7話 35歳おっさん、勇者の代わりに敵を仕留める
「鐘の音……もう、お昼なのでしょうか?」
レイナは街中に響き渡る鐘の音を聞いて、そう呟いた。
だが、時報はこんなけたたましく鳴らない。
所長がいう。
「いや、これは街の中に避難を報せる鐘の音。街の外になにかがやってきたのかもしれん。魔物とか……」
この街にも衛兵はいるだろうが、冒険者として助力しないわけにはいかないな。
「魔物か……よし、様子を見てこよう」
「ご一緒します!」
俺とレイナは、避難する人々を掻き分け、門へと向かう。
すると、門の向こうから、大慌てで逃げてくる者が見えた。
冒険者が四人。見覚えがある顔だ。
「フォルク?」
フォルクたちは全員が青ざめた顔をして、息を切らしながらこちらに向かってきていた。
レイナが訊ねる。
「アトス様のお知り合いのなのですか?」
「ああ、隣の街で同じパーティーだったんだが……っ!?」
俺はフォルクのはるか後方から、仄かに光る人型が迫っているのに気が付く。
「あれはリビングアーマー!? あんな強力な魔物を連れてきたのか!?」
冒険者ギルドの基準では、A級の危険な魔物とされていた。
霊体を鎧に憑依させ剣と魔法で戦うが、その強さは鎧と剣の質に大きく左右される。
なので、ぼろい装備なら比較的倒しやすい。逆に質のいい装備なら、同じものを持っている人間よりの倍は強力と考えていい。なにせ、霊体は疲労や重量を知らないのだから。
フォルクたちは、俺に目もくれず一目散に門へと入ってくる。
すると、フォルクは俺の知らない男の胸ぐらをつかんだ。
男は魔法使いがよく着るローブを身に着けている。そういえば俺をクビにする時、感知魔法を使えるやつを仲間にするとかいっていたな。この男は、俺の代わりに仲間にした魔法使いか。
フォルクは血相を変えて、魔法使いに声をあげる。
「てめえが魔法を使えるっていうから、挑んだんじゃねえか!」
「そ、そんなこといったって、鎧を壊してくれない限り、魔法が効かないんだから仕方ないじゃないか!」
「ああ!? てめえは俺のせいだっていうのか!?」
なるほど。
リビングアーマーを倒そうと挑んだが、鎧が壊せなかったようだ。すると、堅いだけじゃなくて、魔法にも耐性のある鎧を着ているのか。
たしかに厄介な相手だ。だが、そんな危険な相手をこんな小さな街に連れ込んだらどうなるか、考えなかったのだろうか……
冒険者として街の人に危害が及ぶのは、絶対に避けなければならないこと。たとえ自分の命を犠牲にしてでも、それは絶対だ。ギルドでも、最初にそう教えられるはず。
実際に、この街の防備は弱そうだ。
街の衛兵が続々門へとやってきたが、全員で三十人にも満たない。しかも皆軽装で、魔法が使えそうなのもいない。
衛兵隊の隊長だろうか、ひとり立派な鎧の中年男性がフォルクにいった。
「あれは魔物だな? なぜ逃げきれないまま、この街にやってきた!? この街に魔法を使える兵士はいないのだぞ!」
フォルクは焦ったような顔で返す。
「し、しし、知らねえよ!」
隊長は、フォルクの襟をつかんだ。
「知らないで済むか! これは街に対する、犯罪行為だぞ!」
「そ、そんなに怒るなよ! あんなの門を閉じてやり過ごせば、いいじゃないか!?」
「門の外には農民や旅人もいる! そんなわけにはいかぬ!」
隊長はフォルクを今にも殴りそうに拳を震わせていた。
かといって、このまま門を開けていれば街にやつらは入ってくる。だが閉めれば、街の外の人々を見捨てることになる。
「レイナ……いくぞ」
「はい、アトス様!」
俺はレイナと一緒に、兵たちよりも先に門を飛び出て、リビングアーマーのもとへ駆ける。
すると、次第にリビングアーマーの全容がはっきりしてきた。頭と全身を覆う銀のプレートメイルに、成人男性の背丈はありそうな銀のグレートソードを装備している。
光の具合から察するに銀かミスリルだが、堅く魔法が通用しないとなれば、ミスリルの可能性が高い。
フォルクたちもあのミスリルに目が眩んで、挑んだのだろう。
だが、突如リビングアーマーは立ち止まり、剣を振り上げた。
よくみると、彼の足元には小さな男の子が。逃げる途中、転んで足をくじいたのか。
「お、お母さん!! 誰か助けて!!」
このままでは子供が危ない。威力のある魔法を放って一気に……いや、リビングアーマーの下敷きになるのも避けないといけない。まずは、子供から引き離させる。
「ウィンドカッター!!」
俺は右手を前に出して、リビングアーマーの振り上げた剣に、風の刃を放つ。
それに気が付いたリビングアーマーは、とっさに後ろへ身を引く。
「レイナ、その子を!」
「お任せ下さい!」
子供の保護はレイナに任せ、俺は剣を抜き、リビングアーマーに走った。そして注意をこちらに惹きつけるため、叫んだ。
「俺が相手だ!!」
リビングアーマーは剣を振り上げ──俺が間合いに入ると、一思いに振り下ろす。
俺はそれを剣で弾くと、リビングアーマーは一瞬姿勢を崩す。
が、俺の粗悪な剣はすぐに折れてしまった。
したりと、再び剣を振りかぶるリビングアーマー。
しかし、俺はすぐに右手に魔素を纏わせ、それを奴の腹に喰らわせる。
「……奥義・天空雷霆破ぁあっ!!」
俺の拳はドンと重い音を立て、リビングアーマーの鎧に風穴を開けた。
鎧は粉々に砕け落ちると、霊体はその場で漂うだけとなる。
また、技名を叫んでしまった……いや、叫ぶと力が入るのはやっぱり事実な気もするな。
「にいちゃん、すげえっ!」
ひとり恥ずかしく思っていると、俺の後ろから子供の声があがった。それから少し遅れて、街のほうから大きな歓声が響くのであった。