再会
何も無い、静かな草むらの中で少年は目を開け、寝心地の良い草のベッドから目覚め、まずは大きなあくびをした。
たっぷりと寝たはずなのに、まだ眠い。
せっかくの屋外なので、気晴らしに空を見ようと少年は眼球を動かそうとしたのだが運が悪く、悪意しかない太陽の光が目に入り、とっさに手で目をこすった。
だが不運は不運を呼び、手袋(ごついザラザラの奴)をしていたのを忘れていて、眼球を抑えながらその場でのたうち回った。
とどめと言わんばかりに、近くの木に立て掛けてあった棒に肩が当たり、そのまま倒れて少年の鼻にミラクルクリーンヒットしたのだ。
こういう時、自分の心の中で神様を100回ぐらい殺すという罰当たりなことをする人間がいる、よい子はまねしないように(ちなみに主は×1000回殺します)。
「……何で……」
もうなんだか涙目のそいつは、とりあえず心の中で神様を吊るし上げ、現実で鼻を抑えながら起き上がった。
鍛えられた腹筋を使い、遠心力の力も借りて起き上がったそいつは、独り言と愚痴の中間のような言葉を漏らした。
「……なんで……目を開けただけで鼻を痛めなきゃあいけないんだよ……」
いろいろ理不尽な目にあっているこの少年の名前は、アイン=ナブル・アルタイル。
少し汚い白い長そでに、上から高そうな革の黒いジャケットを着て、同じく黒いデニムを履いている少年だ。
髪の色は純白のような白、目は宝石のような青。
これまでのご様子だと、ただの間抜けかかなりの不幸体質と思うかもしれないが、今年で14歳、これでもこの国の特攻隊長である、だから決してただのバカではない、決して、だ。
「そりゃな? 日頃の行いってのもあるだろうよ、でもこれはな? な?」
ぶつぶつ文句を言うアルタイル、ちなみに日頃の行いというのは、神社の賽銭箱から金を根こそぎ奪ったり、職権を乱用してお使いさせたりしている事である。
そんな「Mr.日頃の行い」ことアルタイルが呪文の如く文句を言いながら鼻を抑えていると、後ろの草むらからがさがさと音がして。
「どりゃっ!」
「ぶっ!?」
次の瞬間にはアルタイルの腰あたりにドロップキックをぶちかまし、きれいに着地した。
「やりました! 連合国三大勢力の内の一角……そのてっぺん! アイン=ナブル・アルタイル!! うちとったr
「だ・れ・が・やられただって?」
轟! と風が唸りアルタイルが襲撃者の体制を足で崩し、襲撃者を馬乗りの上体で押さえつける。
アルタイルは先ほど自分の鼻を56した棒で自分の肩を叩きながら、呆れた様子で襲撃犯に尋ねた。
「……一応騎士だろ? 騎士道精神とかないわけ?」引き気味でアルタイルが聞くと。
(……別にいいじゃないですか……三大勢力の暗殺隊のあいつも、後ろからバズーカ撃つような卑怯者なのに……キックぐらいで……)
一ミリも話を聞いておらず、ぶつぶつ自分の不満を愚痴として漏らしていた。っていうか理由になってない、どんな理由があろうと初対面の人にドロップキックするのは異常である。
「というか、なんでこんなところでのたうち回って鼻撃っていたんですか?」
「それを二度と言うな、言ったらコロス」
アルタイルが全力の殺意と言う珍しい態度を取った後、思い出したように質問をした。
「ってかお前誰?」
「は? 貴方の部下でしょうが……しょうがない、私は黒鞘聖刃と言います、あと私は女性だから、扱いには注意してださい……ね?」
暗に「はよ降りろ重いんだよ」と言いたげに、顔面の血管がビキビキ浮かび上がった。
これに対して、アルタイルは驚愕の表情で口元を抑えた。
「……マジか……オマエ女だったのか…こんな……こんな獰猛なのが……」
「否定はしません」
言いたいこともあったが、仕方がない。
何せいきなりドロップキックを腰にぶちかましたのだ、頭がおかしいとか言われないだけマシである。
だがそこに追い打ちを書けるかの如く、アルタイルは顎に手を添えながら言った。
「歳は……29だな! 20だいぎりg
「貴様それ以上言ったらコロス、私は17ですよってか、そろそろ降りてもらってもよろしいでしょうか」
かなり殺意を覚えた黒鞘だが、相手が相手なので敵うはずもなく、泣く泣く殺意を押し殺した笑顔で言った。
アルタイルはそれに気付いてなかったのか、さっさと聖刃の上から離れ、もう一度昼寝をしようとその場に寝転がった。
何も言わない呆れ顔の黒鞘だったが、思い出したようにアルタイルの枕元に座り、少し小さめの声で言った。
「そういえば、連合国周辺に敵国の兵器かもしれない何かが巡回してるらしいんですよ、どうします? アルタイル隊長?」
付け加えたような黒鞘の声に、アルタイルは昼寝を邪魔されたことを不機嫌そうにしながら、棒を手に取り適当に答えた。
「本部に連絡はしなくていい、今から俺が片づける」
その言葉が響くと、場の空気は一瞬で塗り替えられた。
自分がいた平和な空間から、戦場の真っ只中のような。
まるで心や、精神に干渉する魔法でも使われたかのような。
本能的に危機を感じるが、それはこの男の溢れる殺意の一端に過ぎない。
こんなに親しみやすいのに、実力は本物。
侵入捜査なんてやったら、三日も経たずにその組織、国をも内乱に導くような男だということを、分かりすぎるほどに分かってしまう。
舐めていた、と言うのが正直な感想だ。
今この瞬間、黒鞘はこの男がこの国の「最強」である理由を理解した。
「おい、黒鞘……って言ったな」
ビクゥ! と、肩が震える。
さっきまで自分が倒そうとしていたのが、こんなバケモノだという事実を受け入れられないまま、黒鞘は恐怖する。
「アルタでいいよ、その呼び方が嫌なら、せめて「○○さん」とか、「隊長」ってのはやめろ、友達にそんな呼び方されるのは、仕事みたいで嫌なんだ」
意外な言葉に、思わず唖然とした。
声を賭けようとしたが、アルタイルは一瞬で消えた
残っているのは、春一番よりちょっと強いぐらいの風だった。
「……」
黒鞘はぽかんとして、しばらく空を見上げていたが、ある重要なことを思い出した。
とてもとても、人として重要な感性を。
それでいて、ちょっとあれなことを。
(私、あいつと友達になるなんて一言も言うとらんで?)
まあそりゃ当然である。
黒鞘は気付いていないが、本人にとってはこれは初めての友達作りへの第一歩に近かった。
今頃アルタイルの顔は、真っ赤っ赤のかっかっかである。
ちなみにアルタイルはコミュ障クソ陰キャである。
処女作ですのでお手柔らかに、何でも許せる人向けに書いておりマウス。