面会室
こうして臨時の作戦会議が最悪の終わりを迎え、三日後に決闘が行われることが決まった。
片や連合国「元」特攻隊長、「金獅子」ことアイン=ナブル・シンリ。
片や連合国「現」守護隊長、天上の騎士グラハッド。
どちらも世界最強の三つの椅子の内一つに座った実力者、たった一人で国を潰すような実力を持つ化け物だ。
「……んで、何か言う事は?」
「ありましぇーん、なにもありましぇーん」
偶然空いていた面会室を特別に借り、わざわざスケジュールを開けてまで自分の母親を説教するアルタイル。いつもは温厚な彼だが、今はかなり、いいや滅茶苦茶キレている。
「あのな母さん、あんた今から何しようとしてるか分かってるのか?」
アルタイルは面会室の机を叩き、静かに言う。
「あんたがしようとしているのは勢力の崩壊だ、守護隊の信用の破壊だ。感情的に動かれて問題起こして、それで責任は俺に回ってくるんだ」
「分かってるわよ! そんなの分かってる、でも……」
シンリは椅子から立ち上がり、次の瞬間冷静になって。
「……でも、あのままあなたが言われっぱなしなのは、我慢できなかった」
そっぽを向くシンリ、アルタイルは眉一つ動かさず、まるで予想通りと言いたげな顔で言った。
「ま、偉ぶってる若造に灸をすえてやるのも、悪かねぇな」
薄く笑うアルタイル、シンリはそれを見て、舌を出して笑った。
「報告書は任せろ、ただ約束してくれ、絶対に負傷させたりプライドを追ったりするようなことはするなよ、ああいうタイプは一回折れると戻すのに時間が掛かるからな」
「……!! 任せて! ああいう男の子の扱いには慣れてるから!」
たいして年が変わらないのにこの余裕、現役引退してもその陽気さと頼もしさは健在だった、っていうかこれが素だから恐ろしい。
「とりあえず、俺は仕事があるから先帰ってて。大丈夫、すぐに帰る」
「……」
不満そうな顔をするシンリ。溜息をついた後、椅子から立ち上がった。
「あんまり根詰め過ぎない方が良いわよ、辛かったら帰ってきてもいいからね?」
「いや、ちゃんと帰ってきてるだろ? まぁそりゃ寝て風呂入ってすぐ仕事出てるから気づかないかもしれないけど」
もっと不満そうな顔をするシンリ、でもそれ以上は何も言わず、背を向けて部屋から出ていってしまった。
ガチャン、閉まるドアの音を聞いたアルタイルは、椅子にもたれかかった後。
「……今度旅行でも行こうかねぇ」
そんな事を、つい呟いてしまう。
 




