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6.

ほのぼの会になる予定です

尊い。

ただその一言に尽きる。


食事をしている旦那様を見ながら私は幸せを噛みしめていた。旦那様は私との約束通りあの日から一緒に食事を取ってくれるようになっていた。仮面の下からチラッと見える舌が可愛くてキュン死しそうだわ!


「どうしたんだ?」


私のねめるような視線に気づいたのか旦那様が不思議そうに聞いてくる。私は即座に緩んだ顔を引き締める。


「旦那様は今日も素敵だなと思いましたの。」


「……そうか。」


あまりにも毎回私がこんなことばかり言うものだから最初は動揺をしていた旦那様も慣れてしまったようで返しが簡素になってきている。

それがなんだか寂しく感じるのは私のわがままなのよね。


「旦那様の趣味はなんですの?」


「突然どうした。」


「旦那様のことを沢山知りたいと思ったのです。」


「…趣味は………思いつかないな。」


少し思案した後旦那様は申し訳なさそうにそう答えた。聞いたのは私のなのだから申し訳なさそうにしなくてもいいのに本当に真面目な方だわ。


「アリアドネはなにか趣味があるのか?」


「へっ!?」


「…?」


「そ、そそそ、そうですわね!お花を見たり生けたりするのが好きですわ!」


「!……あ、ああ、そうなのだな。」


「え、ええ!美しい花を見ると気分がとても上がるのです。」


「なら今度花を送ろう。」


「まあ、嬉しいですわ!」


まさか聞き返されるなんて思っていなかったからとても焦りましたわ。ただ、お花が好きなのは本当ですし嘘はついていないからセーフよね!!

なんだか旦那様はなにか言いたそうにしていましたけれどもしかして旦那様はお花があまり好きでは無いのかしら。

疑問を持ちつつもなんだかんだで食事は進んでいき軽く挨拶を交わして席を離れた。本当はもっと一緒に居たいけれどあまりしつこいのもどうかと思うから我慢する。


「アリアドネ。」


そんな私の想いが通じたのか旦那様が私の後を追って来て呼び止められる。


「どうされました?」


「ああ、いや…その、、この間外に出かけたいと言っていただろう。次の週に近くの街に視察に行くからアリアドネもどうだろうかと思ってな…。ただ、2人きりになるかもしれなくて…その、、」


「ぜひっっっ!!!!!!!!」


「お、おお、そうか。ならその方向で予定を立てておくから頭に入れて置いて欲しい。」


「楽しみですわ!私の我儘を聞いてくださってありがとうございます。」


「…構わない。」


旦那様はそれだけ言うと仕事に戻って行ってしまわれた。


「プリシラ…私夢を見ているのかしら。」


「おめでとうございます。夢ではございません。」


「トニー…?」


「夢ではありませんよ。それに視察ということは団長が1人で向かわれるはずですから事実上のデートになりますね。」


トニーの言葉にどんどん身体が熱くなるのがわかる。心臓が高なってドキドキと脈打っている。嬉しい、嬉しい、嬉しい!

旦那様はただ私の我儘を聞いただけなのだろうけれど私にとっては一大事だ。私のことを避けていた旦那様がこうやって自ら誘ってくれること自体が私にとっては何もよりも嬉しくて幸せなことなのに旦那様はきっとそれすら知らない。

スキップでもしたい気分で部屋まで戻ると私はこれでもかと心を浮つかせた。何を着ていこうだとか何を話そうだとか、考えるのはそんなことばかりで肝心なことなんて何も分かっていなかった。

私と一般的な人の価値観や物の見方のズレにどれ程の差があるのかを私は知ろうとしていなかったのだ。ただ、自分の心にだけ一生懸命で旦那様のことを本当の意味で考えることが出来ていなかった。

それを思い知ったのは悲しいことにあんなにも楽しみにしていた視察での事だった。





視察当日、私は旦那様の操縦する馬に乗せられて街まで来ていた。私を抱きしめる形で馬を操縦している旦那様はずっと無言で私も態勢が態勢なだけに

頭が真っ白で何を喋っていいかわからず街に着くまでずっと無言だった。


「馬を預けてくるからそこで待っていてくれ。」


「わかりました。」


旦那様が戻ってくるまで噴水の周りに置かれた椅子に腰掛けて待つ。久しぶりに見る街の中は沢山の人で賑わっている。手を繋いで歩く恋人の姿が目に入って羨ましいと思ってしまう。最初は話せればよかったのにこうやって一緒に過ごす時間が少しずつ増える度に次はあれが欲しいと強欲になる自分に嫌気がさす。


「待たせたな。何を見ていたんだ。」


「人を見ていたんです。賑やかでとても活気があってこんなの久しぶりだからわくわくしてしまいます。」


「確かにここはこの領地で1番大きな街だからな。人がここに集まってくる。その分色んな問題事も起きるから定期的にこうして視察に訪れているんだがな。」


「そうなのですね。旦那様はそうやって皆を守っておられるのですね。素晴らしいお仕事です。」


「そろそろ行こう。暗くなる前に戻らないといけないからな。」


旦那様が手を差し出してくれたので私はその手に自分の手を重ねた。ゆっくり立ち上がれば旦那様はそのまま私の手を繋いで歩き始める。手袋越しから感じるひんやりとした不思議な手の感触が心地よくて私は自然と笑顔になった。やっぱり私はこの方のことが好きだと改めて再認識する。

そして、やっぱり私達は無言で街の中を進むのだった。

少しは進展してくれてほっとしています。

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