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1.

新しい作品スタートです。ベタな恋愛物が書きたくなって見切り発車で書き始めました!どうぞよろしくお願い致します。

アリアドネ=フランシス。

それが私の名前。


目の前には私の婚約者でありこの国の王太子であるリド=オズワルド様がとても可愛らしく小動物の様な見た目の少女の肩を抱き寄せてこちらを睨んでいる姿が見える。今日は学園の卒業パーティであり私達より1学年下のあの少女……リリィ=オルカは出席出来ないはずなのだけれど。

リド様の周りには取り巻きが3人。

その3人も私のことを軽蔑と侮蔑を含めた瞳で睨みつけてくる。皆それぞれが高貴な家系の方たちでその方達に睨まれている私の周りは不自然に人が寄り付かない。


一応私も公爵令嬢なのだけれど……。


「アリアドネ=フランシス!私はお前との婚約を破棄させてもらう!!」


「…本当にそれで宜しいのですね?」



私は落ち着き払った声でそう尋ねる。

こんな場面でどうして私がこんなにも落ち着いているかといえば私は幼い頃から前世の記憶を持っているからに他ならない。前世ではニホンという国のOLという職業に着いていたらしい私はそれはそれは暇だったらしい。帰れば寝る間も押しんで色んなジャンルの小説を読み漁っていた。その中の1つに朧気だけれど私の今いる世界の物語があったのだ。ピンクブラウンに薄い緑の瞳をした可愛らしい少女が悪役令嬢に苦しめられている王太子を助けて結果2人は結ばれる。といったような内容だった気がする。その中に出てきた登場人物と目の前の5人が丸かぶりなのはいうまでもなく。そして私はその王太子を苦しめる悪役令嬢だった。


勿論、王太子を苦しめようなんて思ってないし寧ろ関わらないようにしていた。婚約者ということで話す機会は多かったけれど彼に興味を引かれることも無かったし必要最低限の話しかしなかった。それが駄目だったのだろうか……それとも、小説で決められていたストーリーは変えることが出来ないのか私はこうしてストーリー通り婚約破棄を突きつけられている。

ただし、謂れもない罪状を叩きつけられて。


「アリアドネ=フランシス、お前が彼女にしてきた非道な仕打ちの数々は許されるものでは無い!」


「仕打ち……ですか。私はそんなこと身に覚えがありませんわ」


「この後に及んでしらを切るつもりか!!リリィや周りの証言からお前がしたことは全て分かっているんだぞ!」


「しらを切るもなにも私はその御令嬢とお話をしたことは有りませんの。それなのにどうやってその方に危害を加えられると思います?」


彼女と話したことがないのは本当だ。

だって私はあえて彼女を避けていたのだから。関わってしまえばフラグが立ってしまう。私にとってそれはあまり好ましくはなかった。

何故なら小説のストーリーで婚約破棄されたアリアドネは60代位のでっぷり太った悪趣味な趣向を持つ伯爵家の元へと嫁がされることになる。正直それだけは回避したかった。だからこそ私は息を潜めてひっそりとこの17年を過ごしてきたというのに……。



「話にならない!私はお前との婚約を破棄しリリィと婚約をする!!お前に拒否権はないと思え!」



その言葉を最後に彼は手に持っていたグラスの中のお酒を私に向かってかけた。


小説じゃこんなシーンなかったのに……お気に入りの濃ゆい赤のドレスはお酒を吸ってさらに濃ゆく変色していく。これではこのドレスはもう着れないだろう。ぽたぽたと髪から垂れる雫をそのままに私は深く彼られにお辞儀するとその場を去った。

何も言う気が起きなかった。

なにもお酒をかけなくてもいいでは無いか。


私はお酒にめっぽう弱いのだ。

前世の頃から数口お酒を飲むだけでも気持ち悪くなるくらい私はお酒が弱いし苦手だ。

唇をかみ締めて口に入らないように気をつける。肌から吸収されるから意味はないけれど…。

会場を出て停めてある馬車に乗り込む頃にはフラフラだった。慌てて侍女が私に駆け寄るけれど彼女の細腕では支えられないだろう。

大丈夫だと伝えて馬車に乗り込む。


「最悪だわ」


私のつぶやきは夜の闇に溶けて消えた。







お気に入りのドレスをダメにされた上に婚約破棄された私は公爵家に帰る頃には立つのもやっとの状態で支えられながら入浴を済ませてベッドへと入った。そして次の日には父に叱咤を受け、辺境伯爵の元へと嫁がされることが決まってしまった。


