15話 35歳おっさん、闘技場の亡霊を目にする
「えっと、俺はどうすればいい?」
去っていくアリサを見て、俺は試験官に訊ねた。
「君はもういい。冒険者だ」
試験官は俺と関わりたくないのか、合格と書かれた紙を渡して、別の受験者の名前を読み上げた。
すると、レイナが俺にいう。
「アトス様、お見事でした! それと、合格おめでとうございます!」
「ああ。ありがとう、レイナ」
なんだか複雑な気分だ。この年で冒険者として認められるなんて。まあ場所も変わったし心機一転、これからも頑張るとしよう。
そんなことを思っていると、レイナの名前が試験官に呼ばれた。
「あ、私の名前」
「頑張れよ。終わるまで、俺はそこらへんにいるから」
「はい!」
この後、レイナは他の受験者と戦っていった。
俺は木剣で戦ったが、木の槍や斧など、武器は自由に選べるらしい。
魔法を使える者は魔力の制限がかかった杖を渡され戦っていた。
レイナはもちろん一回も苦戦せず、次々と勝ち上がっていく。魔法や飛び道具が相手でも、軽々と避けていた。
この子、もともとやっぱり強いんだろうな。
レイナは合格と書かれた紙を試験官から受け取ると、俺のほうへやってくる。
「お疲れ様、レイナ。合格したんだな」
「はい! これもアトス様のおかげです!」
「いや、レイナがもともと強いんだよ。ん?」
「どうかされました、アトス様?」
レイナと話していると、どこからか視線を感じた。
あたりを見渡すが、最初に目立ったせいで、先程からこっちを恐ろしそうに見てくる奴が多い。
なんだろうな、この感じ……【嗅覚探知】のスキルのせいだろうか。恐れられているというよりは、俺を狙うような気配を感じるのだ。
俺は注意深く、もう一度周囲を探した。
すると、遠くのほうで大きな光がたたずんでいた。
「あれは……霊?」
そう思った瞬間、突如として周囲の魔素が霊に向かって集まり始める。
その魔素がとてつもない量だったため、俺は気が付けば叫んでいた。
「皆、逃げろ!」
しかし、すでに遅かった。
魔素を集めた霊は、皆にも見えるほど巨大で膨大な魔素を纏っていたのだ。
そうしてできたのは、巨大な竜のかたちをした霊。
受検者や試験官たちが声をあげる。
「な、なんだあれは!?」
「も、もしや霊竜!?」
試験官が口にした霊竜というのは、魔物の一種だ。
主に戦場など、多くの命が失われた場所に現れるという。
伝説では、同じ怨念を持った者たちが集まり、魔素を纏った姿といわれていた。
ここは闘技場。かつて殺しあいが行われた場所だ。かつての剣闘士たちの亡霊が、集まったのかもしれない。
冒険者試験が変わったのは、つい最近だ。新たな試験をここで始めたことで彼らを刺激してしまったのだろう。
「まずい! 仕留めるぞ!」
試験官たちは魔法や飛び道具で攻撃するが、まったく通用しなかった。
あの魔素の量だ。生半可な攻撃は効かないだろう。
なにせ、王国では霊竜はS級の魔物とされていたほどだ。強力な魔法が使えるパーティーじゃなければ、まず討伐不可能といわれていた。
「レイナ。あいつを斬れるか?」
「生身でないですから……」
不安そうにするレイナに、俺は続けた。
「俺の師匠は、この世で斬れないものはないとおもって剣を振れっていってた」
根性論みたいだが、心がけは大事だ。少なくとも、今はそういえる。
レイナははっとした顔をして、やがて力強く頷いた。
「今の言葉……アトス様、私、斬ってみます。あの竜を」
「ああ。俺は魔法で援護する」
「お願いします!」
そういって、レイナは霊竜に走っていった。
俺はレイナの周囲に魔素を展開し、その剣に魔素を纏わせる。
すると魔素の吸収を終えた霊竜が、レイナに目を付けた。
だが、レイナは臆することなく加速して、
「一心閃!!」
霊竜の胴体を両断した。
周囲はそれを見て、口を大きく開けながら立ち尽くすのだった。