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タロット  作者: キリン
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怖いんだよ


空を切り、あらゆる方向から鎖が飛ぶ。

そのまま直進するモノもあれば、地面や瓦礫に跳ね返り不規則な方向に飛ぶものもあるが、フードを被ったそいつには当たらない。

まるで鎖が飛んでくる場所が分かっているかのように、的確な回避を繰り返し、反撃を入れてくる。

アルタイルはその圧倒的とも言える攻防を、舌打ちをしながら凝視していた。

(一発当たれば動きを完全に封じれるんだ、一発・・・・・・!)

数秒間の間に、数えきれないほどの鎖が飛び交うが、全て避けられるか迎撃される。

事実、戦っている間の10分間、アルタイルの攻撃は相手に当たるどころか、掠りすらしていない。

動きを読まれている、そんな確信めいた何かがアルタイルの脳裏をよぎった瞬間。

『避けるのも飽きた、お前が何もできないならそろそろ反撃に出させてもらおう』

「つっーー」

蜘蛛の巣のように散りばめられた鎖を搔い潜り、そいつは自分の目の前に立った。

咄嗟にグリゲィスを横なぎに振るうが、バク転で避けられた後、低い姿勢からの蹴りが自分の鳩尾に突き刺さった。

『遅い』

「ぐっ・・・・・・・・ぷぅっ」

衝撃はまるで波のように、構えも防御もすべてを貫通して伝わり、背後の建物をも破壊してアルタイルを吹っ飛ばした。

頭から地面に落ち、勢いが止まらないまま地面を転げ回った。

からぁん、手からずり落ちたグリゲィスが力ない音を放ち、地面に横たわった。

「・・・・・ぐぇっ・・・・・・ごぼぉおっ!」

口からこぶし大の血の塊が吐き出される、唾液が口の周りを汚し、独特の刺激臭が鼻を突く。

「・・・・・・・ああっ・・・・・・はぁ、はぁ」

獣のように荒い呼吸ができるという事は、肺などに異常はないようだ、消化器官のどこかが壊れたのだろう。

呼吸を整え口の中の血と唾を吐き捨て、目の前のグリゲィスを掴む。

『殺す前に一つ尋ねておきたいことがある、いいか?』

フードに包まれた全体から、中性的な声が聞こえる。

未だに攻撃する様子はなく、自分が荒い息を吐いている間も迎撃のそぶりも見せなかった。

あの盾野郎なら我を失っているだろう、騎士にとっての誇りとは命より重い、それが自らでなく、誰かに捧げた物なら尚更だ。

そんな事を想いながらアルタイルは薄く笑い、ゆっくりと立ち上がった。

「ふぅ・・・・・勝つ気満々なんだな、さすがは『大アルカナ』最強の「世界」サマだな、パクるだけしか脳が無い「愚者」の俺に、何を聞きたいんだ?」

ぐるぐるとグリゲィスを回しながら息を吸って吐くアルタイル、すでに目線は「世界」から遠ざかっており、見当違いの方向を向いている。

繊維はあるが気力が無い、しかばねという奴だ。

『・・・・・・・何故、あの時貴様は逃げた?』

ピクリ、と、アルタイルのグリゲィスを回す手が止まる。

閉じかけていた目を大きく開き、口を指一本程開けながら「世界」を凝視する。

予想外のことを言われたためか、自然と首を傾げていた。

「いや、何ってお前・・・・」

頭を片手でぼりぼり掻きながら、アルタイルは当然、至極真っ当な意見を口にした。

「怖かったからだよ、お前らが」

グリゲィスを持った人差し指で「世界」を指差し、その後腰に手を当てた。

その様子は軽蔑するような、非常識な大人を見るような目だった。

冷めた目線に不快感を覚えた「世界」は少し間を置き、それを嘲笑った。

『怖いとは、おかしなことを言うのは「愚者」だからか?笑わせる』

うすら笑いを浮かべているのか、声が少し浮いていた。

「世界」はフードから意外と華奢な腕を出し、指を指し返した。

『貴様は強い、総合的な実力で言えば俺を超える、なのに怖い?とうとう気が狂ったのか?』

「強者が恐怖を覚えるのが悪いか?強者の中には仕方なく剣を取って英雄なんぞに持ち上げられた奴もいるけどな」

当然とも言えるアルタイルの素直な意見に、思わず言葉が詰まった。

アルタイルを指差す指はゆっくりと弧を描き、下へと落ちて行った。

『・・・・・・・お前の言う通りかもしれないな、「愚者」、いいや、アイン=ナブル・アルタイル、『大アルカナ』の役目を放棄した人間よ』

「・・・・・・・・・・・」

気のせいかもしれないが、この男は今歯噛みしたと思う。

拳を握り、舌打ちをし、何かに苛立っている。

自分ではない、紛れもない、自分自身に。

「覚悟が足りねぇな、俺も」

深く息を吐き、グリゲィスを構える。

「使うは「力」、位置は「正位置」、意味は「不可能を成し遂げる力」、何時如何なる時も星を拓いた英傑豪傑よ!我が道を行くその力を拝借する!」

ドォン!アルタイルの周囲に圧が掛かり、空気がびりびりと揺れる。

気迫が倍増し、巨大な生物と対峙しているような威圧感を感じる。

「覚悟するよ、4年前の役目にケリをつける」

その視界の先に、すでに「世界」は無い。

あるのは、自らの平和。

逃げ続けた四年の間、ずっと心のどこかに刺さっていた何か。

それを、今ここで断ち切る。

逃げ続けるのは、もう止めだ。


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