嫌ですよ?
全てが終わった、と言うのは、何も黒鞘聖刃の死一つに限られるわけではない。
眉間に突き付けられた巨大な機関銃の銃口からは煙は出ておらず、黒鞘の眉間に哲がのめり込むことは無かった。
つまり、この段階では死んでいない。
眉間が貫かれ、脳を潰され、体の機能が停止する「死」は黒鞘のもとに訪れてはいない。
そうなると、黒鞘はまだ生きているということになる。
眉間は傷一つ無く、脳はちゃんと形を保ち、体は機能し、今もなお生命活動を続けている。
だが、ここで一つ疑問が生まれる。
「全てが終わった」、これは一体何を指すのか?。
まず先ほどの理由から、黒鞘は存命しており、当てはまらない。
次に、機神兵を見てみよう。
もし仮に、終わったのが機神兵なら、「全てが終わった」の条件が当てはまる。
しかし、黒鞘には機神兵を単独で破壊する力は無く、あったら今頃やってる。
なら、「全てが終わった」とは何を指す?。
答えは簡単で、ずるい。
例えると、一と二の答えがある中で、正解は3ですと言うようなものだ。
そう、答えは。
小ぶりの果物ナイフを片手に持った金髪の少女、アイン=ナブル・シンリが、機神兵を一撃で粉砕した音だった。
ぐしゃっ!、と、一瞬でスクラップになった機神兵を、黒鞘は3秒ほど理解ができなかった。
そうしている間にも黒鞘は落ち、尻もちをつく寸前でシンリに抱き抱えられた。
ぽすっ、と、単純な音を立てて。
受け止められた黒鞘は、二~三回ほど瞬きする。
始め、黒鞘は何が起きたか分からなかった。
どうして自分は死んでいない?。
なぜ自分を殺そうとしていた機神兵が、そこでスクラップになっている?。
いろいろな思考が糸のように繋がり、自分が助かったという事実につながったその瞬間、自分の涙腺が緩み、体中が熱くなったのが分かる。
私は自分を受け止めたその人の胸に抱き着き、泣きだした。
察してくれたのか、無言でその少女は私の頭を撫でてくれた。
「やっぱりアルタも男の子ね~、盗聴器付けてて正解だったわ☆、これからもあの子と末永くお願い☆」
なんか涙腺が鉄のように冷たくなった。
胸から頭を放し、シンリの顔を見る。
満面の笑み、迷いも何もない。
とりあえずため息をつき、しばらくしてから言った。
「あの・・・・・・いいですか?」
「いいわよん」
「嫌ですよ」
「へぇ?」
福笑いのような変な顔を浮かべたシンリは、笑いながら言う。
「いやいや御冗談~、あんなかわい・・・・・じゃなかった、かっこいい男の子ほっとくとか、お姉さん、もしかしておく手ってやつですかなん?」
「いや違います普通に嫌です、今日初めて会った人と末永くって大丈夫ですか?、ってかあなたアルタさんの何ですか?、彼女ですか?」
なんか恩を仇で帰すように見えるが、言ってることは至極真っ当なことなのである。
シンリはなんか恥ずかしそうにくねくねと腰を振りながら、舌を出して言う。
「え?、そう見えるぅ~?、でも残念私はあの子のママでした~w」
「待て今お前何歳だ?」
「ゑ、十七歳よ?」
ぼーぜんとする黒鞘、なかなかに頭がアレなシンリ。
なんだか、ギャグマンガみたいになってはいるが、ここは狂気渦巻く戦場だということをお忘れなく。