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八話

* * * *



 ————嫌な予感という奴は、得てして当たってしまうものである。

 見つかるまいと岩陰に隠れながらも目の当たりにしてしまった光景が、どこまでも強くその感情を実感させてくれていた。


「……案の定いるじゃねえか。それも、わんさかと」


 洞窟の奥を進んだ先には、そこには研究室のようなものが広がっていた。

 勿論、ただの真っ当な研究室ではない。

 至るところに檻が備わった特別製だ。

 ……心底胸糞悪い。


 だが。


「流石のお前も分かるだろ。これ以上は無理だ。それに、実際に戦ってない俺でも分かる。……親父が引き受けてくれたって魔物はアレなんだろ?」


 そう言って俺は視線を向ける。


 そこには異形と称して然るべき魔物らしき生物が首輪に繋がれ、闊歩していた。

 筋骨隆々に膨張した身体。

 赤黒の皮膚。見た事もない魔物であったが、その脅威の具合は遠くから見ただけである程度分かってしまう程であった。


「……ええ」


 研究室らしき場所の付近までやってきたものの、あの魔物のせいで俺同様、岩陰に身を隠す羽目になっていたヨハナが隣で首肯する。


 研究室のような場所があり、そこに魔物が何体か存在している。

 それだけ分かっただけでも十分過ぎる収獲だろう。肝心のヨハナが言っていた人間は見当たらないが、恐らく何処かに隠れでもしているのだろう。


 ……二人だけの現状、これ以上その人間を探し出す事は不可能でしかなかった。


 助けられる命があるのなら、助けたいと懇願していたヨハナも、流石にこの先を進む事は不可能であると理解してくれたのだろう。

 反抗心のようなものは見受けられなかった。


 ……恐らく、傷を負っている足の限界が近くもあるのだろう。指摘こそしなかったが、足からは血が今も尚、少しずつではあるが垂れ流れ続けている。


「……得られるもんは得た。後はそれを外にいるベルさんに知らせ————」


 ————て。

 騎士団の連中に全部丸投げをすればいい。


 そう言おうとした俺の言葉は、発言の途中で止まる。否、止めざるを得なかった。


 俺がその存在に気付いた瞬間と、粘着質な気味の悪い声が鼓膜を揺らしたのはほぼ同時。


「嗚呼、そこにいたんですねぇ」

「————ッッ!!」


 ハッとして反射的に、大きく目を見開く。

 そして声がした方角へと慌てて肩越しに振り向き、確認をしようとした瞬間。

 ぎらりと輝きを放つ刃が視界に映り込んだ。

 それは、凶刃であった。


 ————相手はまず間違いなく、確実に俺を殺しにきている。

 身体から溢れ出る尋常でない殺気の量を前に、そう思わずにはいられない。


「ま、ず……ッ」


 脳天目掛けた上段からの、振り下ろし。

 言葉より先に、俺の身体は動いていた。

 真横へと身を投げ出し、その一撃を何とか回避。そして続け様、振り下ろされた刃は標的を俺に定めたまま、今度は横薙ぎ一閃。


 しかし、このままでは斬り刻まれると判断した俺がその場を飛び退き、いきなり切り掛かってきた男と距離を取った事で事なきを得ていた。


「……すぐに仕留められそうな彼から先に殺ってしまおうと考えてたんですが、存外反応がいい。これならもう少し警戒心が薄れるのを待つべきでしたかね」


 そこで疑問が浮かぶ。


 ヨハナは出会った瞬間に逃げたと言っていた。

 しかし、今俺に斬りかかってきた人間に、怯えの感情なんてものは何処にも存在していない。

 泰然としたその佇まいは、ヨハナから聞いていた話とは全く違うものである。


 ……そこで、漸く気付く。


「……チィッ、くそが、完全に嵌められた(、、、、、)

「……どういう事、イグナーツ」


 未だ事態を把握出来ていないのか。

 頭上に疑問符を浮かべるヨハナであったが、生憎、悠長に説明している暇はない。


 俺。

 というより、ヨハナは誘い込まれたのだ。


 まず、目の前であえて逃げて見せる事でヨハナの関心を引いた。そして、奥に進めば進むほど、わざと痕跡を残す事でそれを確固たるものにしていく。そうした理由はきっと、彼女が危惧していた事が原因なのだろう。


 俺達を奥へとあえて誘い込んだそのワケは、


「……あいつ、俺達を〝合成獣(キメラ)〟の材料にする気だ」


 〝合成獣(キメラ)〟の材料になり得る人間は子供のみ。そしてその基準でいえば、俺もヨハナもギリギリ当てはまってしまう。

 彼の目にはそれそれは俺らは馬鹿な奴らに見えていた事だろう。


 そして俺のその発言を耳にし、口角を吊り上げて笑むその行為こそが何よりの答え。

 よく気付いたと言わんばかりのその反応が、俺としては、心底気に食わなかった。


「…………」


 ヨハナはそんなバカなと言わんばかりの表情を浮かべていたが、俺のその言葉が正論であると気がついたのだろう。


 躊躇なく殺しにきた先程の一撃を前にして、それはあり得ないと異を唱える気はなかったらしい。


「……でも、だとすれば」


 誘い込まれたという事は、迎え撃つ準備を向こうはしていたという事。

 先程の一撃を躱されたというのに、俺を襲ってきたアッシュグレーの髪の男が俺を立て続けに襲おうとしないのが事実。


 まず間違いなく、何もなしにこの場から出られるとは思わない方が身のためだろう。


「とっとと逃げるっつー選択肢だけは、選ぶに選べねえ、と」

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