守護隊
「押し返せ!、戦わなくていいとにかく押せ!」
うぉおぉぉぉぉおっ!、と、力強い掛け声が響く。
まるで綱引きのように、全員で同時に前に進み、開いた隙間に新しく盾を持った騎士が入る。
たくさんの騎士が集まって形成された陣形は、それが一つの盾のように連合国を守っていた。
この集団の名を守護隊、連合国三大軍隊の一つである。
短期決戦が得意な特攻隊とは違い、籠城戦や耐久戦を得意とする守りのスペシャリスト集団だ。
そして、その守護隊をまとめ上げるのが、この青年だ。
「第三陣形後退!、第五陣形前へ!、疲れたなら休め、頑張らなくていい、その代わり守り抜け!」
黄金色の整った髪型に外国人特有の白い肌、透き通る緑色の目は宝石のように輝き、着ている装備は特別なわけではなく、他の騎士と同じデザインの鎧だ。
華奢な体で白く清い盾を持ち、その身の丈には会わない気迫で指揮を執っていた。
名をグラハッド、かの「円卓の騎士」の一員であり、同時に連合国第12代目守護隊長である。
歳は十七だが、その力量は歴戦の騎士とも渡り合えるという。
整えられた陣形を目で追い、確認しながらグラハッドは隣の男に尋ねる。
「そんなところでぼさっとしてる暇があるなら、このうざったいスクラップを何とかしてもらいたいな」
「命令すんな三下、円卓だろうが食卓だろうが俺には関係ない」
そこら辺の椅子に座りながら、アルタイルはグラハッドに言う。
あくびをしながらボーっとしているその姿にイラっと来たグラハッドは、眉間にしわを寄せる。
「・・・・・イギリスを敵に回したいようだな」
「そっちがケンカ売るなら買うぜ?、国ごとぶっ潰してやるよ」
アルタイルはグリゲィスをくるくると回し、グラハッドに中指を立てる。
しばらく拳を握ったグラハッドだが、ここで戦ってもメリットが無いので大人しく指揮に戻った。
アルタイルはそれを横目で見ながら、耳を澄ませる。
聞こえるのは、騎士たちの鎧が軋む音。
機神兵の駆動音。
だが、アルタイルにはまだ聞こえている物があった。
たっぷり5秒、ゆっくりと目を開けたアルタイルは立ち上がり、歩く。
グラハッドがこちらを睨むが、アルタイルはそれを無視する。
適当にグラハッドの肩に手を置き、守護隊の陣形の隙間の中に入る。
「はいはい、分かった分かった」
ため息をつくと同時に、アルタイルは棒を構える。
肩に担ぎこむように、力強く。
そのまま助走を付け、アルタイルは一気に機神兵が群がる戦場へと突っ込んでいった。
ドォォォン!、と、まるで電車にでも引かれたかのように、次々と機神兵が空に打ち上げられ、落ちて、他の機神兵を潰していった。
一通り機神兵を打ち上げたアルタイルはその場で立ち止まり、勢い良く回転する。
回転するコマの如く回ったアルタイルのグリゲィスは、機神兵を次々と薙ぎ払って行った。
だが、それでは終わらない。
打ち上げられた機神兵を、回転によって生み出された竜巻が包む。
目視できるほど巨大な竜巻は、戦場の機神兵を一掃していった。
アルタイルは空を舞う機神兵を踏み台にしながら、地上のグラハッドに言う。
「後は任せた、俺は行くところがある」
そう言って、アルタイルは唖然とするグラハッド達を置いて、跳んでいった。
まだ兵士も騎士も、一人もいないはずの西へ。