私の記憶では辺境伯爵ではなくただの伯爵家だったような気がするのだけれど、細かいことはもういいかな…と絶望の縁に立たされた私は投げやりになる。

辺境伯爵の話を噂で耳にしたことがあるけれどそれは大層醜い姿をしておりあまり人前に姿を見せることは無いということだった。正直、私は面食いなのだ。デブで禿げたおっさん等言語道断。だから必死に回避しようとした。それがこのザマなのだけれど。


この国であの者より醜い姿の者は居ない。

それが社交界での常識だった。


そんな人の所に私は嫁がされるのだ。

ああ、神よどうしてこんなに酷い仕打ちをなされるのか。

全然神様等信じて居ないのに今はこんな運命に私を落とした神様(予想)を深く恨む。


「アリアドネ、3日後には発てるように準備しなさい」


父はそれだけを言い残して私から目を逸らした。

私は事実上の勘当を言い渡されたのだ。


私は鏡を見ながら深いため息をついた。


白銀に毛先が薄い赤という不思議な髪色をした赤色の瞳を持つ自分が鏡に映っている。この国では白と赤はとても神聖視される色でありその色を持って生まれた私は髪の色と同じ色を持つアリアドネと名付けられた。まあ、その性で幼い頃から甘やかされて小説では我儘な傍若無人悪役令嬢になるわけなんだけれども。自分で言うのもなんだけれどアリアドネの顔はとても整っている。溢れそうなくらい大きな瞳は少し吊り上がり気味で桜色の唇はプルっとしている。陶器のように透き通った白い肌に美しい髪と瞳の色。性格さえ良ければ完璧な美少女だ。


けれど今目の前に映るアリアドネの顔は蒼白でどんよりと瞳が暗くなっている。

辺境伯爵は軍事に大きな影響を持つ家系であり国の防衛を担っている。その為地位は伯爵であるものの権力で言えば公爵家である私の家よりも少しだけ上なのだ。つまり王族の次に偉い。

なので私はこの縁談を断ることが出来ない。それにこの縁談は向こうからの申し出らしく嫁ぐ予定の日がこんなに急なのも向こうの要望らしい。


「…はーーーー」


「お嬢様、素が出ております」


「だって仕方ないじゃない。私、何もやってないのにこんなことになるなんて理不尽よ!」


私専属侍女であるプリシラは私の素の部分を知っている貴重な味方だ。

私がリド様のことを好きではないことも避けていることも全てわかっている。その為なのか彼女だけは嫁ぐ時も私に着いていくと言ってくれた。


「プリシラ‥‥私上手くやって行けるかしら」


「お嬢様なら大丈夫です。神経がとても図太いですから」


「‥‥うっ‥‥。」


「あとはあの趣味だけはしっかりとお隠し下さいませ。」


「そ、そうね‥‥あれはバレる訳にはいかないわ」



プリシラに言われて更に気が重くなった。

私にはどうしても人に隠さなければならない趣味がある。前世もその趣味と小説に没頭するあまり体調を崩してそのままぽっくり…享年29歳。

前世では私と同じ趣味の人は沢山いたけれど周りに理解してくれる人はあまりいなかった。給料のほとんどを趣味に費やしていた私は趣味のために家から出ることも少なく友達もいなかった。


「‥‥はは、私の人生って虚しい‥‥」


「気をしっかり持ってください」


プリシラの冷めた口調が心に響く。

ぐすん…私(悪役令嬢)だって幸せになってもいいじゃない。めそめそしたながらも時間はすぎていく。約束の3日後私を乗せた馬車は私の気持ちとは裏腹に辺境伯爵家であるシンプソン家へと向かって進み始めたのだった。



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