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タロット  作者: キリン
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大雷霆


地獄と呼ぶには、余りにも安易で悲しい。

人だったものはそこら中に転がり、ありとあらゆる建物は破壊されている。

場所によっては火が吹き、機神兵が湧き、爆心地である『ヴェクテルの千年時計』には破壊の化身があった。

誰も生きてはいない、生きることを神は許さない。

あるのは我が身一つ、鉄に覆われた我が身一つ。

そのはずだった。

「へーい其処の鉄くずぅ!好き勝手やってくれてるわねぇーい!」

異常な高さのテンションを以て、その女は立っていた。

四つあるうちの一つの目を使い、龍神はそれを見る。

優美であり、横暴なる生き物がそこにはあった。

長い金髪は王者を思わせる輝きを放ち、こちらを見据える目は海のように美しい蒼を放つ。

体に対して服の大きさが合っていないのは見なくても分かった、胸と尻のあたりが今にもはち切れそうなほど艶めかしい曲線を描いていた。

《よう、そこの金髪のべっぴんさんよお、俺に話しかけるたぁいい度胸してんじゃねぇか》

取り合えず声を掛けた、虐殺するのも飽きた、たまにはこういう狂った女で遊ぶのもいいだろう。

「あらま、貴方喋れるくせに見る目があるじゃない、そうよ私はべっpイダダダッ!」

ぱさあっ、と、格好つけようとして髪を舞わせたのが仇となり、指に絡まった髪が二三本ブチブチと音を立てて抜ける。

目尻に涙さえ浮かべながら、シンリは頭を抑える、手にはしっかりと綺麗な金髪が絡まっている。

それを忌々しそうにポイ捨てしたシンリは、横目で龍神の方を見る。

「・・・・いい?あなたは今なにも見ていない、あなたは私のおっぱいしか見ていなかった、いいわね?」

機械の体を持ち、人間の思考など分かるはずもない、と思っていた。

だが分かる、龍神には分かる、こいつは天然、又は生粋のポンコツだ。

「あー!あなた今私のことバカだって思ったでしょバカって!うわーんひどい!この薄情者ケダモノお吸い物!」

顔を真っ赤に地団駄を踏み、こちらに指ををぶんぶん振っている。

地団駄を踏むごとにデカすぎる胸がぶるんぶるん揺れる、だが持ち主がポンコツすぎるため全然興奮しない、いやまあ機械なので興奮などしないのだが。

目尻に涙を浮かべながら、シンリは両手にナイフを構えた。

「もう許さないんだから!私がこの手でボコボコのギッタンギッタンにしてあげるんだから!」

荒い息を落ち着かせながら、シンリは深呼吸をする。

灰の中にある空気を全て出し、次の瞬間には満たす。

「――――――ひゅっ」

細い、とても細い息が、空を裂く。

その音が耳に入った瞬間、龍神の鳩尾を重い衝撃が貫いた。

《ぐうっ・・・・ンン!?》

鋼鉄の顎が開き、疑問を示すエラーが脳内を埋め尽くす。

ひび割れた鳩尾と背中の装甲部分からみしみしと軋む音が響く。

そこで、見た。

龍神は、見た。

「あら、中々の結界装甲じゃない、ヒビが入るだけで済むだなんて」

自らの鳩尾に足を突き刺す、女を。

宙を舞い輝く金の髪を、こちらを見据える青い目を。

女は突き刺さった足を引き抜き、空中で後ろに一回転する。

「アルタ見てる~?こういうデカブツ、あんたまだ戦ったことなかったわよね~?」

龍神はその声に、何かとてつもない感情が煮えたぎるのを抑えきれずにいた。

何だこの女は、何故自分に傷を付けられる。

本気じゃない?否認めない、これがあの女の全力だ、それと自分はまだ本気を出してはいない。

「こういうデカブツはね~、まずは足を崩しまーす!」

着地した女が雷の如く龍神の関節に突っ込む。

横薙ぎの回し蹴りが巨大な関節を貫通し、蹴られた部分が吹き飛ぶ。

体重を支えきれなくなった神が膝をつく。

「それで足を片方崩したら、次は腕を潰しまーす!」

やめろ、口の中のマイクがその一言を発する前に、腕の関節に何かが数本突き刺さる、ワイヤーが巻かれた果物ナイフだ。

女の手の先にはワイヤーが握られている、何をする気なんだ。

「せーぇのっ!」

ぐいん!引っ張られた瞬間に腕の関節がミシミシと音を立て、乱暴に引っこ抜かれる。

瞬間的に龍神の周りを魔力を帯びた雷が覆う、恐らく動力となる箇所が壊され、行き場を失った電力が霧散したのだ、威力は恐らく雷に匹敵するだろう。

《―――――――――》

思考することはできない、脳内のエラーの処理が追い付かない。

軸を失い地面に頭を付けた龍神、そこに女の声が響く。

「んで!本来なら此処で兵器の山をぶちかましてやるところなんだけど、今みたいな人材不足の状況の場合、私は魔法を使うことをお勧めするわ」

くるくるとナイフを取り出し、シンリは腰に手を当てる。

「威力が高い魔法は得意でしょ?何でもいいわ、でもできる限り被害を最小限にできる魔法でね」

そう言って、シンリはぷらぷらと手を振り、首をコキコキと鳴らした。

「んじゃ、いっちょやりますかっ・・・・・と」

スッ、ナイフを龍神に向け、シンリは目を閉じ何かを唱える。

「使うは「塔」位置は「正位置」意味は「破壊」、天地を裂く神々の怒りを我が手に、我が敵を焼き尽くせ!」

バチィッ!荒れ狂う雷がシンリの辺りを飛び交い、それらがナイフの切っ先に収束する。

辺りを飛び交い、ナイフに集まり、次第に空間が歪む。

そして次の瞬間、連合国に雷霆が落ちた。

ドオンドドォン、機械の龍神の力よりもなお強く、神を蹂躙する。

装甲を焼き尽くし、破壊し、粉砕する。

その様、災害。

全てを蹂躙し、何人たりとも逆らうことを許さない災害。

其れを行使する女の金の髪、宙を舞う。

雷を背に、百獣の王の如く不敬者を蹂躙する。

その姿、まさに金の獅子。

これこそが、彼女が「金獅子」と呼ばれる由縁、遠き異国の神が持つ大雷霆、それの再現を人のみで行った女の、敵国の恐怖が生み出した異名だ。


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