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17話 35歳おっさん、二人の娘におごる

「うぅんまいっ! これ、何本でも食べられる!!」


 アリサは恍惚とした表情で、カニの脚をしゃぶっていった。


 カニだけじゃない。牛や豚、チーズ……一皿でお腹いっぱいになるようなものを、がつがつと食べていた。


「ちょ、ちょっと、アリサさん……食べ過ぎでは?」


 レイナもそう小声で言うが、アリサはお構いなしだ。


 まあ、その点でいえばレイナも負けてない。食べた量でいえば、いい勝負をしてる。


 もともと余るかもしれないと恐れていた料理は、このふたりによってすでに平らげられた。今は、追加で倍の注文をしている。


 よっぽどお腹が空いてたんだろうな……本当によく食べる。


 二人とも俺より二十近く若い。食べ盛りというやつなんだろう。


 ただ、結構な金額になりそうだな……


 そんなことを思っていると、レイナがアリサにいった。


「アリサさん。それよりも、どうして私たちの後を?」

「ぶっ! わ、私、別にあんたたちの後なんて追ってないわよ!」

「では、ここの食事が美味しそうだから、窓から覗いてたんですか?」

「そ、そうよ……ここのご飯が美味しそうだったからよ!」

「窓に引っ付いて、ですか……」


 レイナは、しらを切るアリサに呆れた顔をする。でもまあ、美味しそうに思えたのは本当だろう。でなければ、あんなに大きく腹の音を鳴らさない。


 しかし、俺たちをつけていた理由は気になるな。ただ、単刀直入に聞いても、馬鹿正直には答えてくれそうもない。ここは、少しずつアリサの話を聞いていくか。


「そういえば、アリサは流派天空不敗の使い手なんだよな?」

「そうよ。本家本元。百八十二代伝承者よ」


 アリサは誇らしげに言い放った。


「そ、そうか。しかしどうして、冒険者なんかに?」


 冒険者になりたいという者の動機は、だいたい決まっている。人々のために魔物と戦いたいという正義感からなる者、または経済的状況から冒険者にならざるを得なかったりする者。この二通りがほとんどだ。


 さっき聞いた話だと、流派天空不敗の道場は大陸中にあるという。そこの本家本元となると、経済的に困窮しているとは考えづらい。


 しかし、アリサはいいづらそうに言った。


「……なるしかなかったのよ。道場を差し押さえられてしまったから」

「そ、そうか……それは大変だったな」

「ええ、本当に大変よ! 馬鹿な父が浮気しまくって、女という女に貢いでしまったんだから! まだまだ借金を返さないと……」


 アリサはそういって、がつがつと再びカニの脚を口に運んだ。


「それで一獲千金の目がある冒険者になろうと思ったわけか」

「そうね。まあ、そんなに上手くいくとは思っていないけど……それよりもあなたはなんなの?」


 アリサは話題を変えてきた。


「去年まで、流派天空不敗の者たちは、皆この帝都で最強を決める大会を開いていた。だけど、あなたみたいな使い手は初めてよ」

「そ、そうか? 買いかぶりすぎじゃないか?」


 俺がいうと、隣で聞いていたレイナが口を開く。


「いえ、アトス様の拳は本当にすさまじいです……前のリビングアーマーを一撃で粉砕したときもそうでしたが」

「うそっ!? リビングアーマーを拳でやったの!? それって鎧だけ?」

「いえ、中までです……本当に一撃で倒したのです。しかも、すごいのはそれだけじゃないんですよ! アトス様は剣術の腕も達者なのです! 私は残夜イッシン流剣術の伝承者なのですが、まったく足元にも及びません!」

「あなた、あの残夜イッシン流剣術の伝承者なの!? 先祖が確か、一緒に魔王を倒した仲だったわね!」

「はい! 私もその話は聞いてました!」

「私もよ! こんなところで会えるなんて奇遇ね!」


 盛り上がる二人。よかった。俺から話題がそれて……


 そう思っていたのも束の間。レイナがいう。


「それに、アトス様は魔法の使い手でもあるのです! 今度、私も教えていただくことになっていて! 適性のない私でも使えるようになるって仰るのです!」

「魔法も!? ……ますます何者なの、あなた?」

「ほ、本当にただの冒険者だよ。まあ、色々修行はしたけど」


 そういって誤魔化すが、アリサは怪しそうに俺を見る。


 すると、ふうっと息を吐いていった。


「……ついてきたのは、あなたのことがもっと知りたくなったからよ。私と一部の者しか知らない奥義を使い、私を圧倒した……あなたはマスター・ヘブンと呼ばれてもおかしくない男だわ」

「本当に買いかぶり過ぎだって……まあ、正直にいうとな、俺は魔法を組み合わせて戦い方を工夫してるんだ。拳や剣は、実はそこまで上手じゃない」


 そういえば卑怯な手を使っていると思ってくれる。そう思った。


 しかし、アリサは続ける。


「それが、あの技を出せるようになった理由なのね。私も魔法の適性はないけど、ぜひ使えるようになりたいわ……」


 そこまでいうとアリサは立ち上がり、突然深く頭を下げた。


「私を……弟子にしてください。師匠!」


 なんとなく、こうなるだろうとは思っていた。


 しかし、彼女もレイナ同様、俺の恩師の末裔。血のつながりは分からないけど、武術を伝承してるのだから子供のようなものだ。


 だがレイナへの指導もある。アリサを指導することで、レイナへ教える時間を減ったらどう思うだろうか。


 俺はレイナに視線を移した。


 しかし、レイナは察してくれたようにうんと頷く。


「私も仲間ができるのは嬉しいです! それに三人なら、もっとよく稼げるんじゃないでしょうか?」


 冒険者パーティーの最適人数は四人か五人といわれている。これは戦闘力だけでなく分け前なども考慮されて言われていることだ。


 だが、俺とレイナの実力なら、二人でも十分やっていけるだろう。もちろん分け前は減るし。


 しかし、討伐した魔物を持ち帰ったりするとき、人数が大いにこしたことはないのだ。俺にはリヴィルがいるが、リヴィルは戦闘ができない。


 なにより、恩師への思いからレイナを迎えた以上、アリサを仲間にしないのは筋が通らない。しかも困窮しているのだから、放っておくのはマスター・ヘブンに合わす顔がない。


「わかった……アリサ、今日から一緒にパーティーを組もう」

「ほ、本当!? あ、ありがとう! 私、頑張る!」

「ああ、よろしくな」


 こうして、俺たちのパーティーにまた新たな仲間が加わるのだった。


 この後、俺たちは食事代を支払おうとした。

 しかし、どうやらこの店を教えてくれた試験官が、仲間と一緒に俺たちにおごると店側に伝えてくれたらしく、俺たちはその厚意に甘え、店を後にするのだった。

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