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タロット  作者: キリン
11/25

『大アルカナ』

大雷霆ケラノウス。

それはギリシャの主神ゼウスが持つとされる、銀河をも瞬時に焼き尽くす雷。

一つ振るえば同じ神とは言えど、致命傷又は瞬殺は免れない。

これは物理法則での再現は不可能、魔法などの超常を操る法則でも再現不可能。

機械をどれだけ大きくしようが、呪文をどれだけ長くしようが、これは無理だ。

ケラノウスだけではない、同じギリシャのアイアスの盾、日の丸の草薙の太刀、古くから語られる武具のほとんどは、人の身ではまず再現不可能なのだ。

「あらま、やりすぎたかしら?」

きょとんとした顔で焼け焦げた周辺を見るこの女は、再現してしまった。

出力は原典の千分の一程度、神々からすれば静電気ぐらいの価値観。

それでも、再現するのは不可能なはずだった。

「アルタ生きてる~?生きてるならとりあえず返事してほしいんだけどー」

魔力リソースはケラノウスと相性がいいタロットの内一枚「塔」から、顕現時間は限りなく少なく、瞬間的な破壊力だけを求める。

様々な研鑽、努力、それらを飛ぶように超えたこの女は、科学者と魔術師の何百年による葛藤を、僅か一年で壊したのだった。

「・・・・・・・・・・・・」

アルタイルは自分を呼ぶそれを、「金獅子」と呼ばず「化け物」と思うことにした。

当然だ、格が違いすぎる、オリジナルには遠く及ばないとは言えど神々の武具を自分の物のように使う姿が、人間離れしてならなかった。

(ま、俺が言える立場じゃないが)

自虐の意味も込めたため息をつき、アルタイルはシンリの元へと歩いて行った。

砕けて熱を帯びた瓦礫を踏みながら、改めてその惨状を見る。

確かに、此処を破壊したのはあの機械の龍神だ、その巨大な躯体を用いて、原始的に体当たりで。

隕石が衝突したかのごとく衝撃が走り、完膚なまでに周辺は破壊され蹂躙された。

だが、やはりあの化け物はそれ以上だった。

仮にあの龍神が空から飛来した災害だとすれば、シンリもまた自然が生み出した災害だ。

肉弾戦だけでも巨人のような体躯の龍神を圧倒し、神々の雷を用いてそれを粉砕した。

先ほどから二頭のスフィンクスが掛かれたカードをじっくり見つめている華奢な症状がやった事とは、到底思えない。

(・・・・・・・スフィンクス・・・・・・?)

「ねぇ、アルタ」

疑問が頭をよぎった瞬間に、シンリの軍人としての声が聞こえた。

陽気さは消え、持っていた一枚のカードを見せつける。

二頭のスフィンクス、繋がれた手綱を握る人間。

その下には英語でチャリオット、「戦車」と書かれており、上には「Ⅶ」、つまり「7」を指すローマ数字が刻まれている。

「・・・・・・まさか、それ」

アルタイルが戦慄した声を上げると、シンリはそのカードを見つめ始めた。

「これはさっきのバケモノから出て来た物よ、残骸から見つけた」

「それが『大アルカナ』のうち一つだという確証はないだろ、タロットカードのおもちゃなんて世界全体にあるんだ、たまたまだろ」

低い声で可能性を否定するアルタイルに、シンリは残念そうな顔で横を向いた。

「ちょっと見ててね」

そう言って、シンリはそのカードを投げ、指先から魔法をカードに命中させた。

こんな事をすればカードはおろか、小範囲の建物が倒壊する。

それ程威力を凝縮した小型爆弾のような魔法を、シンリはいとも簡単に放った。

「・・・・・・・嘘だろ」

だが、アルタイルが絶句したのはその威力にではなく、傷一つ付いていないカードだった。

ひらひらと舞い落ちたカードを、シンリはゆっくりと腰を曲げて拾う。

「私だって信じたくないわよ、でもこれが真実、仮にこれが偽物だったとして、ここまで小さくて強い結界なんて私でも貼れない」

オリジナル、本物の神話が此処に有った。

この世界全体、星をも廻す22の力が形を持ち、こうして災いをもたらした。

「疑うつもりはないけど、一応聞くわ」

シンリは持っていたタロットカード、「戦車」を豊満に膨らんだ胸ポケットに差し込む。

腕を組み、義母ではなく軍人として尋ねる。

「世界を廻すほどの力を持つ22枚の『大アルカナ』、そのうちの1枚であるこれが出てきた理由、あなたは知っているのかしら」

一歩、二歩、圧倒的な威圧感と殺意を以て、シンリはアルタイルの動きを精神的に封じる。

グイっ、と、冷汗が止まらないアルタイルの顎を掴み、自分の目の前に持ってくる。

宝石のように澄んだ目が、アルタイルに問うた。


「ねえ、『大アルカナ』最強の「愚者」さん?」



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