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4.

訓練場での出来事があってから間もなくして私達は事実上の夫婦になった。私とシンプソン辺境伯爵様……旦那様は夫婦なのだ…事実上は…なのになのによ!


「初夜どころか何も変わらないじゃない!!」


私たちが夫婦になって1週間が経ったものの初夜当日、旦那様は急な仕事が入り初夜どころでは無く謝罪は受けたもののその後顔を合わせることすら1度もないのだ。数回遠目から顔を見たりはしたものの相変わらず食事も一緒には取れないし避けられている。最近では私が旦那様のことが大好きだというのはこの要塞中に広まっていて私のことを応援してくれる人も増えた。それもこれもあの訓練場の1件のおかげかもしれない。恥ずかしい思いをした甲斐はあったようね。きっと旦那様の耳にもこの話は届いているはずなのにアクションがないということは私のことが既に嫌いになってしまわれたのか、そもそめ噂が信じられないのか…この二択な気がする。


「プリシラお花を見に行きましょう。」


「花ですか?」


「ええ、最近旦那様はとてもお忙しいでしょう?だからお花が飾られていれば心が安らぐと思うの。」


「わかりました。それでは直ぐに花屋に来てもらうよう手配します。」


「お願いするわ。」


本当は外に出たいのだけれど結婚する時に旦那様との約束で決してこの要塞から出ないという約束を取り付けられている為買い物には出れないのよね。旦那様と一緒なら出てもいいそうなのだけれど。

けれど、仕方ないことだと思っている。ここは国の要となる場所で国の中で1番危ないところと言っても過言ではない。取り締まりはしているとはいえ国境近くのこの場所には盗賊等も多く出没するため女子供だけでの外出など以ての外なのだ。


「旦那様はどんなお花が好きかしら。」


絶世の美トカゲな旦那様がお花を見て笑う姿を想像したら顔が緩んでしょうがない。絶対可愛いしかっこいいし美しいわよね…。語彙力が無くなる素敵さ!!


私はこんなにも彼のことを好きなのに、この夫婦関係を形だけのものには決してしたくないのにどうやったら彼が私とまともに話をしてくれるのかすらわからない。それもこれも突然泣き出したり悲鳴をあげたり痴女みたいな発言をする私が悪いのだけれど。


「そんなつもりじゃないのに…。」


誤解が何度も生じればきっと彼は私に心を閉ざしてしまう。ここに来て1度だけ彼が団員の皆と笑い合う姿を遠目から見たことがあった。仮面の下に隠れた表情を想像して心が苦しくなったわ。あんな表情を私にも見せてくれたなら…。


「奥様、花屋が到着しました。」


「ええ、今行くわ。」


応接間へと向かうと色とりどりの花が既に並べられていて気分が上がる。沢山の種類のお花を見比べながらどれにしようかと思案する。私が思うにこの要塞が暗く感じるのは主人である旦那様のあの容姿が関係しているとは思う。けれど、他にも挙げるとするならこの要塞には明るい物があまり置かれていないのよね。調度品も落ち着いた寒色や中間色のものばかりで暖色系の物は少ないように感じるし、石造りなので壁だってグレーだ。こんな所じゃ気分も上がらないわ。私は久しぶりに見る明るい色々な色に感動していた。


花を手に取って匂いを嗅げば懐かしい自然の香りが癒してくれる。ずっと引きこもっている所為で最近は植物を目にする機会も少ない。

プリシラにどの花を購入するかをメモにとってもらいそれを花屋に渡す。


白い薔薇(深い尊敬)

ベゴニア(片思い)

赤いゼラニウム(君ありて幸福)

白いカーネーション(純粋な愛)

アンスリウム(恋にもだえる心)


その他にも色んなお花を選んでいくけれどどれも片思いや愛を語ったお花ばかりを選んでいく。押し付けかもしれないけれど彼にはきっと沢山私の気持ちを伝えないと分かっては貰えない。旦那様が花言葉に詳しくなければ意味は無いけれどね…。


お花を選び終わったら侍女達に指示をして飾り付けていく。ついでに家具が微妙なところは新調するためその指示も出しつつ要塞を周り終わる頃には夕日も傾いてすっかり暗くなってきていた。


「花を置くだけでかなり印象が変わりますね。」


トニーが物珍しそうに花瓶にさしてある花を眺める。


「そうでしょう?なにか好きな花があれば言ってくれたら取り寄せるわよ。」


「その時はよろしくお願いします。」


普通は夫人に頼み事なんてしないのだろうけれど私はそういうことはあまり気にしていない。アットホームな雰囲気が好きだし皆もピリピリしているよりかは仕事がしやすいと思うしね。


「アリアドネ?」


「っ!…旦那様。」


どうやら気づかないうちに旦那様のお部屋の近くに来ていたようで帰宅した旦那様と鉢合わせてしまったようだ。


今、名前呼んでくれた!!????


