世界では一般的に「金獅子」と呼ばれることが多い。
その「金獅子」の伝説の投擲が、艦隊をいとも容易く破壊した一撃が、巨大な龍神を穿つ。
だが砕けたのはナイフのみ、鋼の胴体には傷一つ無い!
(まあそりゃただの鉄塊じゃないもんね!これで倒せるなら苦労はしない!)
携帯していた果物ナイフのうち一本を片手に持ち、シンリはロケットの如く突っ込む。
即ち、怒りのままに龍神へと走る、アルタイルに。
「食らえぃバカ息子!これが私の愛情だー!」
ドォン!冗談半分の一撃がアルタイルの胴体に突き刺さり、冗談では済まなそうな轟音が響き渡る。
そのまま二人は壁をブチ破りながら建物に突っ込んだ。
「こんなに大きくなって・・・・んも~アタシが独身だったらほっとかないわよこの色男~」
ガラガラと崩れかけている建物の中で、アルタイルは自分に抱き着いている母親の頭を掴んだ。
「ふざけてんのか、何で止めた、あのまま行けば一撃入れられたんだぞ」
声は低く、また強く、しかしそこに男性特有の色気がないのは、恐らくこの少年の顔が女性のような顔、つまり「男の娘」だからであろう。
かっこいいというよりは可愛いが似合うアルタイル、しかし真面目なことは変わらない。
「いや~んカッコいい!抱いて!」
「真面目に聞け莫迦」
無理やりキスをせがんでくる自分の母親を全力で抑制した。
「何で止めた、止める必要があったのか、無かったのか」
声をさらに低くするが、それでも女性と男性の声の中間、若干女性に近い声になるだけだ。
シンリはキスを諦め、取り合えずその場に胡坐をかいた。
「そりゃあったわよ、だってあなたあのままじゃ死んでたし?」
「は?」
指をくるくると回しながら言うシンリの言葉に、アルタイルは思わず声を出した。
「攻撃は躱した迎撃も無かった、あのまま行けば壊せた、それを母さんが邪魔した!」
不機嫌そうな怒鳴り声が建物に響く、シンリはそれにため息をつく。
「ま、分かんないなら見せるしかないわよね」
そう言って、シンリは立ち上がった。
「どこ行くんだよ、話はまだ・・・・」
「うるっさいわね、此処は危ないからもっと別の所で見てなさい」
シンリはナイフを取り出し、そのまま建物の外へと歩いて行く。
「見るって何をだ、おい!」
「んーーーーーーーー」
シンリはくるくるとナイフを回しながら、にやりと笑った。
「そりゃあ、殺し合いでしょ?」