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16話 35歳おっさん、冒険者となる

「や、やった?」


 レイナが振り返ると、真っ二つとなった霊竜は弾けるように消えていった。


「おお、すげえ!」

「ほ、本当に俺たちと同じ受検者なのか?」


 受検者たちが歓声をあげる中、俺はレイナの近くへといき、霊葬を行う。


 霊竜を一体、霊葬しました!

 霊力を獲得!

 スキル【魔吸】を獲得!


 魔吸……この霊竜がそうしていたように、霊自らが魔素を集める力なのだろう。これがあれば、霊竜のような強力な霊をつくることができるかもな。


 しかし、ひとつ引っかかる。リビングアーマーを倒したときは、この【魔吸】は手に入れられなかった。リビングアーマーも魔素を集め、魔物となったはずなのに。


 推測でしかないが、その霊が一番得意としていたことが、スキルとして手に入るのかもしれない。


「アトス様……私、斬っちゃったみたいです」

「斬っちゃったみたいだな。だから、いっただろう?」

「で、でもアトス様の助けがあったからで。何をされたのです?」

「レイナの周囲と、剣に魔素を纏わせたんだ」

「魔素……?」

「魔法を使うためのものだよ。その内教えるさ。レイナなら、すぐに覚えられるよ」

「は、はい! 頑張ります!」

「よし。それじゃあ、合格祝いもかねて、いい飯屋にいくか」

「はい! おいしいもの、食べましょう!」


 そんなことを話していると、試験官のひとりが俺たちのもとにやってきた。


「な、なにをしたんだ? 急に膨大な魔力がその刀に集まるのを見たぞ!」


 試験官は、魔力探知の魔法でも使ったのだろう。俺がレイナに付与した魔素が、彼らには信じられない量に映ったのかもしれない。


「あ、ああ……そういう技があるんだ」

「お前たちは、冒険者にしておくのはもったいない。よければ、宮殿にお前たちを取り立ててもらうよう奏上するぞ」


 宮殿で働くか。地位や名誉、金は手に入るかもしれない。

 だが、俺は政治闘争や貴族のしがらみには参加したくはない。


「俺は結構だ」

「私もです。私はアトス様についていきますから」


 レイナもきっぱりとそういった。


 試験官は意外な顔をしたが、すぐにこう答える。


「だが、少しでも討伐が遅れれば、ここにいる者のみならず帝都の市民にも危害が及んでいたかもしれん。ここの監督者として、なにか礼を……」

「それなら、この帝都で料理が美味しい店を教えてくれ」

「お前たち……」


 試験官はふっと笑って、素直に店を教えてくれた。


 俺たちは受検者や試験官からの喝采を浴びながら、闘技場を出るのだった。


 それから帝都の大通りを進んで、俺たちは試験官に教えてもらった店へとはいる。


 大理石をふんだんに使った外観と、金細工で装飾された内装からして高級店だとすぐにわかった。香が焚かれていたり、俺も入ったことがないほど、格式高そうな店だ。


 俺たちは席に着く。

 レイナはよく食べるし、祝いということもあって、少し多めに注文することにした。殺人鳥の丸焼きやら、氷雪鮫のひれだとか、高級な食材が目白押しだ。


「んんぅ……んまい……」


 レイナは次々と料理を口に運ぶと、頬を両手で抑えながら、至福そうな顔をした。


 うん、文句なしに美味しい。

 高級食材ということもあるが、この店のシェフの腕がいいのだろう。試験官はたしかに美味しい店を案内してくれたようだ。


「アトス様、もっと食べてください! 私ばっかじゃ悪いです」


 レイナは俺があまり食が進んでないのを見てか、そう促した。


「あ、ああ。もちろん、いただくよ」


 口ではそう答えた。


 だが先程から、なんだか食事に集中できないのだ。なんというか、まだ誰かにじっと見られている気がして。


 俺は周囲を見渡す。もしかしたら、闘技場からまだ霊につけられているのではと。


「アトス様? なにかございましたか?」

「ご、ごめん。ただ、誰かにつけられている気がしてな」


 どうしてそう感じるのだろうか、分からない。なんだか、ずっと同じものを感じるのだ。


 これ、もしかして霊じゃなくて、【嗅覚探知】のせいか?


 そんなことを考えていると、突如店の外から悲鳴が上がった。


「っ!? なんだ!?」

「外の方からのようです! 行きましょう!」


 俺たちは、すぐに外へ出る。


 また霊が現れたのではと思った。しかし、外に出て見えてきたのは、見覚えのある女の子が倒れているところだった。


 短い銀髪に、動きやすそうな武闘家の服を着ている。先程闘技場で戦った女の子だ。


「あ、アリサ!? 大丈夫か?」


 地面でぴくぴくとするアリサに近寄り、俺は回復魔法をかけた。


「どうしてこんなところに……今、回復魔法をかけるぞ」


 すると、悲鳴をあげたであろう街の女性が、俺にいった。


「よかった、治療ができる方がいて……その方、窓からずっとお店を眺めていて、そしたら倒れてしまったんです」

「……この店を?」


 すると、倒れていたアリサが声を発する。


「そ、そんなことないし……ずっと、あんたたちについてきたわけじゃないし……」


 いや、そんなこと俺の口から一言もいってないからね……


 レイナがいう。


「じゃあ、アトス様がずっと感じていた気配って……」

「この子だったんだな……」


 なんでついてきたのだろうか。

 とにかく今は、治療を優先する。


 だが、アリサに外傷はない。疲労か何かで倒れたか。いや、飲食店をずっと見てたなら、腹が減っていた可能性もあるな。


 アリサはふうと息を吹き返し、上半身を起こす。


「か、感謝するわ……あっ」


 アリサの腹から、周囲にぐうっと大きな腹の音が鳴り響いた。


 顔を真っ赤にしたアリサは、腹を抑えていう。


「だ、誰かしら?」

「いや、君だろ……とりあえず、なにか食べたらどうなんだ? もしよかったら、一緒に食べるか?」

「ほ、本当!?」


 ずっと冷たい感じだったアリサは、目を輝かせ俺に言った。


「も、もちろん。だけど高いぞ?」

「え、えっと……いくらかしら?」


 俺はアリサに素直に金額を伝えた。

 冒険者なら、一週間分の食費ぐらいの金額だ。


 アリサはがくっと肩を落とす。


「そ、そんなに落ち込むなって。実は頼みすぎたなって思ってたんだ。レイナ、いいよな?」

「え? はい、私はもちろん構いません。それに相当顔色悪いですし、はやく何か召し上がったほうがいいでしょうから」


 もちろん、レイナなら全て平らげてしまうだろう。

 しかしレイナも、空腹のアリサを憐れに思ったようだ。


「あ、ありがとう……この恩は、必ず返すわ!」


 このあと俺たちは、アリサと一緒に食事をすることになった。

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