今日は何時もの団服ではなく白を貴重としたこの国の正装をしている旦那様は何時もとはまた違った魅力があってとてもかっこいい。

名前を呼ばれたことも相まって私はヘラヘラと笑みを浮かべながら旦那様に近づいていく。


「今お帰りですか?お仕事ばかりでは体調を崩されてしまいますから気をつけられてくださいね。」


「…ああ、そうする。それより花を飾ったのは君か?」


「はい。駄目だったでしょうか?」


「……いや、構わない。君はここの女主人なのだから好きにするといい。では失礼する。」


形式的な話ばかりして直ぐに逃げようとする旦那様。会えばいつもこうだ。私から逃げようとして絶対私とは向き合おうとしてくれない。そんなに私のことが嫌いなの…。花言葉は分からなかったのかしら。


「旦那様!」


私が少し大きな声で呼べば、ほら、彼は何時だって振り返ってくれる。それなのにこのどうしようもない距離感がもどかしくて悲しい。


「たまには一緒に食事をしましょう。沢山お話をしましょう。旦那様さえよろしければ一緒にお出かけもしたいです。」


「…アリアドネ?」


最初はこんな所に来るのは嫌だったわ。

でも、旦那様を好きになってしまったんだもの…。旦那様の容姿が世間一般的に認められない物だとは分かっていても私はその容姿が何よりも魅力的に見えるし大好きだわ。それをわかって欲しい…もっと話したいもっと私を見て、もっともっと関わって、私を知って、逃げないで。


「私のことを避けないでください。沢山誤解させることをしたと自覚しています。けれど私は旦那様のことをお慕いしております。だからどうか私という人間を少しでもいいから知って欲しいのです。」


「……私はっ…。」


旦那様が少しずつ私の方に戻ってくる。

数歩の距離を空けて彼はやっと私の目の前に立って私と視線を合わせてくれた。

意思の強そうなシトリンの瞳が私をじっと観察している。


「君は私のことが怖くは無いのか。」


「怖くなどありませんわ。」


「この容姿は醜いだろう。君を嫁にと迎えたのは私のこの容姿では相手が見つからず後継問題に支障をきたすと悩んでいた時に都合よく君の噂が耳に入ったからだ。それでも私のことを好きだと言えるか?」


「私は旦那様の全てが愛おしくてたまらないのです。誰がなんと言おうと旦那様は世界一素敵な方ですわ。それに政略結婚なんて貴族の間では普通です。むしろ旦那様とこうして出会えたのですから婚約破棄されて良かったとすら思えますわ。」


「……君は変わっているな。」


「アリアドネとお呼びください。」


「…、、アリアドネ…今日から出来るだけ一緒に食事を取ろう。君の話を聞いてあげなくてすまなかった。」


「嬉しいですわ。」


本当に嬉しすぎて満開の笑顔を旦那様に向ければ旦那様は恥ずかしそうに私から視線を外した。そして一言別れの挨拶をして今度こそお部屋へと戻って行かれる。私も夢見心地の気分で部屋まで戻ると何度も夢ではないか頬を抓って確かめた。プリシラにも何回も本当かどうかしつこく聞いたせいでプリシラには若干呆れた視線を送られた。

それでも全然落ち込まない。だってやっと旦那様と正面からお話ができたのだから。それに、


「アリアドネ…だなんて…。」


彼の口から紡がれた自分の名前がとても愛しい物に思えて私はふふっと笑みを浮かべる。


この時の私は完全に舞い上がっていたのだ。

だから旦那様の気持ちを汲み取ることが出来ないでいた。

やっと前に進んだと思ったら不穏な空気が…


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