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4話 35歳おっさん、少女を救う

 俺はイッシンたちを見送った後、再びベルデーン帝国にむけ、街道を進んでいた。


 ──なんだか、本当に四十年も修業をしていたのが信じられないな。夢みたいな時間だった。


 だが、あれから何度か魔法を試したところ、俺は魔素を自在に操り魔法を使えた。アネッサの修行の成果は、ちゃんと残っている。


 現実、だったんだろうな。


 だがもう一つ分からないことがある。頭に響いた俺の【霊視】が【霊験】に変化したって声はなんだったのだろうか。


 イッシンたちは別れ際、必要なら力を貸すといっていた。【霊験】で得た降霊術は、彼らを地上に呼びだせる術なのかもしれない。


 そしてその言葉の続きが正しければ、俺は人が本来一つしか持てないユニークスキルを、三つ得たことになる。【心眼】、【神魔】、【金剛】の三つをだ。


 【心眼】は相手の動きを見切り、【神魔】は膨大な魔力を使用できるようになり、【金剛】は体を鉄のように頑丈にする。いずれも国に数人しか持っている者がいない、希少なスキルだ。


 俺はそれが本当か確認するため、短刀で指の一部を傷つけた。だが、血は全くでないどころか、擦り傷にもならない。


 おお、これが【金剛】の効果か! ってことは、本当にユニークスキルを手に入れたんだな。


 だが、操霊術と霊葬術……これはなんなんだろう。


 そんなことを考えていると、街道の先がやけに騒がしいことに気が付く。


 ケンカでもしてるのか? いや、これは……!?


 俺は剣を抜いて、騒ぎのほうへ走った。


 聞こえてきたのは獣の遠吠え。おそらくはダイアウルフかなにかの魔物のものだろう。街道では、彼らによる襲撃で度々死者が出ている。


 次第に見えてきたのは、刀を振るう一人の黒髪の女の子と、それを囲むウォーウルフの集団だった。


 ウォーウルフはダイアウルフよりも小柄だが、より凶暴で俊敏だ。基本的に十匹ぐらいの集団で行動するので、冒険者が四人いても苦戦する。


 女の子を囲んでウォーウルフは、全部で十二匹。ひとりじゃとても太刀打ちできない。


 やっかいなやつだな……だが。


 前の俺なら簡単に殺されてしまうだろう。

 しかし、今は違う。


 長い黒髪を後ろで纏めた女の子は、刀ですでに数匹仕留めていたようだ。しかし足や腕から血がぽたぽたと流れている。


 はやく助けなければ。


 俺は剣を構え、加勢に走る。


 すると、こちらに気が付いたウォーウルフが二匹、飛び掛かってきた。


「一心閃!!」


 俺は二匹を一刀のもとに切り捨てた。


 それをみたウォーウルフ三匹が、仇討ちといわんばかりに三方から俺に向かってくる。


「竜風斬!!」


 俺は周囲を風で払うように、剣を振り回した。


 すると、三匹はその場で倒れる。

 同時に黒髪の女の子も、ウォーウルフを一匹斬った。


 他のウォーウルフは敵わぬと判断したのか、遠吠えながら去っていくのであった。


「いったか」


 俺は遠ざかるウォーウルフを見て、剣を鞘にしまった。


 というか、イッシンの特訓のせいで真面目に技名まで叫んじゃったよ。いい大人が、大声で技名を叫ぶなんて。ああ、恥ずかしい……


 って今はそれどころじゃないな。


 黒髪の女の子はその場で膝をつく。俺になんとか頭を下げているが、凛とした顔は苦痛で歪み、息は荒かった。


「あ、ありがとうございます。私は、レイナと申します」


 長い黒髪を後ろで纏めたこの娘は、レイナというらしい。


 幼さの残る顔に、ぱっちりとした目に澄んだ黒い瞳、整った鼻筋がとても美しい。体は華奢だが不健康な細さではない。鍛えているような体型だ。


 刀を見るに、剣に自信があるのだろう。


「レイナ、無理して喋らなくていい。待ってな。今、治す」


 俺は魔素を使って、レイナの傷を癒す。すると目を疑うような速さで、傷はみるみるうちに消えていった。


 すごい回復力だな。前のパーティーのヒーラーの十倍は速いんじゃないか。


 あっ、というより何も呪文を言ってなかったぞ。イッシンたちのことを話すわけにもいかないし、変に怪しまれたくないな。


「……ヒール」


 俺は申し訳程度に、小声でそう唱えた。


 レイナは信じられないといった顔で、自分の体をきょろきょろと確認する。


 そしてすっと立ち上がると、綺麗に姿勢を正して、頭を下げた。


「あ、ありがとうございます! 危ないところを救ってもらうだけでなく、傷まで癒していただくなんて」

「いや、冒険者として当然のことをしたまでだ。それより……ほら」


 俺は纏っていた外套を脱いで、レイナに手渡した。レイナのシャツやスカートはビリビリに破けており、白い柔肌が露わになっている。どうにも見てられなかったのだ。


「……えっ!? これはお見苦しいものを!」


 レイナは自分の格好に気が付くと、顔を真っ赤にし、頭を下げた。だが、そのせいではだけた胸元から、たわわな胸がちらっと見えてしまう。


 俺は何も言わず目を瞑り、外套をほいっと差し出した。


「あ! ほ、ほんとごめんなさい! な、なにからなにまで、すいません!」


 見苦しくなんて全くない。ただ、ちょっと綺麗すぎて、おっさんの胸が高鳴ってしまっただけだ。


 俺はレイナに背を向け、続けた。


「服も血だらけだろ? 俺は魔物がこないか、こっちを見張っているから」

「あ、ありがとうございます!」


 レイナはそそくさと木陰にはいった。


 駆け出しの冒険者なのかな。ちょっと、抜けているというか。


 でも、ひとりでウォーウルフを三体倒したのを見ると、剣の腕は相当なものだ。一流の剣士といっていいだろう。


 かくいう俺も、昔じゃ考えられないほど戦えた。修行の前の俺なら、なんとか一体を相打ちにもっていけるかだったはずだ。


 それを五体も……うん?


 俺はウォーウルフたちの遺体から霊が抜けるのが見えた。


 霊が俺の右手に集まってくると、頭に声が響く。


 ”霊葬を行いますか?”


 ……霊葬? 使えるようになったっている霊葬術か。おそらくあの世に霊を送るってことだろうな。


 レイスになったりしないよう、送ってやるか。


 俺はウォーウルフが安らかに眠れるようにと手を合わせた。


 すると、俺の頭に声が響く。



 ウォーウルフを八体、霊葬しました!

 霊力を獲得!

 スキル【嗅覚探知】を獲得!



 今のは……?


 俺はまた、何か力を得たようであった。

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