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タロット  作者: キリン
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小さな人の仔

「・・・・・何なの、あの女」

『知らん』

連合国からはるか遠くにある建物の上で、ジャックは震えながら言った。

つい先ほどまでモンスターペアレント少女シンリによって恐怖のズンドコに突き落とされていた彼女は、今街を見下ろしている「世界」によって救われたのである。

『それで、どうするつもりだ』

「そうだね・・・・・まずは牛乳でおっぱいを大きく・・・・・・」

ボケ始めたジャックの頭を、割と本気のグーパンで正気に戻す。

たんこぶがギャグマンガのように膨れ上がり、ジャックが涙目で言う。

「痛いよ?」

『知るか、自分の立場ぐらいわきまえろ』

イライラしているのか、「世界」の息が荒い、フードで顔が見えないのでどんな顔になっているのか少し気になる。

笑いを堪えながらジャックは目元を抑え、手をプラプラさせる。

「わーってる分かってるって、「愚者」の事でしょ?」

腰に差してある刀の手入れを始め、ジャックはどうでも良さそうに言う。

「完全に人間なんだろ?「愚者」としての性質はまだあるみたいだけど、この星から魔力を分けてもらうことはできない、ちょっと強いだけじゃ、八罪悪は倒せない」

的確な指摘、分析、刃を交えたわけでもなく、たった一目見ただけでここまで言うのは、天武の才と言う他に何があるだろうか。

『俺は事実を尋ねている訳じゃない、開いた「愚者」の埋め合わせにアテがあるかと聞いているんだ』

ジャックの方を見ないまま強い口調で言う「世界」だったが、なんとなく返答は知っていた。

「・・・・・・そんなの、いると思う?」

そう、存在などしない。

万全の状態なら、「愚者」は単独で世界を滅ぼせる、二十二枚の『大アルカナ』全ての力を行使し、還付なまでに蹂躙することができる。

その点において「愚者」という存在は、世界にとって『八罪悪』と何ら変わらない。

『・・・・・・そうか、なら仕方ないな』

拳を握り締め、「世界」は頷いた。

震える拳をただ茫然と眺めながら、ジャックは刀を磨く。

あの変人との戦いで刃こぼれしてないか心配なのもある、どちらかと言えば心の傷の方が大きい、今も痛い。

「聞いていいかな、八罪の事」

『構わない、敵の事をしておくことに損は無いからな』

その場に胡坐を掻き、遠くの何かを眺める。

言葉が詰まったジャックだったが、今更引き下がるのもあれなので尋ねた。

「過去に君たち『大アルカナ』は殺し合いをして、勝ち残った一騎に倒された『大アルカナ』の力を託したんだよね?」

『ああ、今回は二度目だ、過去の勝者は・・・・・・・「愚者」だったな』

心底忌々しそうな間を置いて、「世界」は言った。

『あの時顕現した八罪は「怠惰」ノアだったな、あいつの中で、俺たち敗者は戦いを見てた』

その場で立ち上がり、「世界」はジャックの方を向いた。

表情の有無など無しに、明らかな何かが見えた。

『簡単に言おう、地獄だ』

単純かつ明確、適切な言葉であることが、その言霊一つ一つから察せられる。

『洪水が世界を覆うまでの猶予の中、「愚者」は顕現した「怠惰」と戦った』

ジャックは話を淡々と聞きながら、自分の手元を見た。

ガタガタと震える手元から刀がずり落ち、手入れするためのハンカチが宙を舞った。

『そして「怠惰」が倒せないまま、洪水が来る八日目を迎えた』

飛んできたハンカチをキャッチし、そのまま話を続けた。

『世界は流された、文明も人も、何もかもな』

ジャックの目の前に立ち寄り、結論だけを述べる。

『洪水から二日経った後に「怠惰」を倒したが、世界の半分が半壊状態だったさ』

想像も、考えることもできなかった。

世界を滅ぼすことのできる『大アルカナ』それらの力の集合体である「愚者」が、それを倒すのに10日間もかかったのだ。

『いいか、ジャック』

自分の目の前に座り込み、「世界」は言う。

『俺たちが戦おうとしているのはそんな化け物なんだ、八罪悪、世界そのものを単独で破壊することができる化け物』

気が滅入るようなことを何度も言い続ける「世界」、持っていたハンカチを差し出す。

まるで握手を求めるかのような仕草だ。

「・・・・・・どうせ逃げても無駄なんでしょ?」

震える手を片腕で押さえ、両手でハンカチを掴む。

呼吸を整えながら、ジャックは宣言する。

「だったら、見せてあげようよ、人間様の力って物をさ!」

息は荒く、手は震えている。

腰が抜け地面に膝をつき、耳をすませば心臓の音が聞こえた。

だが、まぁ。

『楽しみにしてるよ、小さな人の仔よ』

「誰が小さいじゃもっかい言ってみろ殺すぞ」

胸ぐらを掴まれたことにけらけら笑いながら、ジャックを突き放す。

「ぎゃふん!」

『ここにいろ、「愚者」に引導を渡してくる』

「世界」は建物から飛び降り、民家の屋根を蹴りながらどこかに向かって行った。

ジャックは頭を押さえながら、建物の塀を掴んで言う。

「こらぁ!帰ってきたらケチョンケチョンだからなぁあああああっ!」

烈火のごとく怒りながら、ジャックは一人怒鳴り散らす。

こんなことぐらいで怒る人間は、やはり愚かだ。

だが、まぁ、それが良いのかもしれないが。



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