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1話 35歳おっさん、追放されてしまう

「アトス、お前とは今日でお別れだ」


 ギルドの休憩室で、勇者フォルクは俺に告げた。


「感知魔法を使えるやつを見つけた今、【霊視】しか使えないお前は荷物持ちでしか使えない。いや、お前の年じゃ、お前がお荷物だ」


 俺は今年で三十五になる。一方のフォルクと他の仲間はまだ十代だから、年云々は分かるさ。


 でも、ユニークスキルが原因でパーティーを追放されるのは何度目だろうか。


 人は誰しも、ユニークスキルという特別な力を持って生まれてくる。


 そんな世界で俺は【霊視】と呼ばれる、ただ霊体が見えるだけのユニークスキルを持って生まれた。この国では俺しかもっていない珍しいスキルだ。


 このスキル、決して使い道がないわけではない。


 レイスに代表される霊体の魔物は霧のように薄く見えにくい。森やダンジョンのような視界の悪い場所では、その存在に気が付けず、襲われる人間も多いのだ。


 【霊視】はそんな魔物たちを、事前に察知することができた。


 しかし、この【霊視】よりも有用な感知魔法がある。これは霊体の魔物だけでなく、魔力を含むものはなんでも捉えられる。


 つまり【霊視】は、感知魔法の劣化版でしかない。


 お前も感知魔法を覚えればいいじゃないか、という声が聞こえてきそうだ。だが、魔法を使うには生まれ持った適性が必要で、俺にはそれがなかった。


 隣にいる勇者たちの仲間が、ここぞとばかりに悪態をつく。


「というか、感謝してもらいたいものだよ。あんたみたいな無能を入れてやったんだから」

「そうそう。まわりの冒険者からもあんなの入れてるんだって皆に言われてたし。誰もあんたと組みたがらないよ。もう引退しなって」


 悔しいが、ぐっと堪える。


 たいして役に立たないユニークスキル持ちで、魔法も使えない。自分が無能であることは百も承知。


 だが、それでも生きていかなきゃいけないんだ。


「あいにく、引退するわけにはいかないんだ。お前たちと違って、いい依頼も回ってこなかったからな。まだまだ働かないと」


 いつもパーティーの穴埋め要員で、どうにかその日食べれるかどうかの分け前しかもらえなかった。蓄えもなければ身寄りもない。他の仕事をするにも、こんな年じゃなかなかどこも雇ってくれないだろう。


「そうか。だがもうこの街じゃ、誰もお前と組んでくれないと思うぜ。じゃあな」


 フォルクたちは清々したような表情で、休憩室から出ていく。


 フォルクのいうように、この街の冒険者で俺と組んでくれそうなやつは誰もいない。もっといえば、このボルド王国の主要な街では、もういないだろう。


 俺は別の国のギルドを目指し、街を出ることにした。


~~~~~


 あれから丸一日。俺は隣国ベルデーン帝国の帝都ベルデンに向かうため、街道を進んでいた。


 ベルデンは首都であるだけに、冒険者も多いと聞く。そこなら誰かと組めると思ったのだ。


 すでに周囲は真暗で、灯りといえば俺の松明と月ぐらい。


 途中で宿を見つけたが、あまり金を使いたくないこともあり、初日は睡眠を我慢することにしたのだ。


 しかし、やっぱり眠い。どっかで少しでも仮眠したほうがいいかもしれない。


「もう少しで朝になりそうだな……うわ」


 空が白み始めたちょうどその頃、間の悪いことに、激しい雨が降ってきた。


「屋根がある場所を見つけないと……うん?」


 街道の先に、列柱で囲まれた白い神殿が見えてきた。


「こんな場所に神殿が。あそこでしばらく寝させてもらうかな」


 神殿はあらゆる人を迎え入れてくれる。巡礼者だけでなく、俺みたいな冒険者も泊めてくれるのだ。

 

 まあ神官がいるならちょっとした寄付や、掃除などを求められるのが普通だが、それでも宿に泊まるより安い。


 さっそく神殿の中にはいるが、中央に並ぶ三体の像だけが見える。

 蝋燭は灯されているが、人はいないようだ。他に部屋があるわけでもない。無人の神殿なのかな。


 しかし、それにしては管理が行き届いている。床は掃き清められ、三体の像の前には花が供えられていた。


 まあお世話になるとするか。


 無人の神殿に泊まる際は、像の前で何かを供え手を合わせればいい。俺はなけなしの銅貨を一枚ずつ三体の像の前に置き、祈ってみた。


「ちょっとの間お世話になります……あと、もっと強くなれますように」


 名前も分からない像にそう祈ると、俺は壁際で横になった。


「はあ……疲れたな」


 自然と大きなため息が漏れる。


 思い返されるのは、街を転々とし、自分よりも若い冒険者たちにこき使われ、馬鹿にされる毎日。どうして自分は冒険者になってしまったのかと、後悔したこともあった。


 もともとは世のため人のため、そう思って冒険者になろうと人一倍努力をしていた。


 冒険者になりたては、その努力の甲斐あってか他の者たちよりも戦えていたのだ。しかし優秀なユニークスキルや魔法の適性を持つ者に、どんどんと追い越されていった。


 ベルデーン帝国にいっても、また馬鹿にされる日々を過ごすのだろう。


「もう、疲れたな……本当に、疲れたよ」


 もはや口癖となった言葉を呟き、俺はゆっくりと目を閉じた。


 だが少しして、声が響く。


「……諦めんなよ」


 え、誰か喋った? いや気のせいだよな。


「諦めるなよ、おっさん!!」

「諦めたら、そこで人生終了ですよ!!」


 …………うるせえ。


 たしかに疲れたとはいったが、死にたいなんて口にしてないからね。まあたしかに、自殺しそうな人のセリフだったかもしれないけどさ。


 誤解を解くため、俺はいやいやながらも目を開いた。


 するとそこには三人、俺を覗き込むようにいた。皆、人間のようだが、なんだか体が光って見える。


「体が輝いている? なんなんだ、あんたたち?」

「しゃ、しゃ……しゃべったあぁああああ!!」


 三人は揃って悲鳴をあげるのであった。

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