⑤魔術師の戯言
此処は島、最果ての島。
様々な花が咲き誇り、癒しを求めた死人が至る王の墓場。
生者が入ることは敵わず、罪人が入れば即座に妖精が駆けつける。
彼らは一体で「円卓の騎士」と渡り合えるほどの力を持ち、しかし人間のように愚かな戦いは好まない。
彼らは楽園の守護者であり、同時に「円卓の騎士」の一員の監視役でもあった。
そう、彼の名はマーリン、淫魔と王族の混血であり、かつてアーサー王の遺体と魂と共にやってきた、自称、宮廷魔術師である。
「・・・・・・・・さて、どうしたものかな」
先ほどまで死んだように閉じられていた呼吸が、瞳孔が開き、魅力的な声が響いた。
彼女は胡坐の体勢から立ち上がり、無駄に綺麗な塔から何かを眺める。
その表情は険しく、楽観的な彼女にはあってはならない程の剣幕を放っていた。
「少し出かけていた隙にこれか、全く君たちも弱ったものだね、囚人に助けを求める看守がよくもまあ賃金を受け取っているね」
その光の塊は一旦赤く光るが、その後すぐに青く光った。
それを見たマーリンはにたりと笑い、持っていた杖を構えた。
「やっと礼儀を知ったようだね、良いだろう、久しぶりに円卓に座るとするか」
杖の先端に短剣を付け、マーリンは塔から飛び降りる。
ふわぁっ、柔らかい風がマーリンを包み込み、落下の衝撃を和らげる。
「ひゅう、いつもは殺す気満々の君たちが、私の着地を手伝ってくれる日が来ようとはね、今日が私の命日かな?」
いやお前死なねぇだろ、そうツッコむ妖精たちだったが、何分マーリンは混血、少しだけなら言葉が理解できても、難しい言葉やジョークなどは理解に苦しむ。
「まあ、どちらにせよ今日はいい日だ、お姉さんが一肌脱いであげよう!」
杖をくるくると回し、マーリンは目の前の巨悪を見据える。
雄大にて、悪辣。
光る妖精を黒く染め、咲き誇る花を塵にしていくそれは、まさしく聖なる妖精と対を成す邪の化身であった。
「よっこいせ」
すとん、と、その邪の化身の首が、立った一薙ぎの短剣によって落とされる。
力は籠っていない、ただ素早く、全方向から打撃と斬撃を13回ほど叩き込んだに過ぎない。
円卓の中でも力のない彼女は、持ち前の体重の軽さを生かした連続攻撃と、淫魔から受け継いだ魔術に頼るしかなかった。
だが、それが弱いとは限らない。あれほど巨大だった邪の化身は消し飛び、今も尚消滅を続けている。
体操選手のような着地を華麗に決めたマーリンは、自分の周りによって来る妖精を煽る。
「これからもこの私をごひいきに!あんまり縛りをきつくすると、「罪の欠片」が来たとき対処したやんないぞぅ?」
こんな事を言われては手出しができない、妖精たちは仕方なく、マーリンの外出を許可した。
「せんきゅぅ!じゃあ世界救ってくるから、王の話し相手よろしくぅ!」
元気に走り去っていくマーリンは、瞬きの間に消えてしまった。
妖精たちはため息をつくように紫色の光を放ち、元の住処へと戻って行く。
そう、此処はアヴァロン、最果ての島。
花が咲き誇り妖精が踊り、流れ着いた「罪の欠片」がそれを食い尽くす。
あいつらに敵うのは「円卓の騎士」であるマーリンのみ、妖精たちは罪には敵わず、ただ蹂躙されるかマーリンの助けを待つか、それだけだ。
今日もまた、無能な王は嘆き続けます。
屈するしかなかった円卓の同胞たちの嘆きを恐れながら、アヴァロンを眺めているのです。




