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タロット  作者: キリン
12/25

ジャックと「世界」


一瞬。

自分を見つめるその青が、空か海か、自然が作り出す美しい青に見えた。

殺意や威圧感に怯えるよりも先に、それに対する高揚感が身を包んだ。

「・・・・・・知らねぇよ、顔が近いんだよ離れろ」

ポン、と、赤くなった顔を片手で隠し、乱暴に振るった右手でシンリを突き飛ばす。

突然押されたシンリは手をじたばたさせバランスを戻そうとしたが、重力には敵わず尻餅をついてしまった。

「きゃん」

ちょっと女の子っぽい声を出すシンリ、さすがは17歳、ぶるんぶるん揺れるお胸が破壊力抜群だ。

無駄に大きな尻をさすりながら、シンリはゆっくりと起き上がった。

「痛ッ~・・・・・・何すんのよ!女の子を突き飛ばすとか正気!?」

一瞬でいつも通りのおバカに戻ったシンリに胸ぐらを掴まれ、ぶんぶん揺さぶられるアルタイル、止めろ止めろとシンリの華奢な腕を掴むが、何処か安心しているご様子だ。

と、しばらくじゃれ合っているとシンリはぶんぶん揺らすのを突然止め、一言尋ねてきた。

「何も、知らないのね」

頼み込むような力の籠った顔で、自分の肩を掴む指に力が入る。

疑いたくも無いのに、疑わなければいけない。

絶対にありえないにしろ、そうしなければいけない未来を創造するのが、この女性はきっと嫌なんだろう。

それを察し、アルタイルは自分の肩を掴む腕のうち片方を、そっと握った。

「・・・・・・ああ、知らない」

その時、珍しく自分は笑ったと思う。

自分でも気に入らない笑い方、引きつったような笑い方。

安心したのか、シンリは片腕を腰に回し、笑い返してきた。

「そう、よかった」

ひひっ、と、子供のようにきれいな歯を見せて笑い、シンリはアルタイルの手を握り直した。

いきなり手を繋がれたからか、まだ童貞だからかは知らないが、アルタイルはびっくりして尋ねた。

「なっ・・・・・なんだよ」

「ありゃ」

半ば乱暴に手を振りほどくと、シンリが舌を出して頭をぼりぼり掻く。

「いや~、大きくなったな~って思ってさ、あなたの手」

「・・・・・そりゃあ、な、4年もあれb

「まあちんちんはまだまだだけど(笑)」

「ブヅッ!?」

思わず赤面していた自分がバカらしく思える程ひっくり返ったアルタイル、シンリはくすくすと腰の後ろ辺りで腕を組みながら笑っている。

アルタイルは勢いよく起き上がり、溜まりに溜まったイライラをシンリにぶつけた。

「何なんだよお前!あのな!俺はッ!一応思春期だぞ!ねぇ!」

「いやーんそんなに怒られたら私興奮しちゃう~、キャー☆」

もう一発これで叩きこんでやろうか、そんな事を想いながら、アルタイルはグリゲィスを握り締めようとした。

だが、その瞬間。


「あーいたいた!間抜けで滑稽で矛盾だらけの「愚者」だ~!」


後ろから、少女の声が聞こえた。

同時にアルタイルは振り返り、片腕に魔力を籠める。

「使うは「吊るし人」、位置は「正位置」、意味は「身動きのとれない状況」!、愚に指差されて尚道を開く賢人よ!星を拓く叡智を以て愚を縛れ!」

詠唱が終わった瞬間、アルタイルの背後から無数の錆び付いた鎖が出現し、声の方向に向かって行った。

「つれないなぁ、3年ぶりの再会だって言うのにさ」

それを見た声の主は、無造作に言う。

「―――――――それじゃあ「世界」、迎撃よろしく」

承知した、中性的な声が響くと同時に、声の主に向かって行く鎖に変化があった。

ぽろり、ポロリポロリと崩れ行き、残った一本の鎖だけが、声の主に向かう。

だが。

「・・・・・『逆ノ火』・・・・」

シャキン、何かを一閃するような金属音が鳴り、鎖の軌道が逸れ、横に弾かれる。

残心のような素振りで振るのは、刀だった。

真っ赤に燃え、炎を放つ刀、刀身は赤く染まり、周りの空気が歪んで見えた。

黒髪の肩まであるショートカットの上に緑の軍帽を被り、黄色寄りの緑の目、白い縦セーターと緑の短パンの下に黒いストッキング、靴はスポーツ専用の物を履いていた。

少女は刀をふらふらと振りながら、自分の後ろ側に言った。

「迎撃しきれてないよー、ぶっ殺されたいの?」

『謝罪する、次は全て落とすとしよう』

いつの間にか声の主の後ろにいた人間、体の大きさは声の主と変わらず、比べようにもドングリの背比べであった。

黒いフードを被っているため素顔はおろか、性別すらも分からない。

だが、分かることがある、それはこの二人に共通することだ。

「さーてさて?3年ぶりだねおバカな「愚者」さん!そこの金髪のお姉さんは始めまして!」

陽気とも、狂気とも言える笑みを浮かべながら、高い声で言う。

「私はジャック!後ろに居るのは役立たずの「世界」だよ!」

あはは!心底楽しそうに笑う声に、アルタイルはおろかシンリまでもが身構えた。

ジャックと名乗る少女は刀をくるくると回した後、再び笑った。


「それじゃあ、遊ぼっか、死んだら負けだよ?」



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