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8話 35歳おっさん、勇者の末路を見る

「にいちゃん、すげぇ!」


 俺たちが助けた男の子はそういった。


 続けて街から上がる歓声に、俺は照れながらも手を振る。もう大丈夫だと示すためにも。


 レイナが男の子にいう。


「ふふ、すごいのは当たり前です! アトス様は私の師匠ですから!」

「へえ、姉ちゃん弟子なのか! あ、俺もあれ教えてほしいな、あの天空……なんだっけ」

「天空雷霆破! ですね」

「そう、その天空雷霆破だ!」


 レイナ、恥ずかしいからやめてくれ……この技名をいう癖、本当になんとかしないと。うん?


 俺は男の子の脚のふくらはぎに、青い痣ができているのに気が付く。


「……それ、痛かったろ。今、治すからじっとしてな。ヒール」


 そういって、俺は男の子の脚に回復魔法をかけた。


「あ、ありがとう……って、もう治っちゃった!」


 男の子はすっと立ち上がると、ばたばたとそこで足を動かした。  


「よし、じゃあ街に戻るか……いや、その前に」


 俺はリビングアーマーの魂を霊葬をする。


 すると、



 リビングアーマーを一体、霊葬しました!

 霊力を獲得!

 スキル【憑依】を獲得!



 また、新しいスキルを獲得したな。リビングアーマーは鎧に憑依する魔物だ。そのスキルとなると、物に霊を宿らせられるってことかな。色々試してみたい。


 あと、このミスリルももらっていくとするか。剣も折れちゃったし、新しく装備を買うためにもこれを売りたい。


「ファイアー」


 俺はミスリルの剣と鎧を火炎で溶かすと、それを水魔法で冷却する。

 そうしてできたミスリルの塊を、俺は持ち上げた。


「にいちゃん、そんなこともできるのかよ!」

「さすがアトス様、どんな魔法でも使えるのですね!」


 男の子とレイナは、目を輝かせていった。


「え、ま、まあな。それより、街に戻ろう。君のお母さんやお父さんも心配してるんじゃないか?」

「そうだな……あの男のこともあるし。お父さんとお母さんにも、あんたに助けてもらったって言わなきゃ!」


 男の子はそう言い残して、すぐに街へ向かう。


「あの男? まあ、いい。街へ行こうか」

「はい! アトス様、それお持ちしましょうか?」

「いや、大丈夫だよ。そんなことより、レイナもありがとうな」

「わ、私は何もしてませんよ!」

「子供を守ってくれたじゃないか。今日はなんか美味しいものでも食べよう」

「アトス様……はい!」


 こうして、俺はレイナと一緒に街へ帰った。


 だが門をくぐると、なんだか人だかりができていた。衛兵や街の人が、誰かを囲んでいるようだ。


「……フォルク?」


 囲まれていたのは、フォルクたち冒険者だった。


 フォルクは怒声を発する。


「俺はそんなことやってねえ!」

「いや、俺を思いっきり蹴り倒したじゃないか! 俺を囮にしようって、他の奴にいってた!」


 そう返したのはさっきの男の子だ。


 とすると、この男の子が転んだのはフォルクのせいだったのか。


 たしかに、ただ転んだにしてはおかしかった。普通前から転べば、体の正面にあざができる。


 しかし男の子の痣は、後ろにできていた。


 すると、群衆から声があがる。


「本人が蹴られたっていってるんだ! 間違いない! さっきもいったが、俺は櫓からお前がこの子を蹴るのをたしかに見たぞ!」

「俺もだ! 思いっきり脚を入れていた!」


 皆、俺も俺もと声をあげる。


 どうもフォルクたちは、男の子が帰る前から街の人に囲まれていたらしい。


 隊長がフォルクにいう。


「街へ危害を加えようとし、かつ子供を暴行し、殺そうとした。この街の衛兵長として、お前を逮捕する」

「俺を逮捕するだと!?」


 フォルクは顔を真っ赤にすると、剣を抜き、叫んだ。


「元はといえば、のろのろ走っているこいつが悪いんだ! 俺は命を懸けて、お前らを守ってやってる勇者なんだぞ!」


 皆、剣を抜くフォルクから離れる。仲間の冒険者もさすがにまずいと止めようとするが、フォルクは仲間も蹴り飛ばした。


 人間、誰だって命は惜しい。だから逃げてきた点に関しては、同情できないわけじゃない。


 だが、まさか子供を囮にして、自分は助かろうとするなんて──


 フォルクは剣を振り回しながら、囲いを突破しようとする。


 俺はそんなフォルクに真っ向から向かい、その頬をぶんなぐった。


「アトス!? ぶふぉっ!!」


 フォルクは白目を剥いて、地面へと倒れる。手加減はしたので、息はあるようだ。


 俺はこんなどうしようもないやつと組んでいたのか……


 とても悲しくなった。俺を蔑み嫌っていたとしても、冒険者としての志だけは同じと思っていたのに。


 すると、周囲から再び歓声と拍手があがった。


 そんな中、隊長が俺にいう。


「協力、感謝する。それにこの街を守ってくれた。本当にありがとう」


 隊長は俺に頭を下げると、兵にフォルクを拘束させた。


 他の冒険者も事情聴取といわんばかりに、兵舎へと連行されていく。


 街へ危害を加えようとしたとなれば、彼らの冒険者資格は剥奪されるだろう。罪にも問われるはずだ。


 中でも、子供を事実上殺そうとしたフォルクの罪は、取り分け重い。死刑は免れても、終身刑は確実だ。


 街から街へ噂も広がるし、フォルクだけじゃなく彼の所属しているギルドの評判も確実に落ちる。


 いずれにせよ、フォルクとはもう会うこともないだろうな。


 思わぬところで、俺はフォルクの失墜を目撃するのであった。

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