悪化
白い髪の少年の手には、赤い魔剣が一本。
それを横薙ぎに足元に斜めに、剣術のような流麗さから一瞬で槍のような必殺へと早変わりする。
『生温い、生温いぞアイン=ナブル!「力」と「吊るし人」、そして「戦車」、我らが同胞を葬り去った「愚者」の力はどうした!?』
だが「世界」はその攻撃を全て徒手空拳で受け流し、的確なカウンターを叩き込む。
関節部分や人体の急所を何度も何度も攻撃され、アルタイルの武器を握る力が弱まる。
元々やせ我慢で戦っていたのだ、戦い続けてもう7分、何時力尽きてもおかしくない。
攻撃の当たる回数が徐々に増えていき、「世界」の罵声が飛び散る。
『貴様は人になるのだろう!?我らの唾棄すべき使命から逃げるのだろう!?』
「・・・・ッ!」
ガン!まるで爆発のような衝撃を纏った踵落としを、アルタイルは魔剣を以て受け止める。
「だあっ!」
最後の力を振り絞り、振り下ろされた踵を横に逸らす。
体勢を崩した「世界」の鳩尾がガラ空きになり、アルタイルはそれを逃さない。
(一撃だ、一撃でこいつの腹を吹っ飛ばす!)
槍のように、押し出された魔剣が脇腹に向かう。
狙うは背骨、下半身と上半身の境目の骨。
(入っーーーー)
がららん。
場違いな音が耳に入った直後、アルタイルの体から全ての力が抜けた。
手から魔剣がずり落ち、正座のような倒れ方をした。
体勢を崩した「世界」は宙返りで起き上がり、倒れたアルタイルを見据える。
『・・・・・・まあ当然だな、半分人間の貴様がよくここまで戦えたものだ、賞賛に値する』
言っていることからは想像もできないような不機嫌さが体中からにじみ出ている、明らかに怒りを露にしていた。
まるで期待していた通りの結果ではなかったことに腹を立てるような、そんな怒り。
『興が覚めた、ジャックを回収した後に俺たちは退く』
背を向け、当てつけのようにため息をつく。
その場から去ろうとした「世界」だったが、アルタイルの目の前に座り込んだ。
『貴様に、一つ言っておかなければいけないことがある』
耳元に顔を近づけ、たった一言。
「・・・・・・・・・・・は?」
アルタイルの顔が、これ以上ないぐらいに真っ青になる。
動かない腕を無理矢理に動かし、勢いよく肩を掴む。
「どういうことだ⁉おい!そんなことあるはずない!嘘だと言ってくれ!」
だが、「世界」は首を横には振らない。
ゆっくりと立ち上がった「世界」は、歩きながら言う。
『とにかくそういう事だ、俺たちがやる事は変わらない、むしろ悪化した』
走り去っていく「世界」を止めようとアルタイルが手を伸ばすが、「世界」は瞬く間に消えていった。
「・・・・・・・クソっったれ」
動かない体の代わりに、口が暴れ、叫ぶ。
「クソッタレがぁあああああああああああああああああああああああ!」
天を食らうように、アルタイルは咆哮する。
「世界」は、こう言った。
『七罪悪の内、最強と言われる「色欲」と「憤怒」の反応が消えた、殺されたんだ、七罪を超える八つ目の罪に』