第三十八章 警察官の広美が探偵の教育する
釈放された清水康夫は、何故、亮太が死んだ事になっているのか理解できなかった。
担当刑事に確認しても個人情報だと説明されて教えてもらえなかった。
どうしても気になり泉に会いに行った。
以前住んでいたマンションには住んでいなかった為に、泉の友達数人に聞いて勤務先を聞き出した。
康夫は早速、泉の勤務先を訪れた。
泉は受付から、「清水康夫という人が訪ねてきています。」と聞いて、亮太の事を確認しに来たのだと直感した。
泉は亮太に内線電話で、「いま、受付に清水康夫さんが来ているわ。再度退社時に来てもらい連れて帰るわよ。」と心の準備をするように促した。
泉は受付に行って、清水康夫に会った。
康夫は、「白石は死んだと聞いたが、その後で白石が俺と東京で会ったとアリバイを証言したと聞いた。どういう事だ?白石は生きているのか?死んでいるのか?」と疑問を泉にぶつけた。
泉は、「わかったわ。百聞は一見にしかずよ。今日の十八時に再度ここにきて。本人に会わすから。」と康夫を亮太に会わせて全てを説明する事にした。
**********
泉は退社時、康夫を連れて一緒に帰った。
泉は康夫を応接室で待たせて亮太を呼んだ。
泉は、「何しているのよ。亮太が来なければ何も始まらないわよ。早く来てよ!」と亮太の手を引っ張って応接室に連れてきた。
亮太は、「秋山陽子です。」と自己紹介した。
康夫は、「清水康夫です。」と自己紹介して、亮太の件に秋山陽子がどう関係するのか疑問に感じている様子でした。
泉は、「亮太、何しているの?化粧を落として。」と指示した。
康夫は、「亮太?」と亮太がどこかにいるのかと不思議そうでした。
泉は、「陽子の顔をよく見て。清水さんが渋谷で会ったのは陽子でしょう?」と確認した。
康夫は、「ああ、そうだ。陽子さん?白石ではなかったのか?でも警察は私が白石亮太に会ったとアリバイを認めてくれたぞ。お前、泉さんがいるのにセックスチェンジしたのか?」と混乱している様子でした。
泉は、「混乱するのも無理ないわね。亮太、説明してあげて。」と説明しないと康夫は納得しないと判断した。
亮太から全てを聞いた康夫は、「嘘だろう?」と信じられない様子でした。
泉は、「本当よ。亮太ったらHなのよ。姿見を部屋に置いて、裸になって見ているのよ。」と告げ口した。
亮太は、「俺はいつだって若い女性の全裸がみられるんだ。最高だぜ。この世の天国だ。」と笑っていた。
泉が、「何がこの世の天国よ!何考えているのよ!この変態!」と亮太に殴りかかった。
亮太は、「痛いな。そんなに怒るなよ。」と泉の前で失言したと反省していた。
**********
康夫は笑いながら、「白石、お前も色々大変だった事は理解できるが、今後も生きていけるじゃないか。俺はお前が死んだ事になっているおかげで、警察に嘘を吐いていると疑われてしばらく留置された。おかげで会社は解雇された。今後、俺はどうやって生きて行けばいいんだ!」と苦情を訴えた。
亮太は、「そんなオーバーな言い方をしなくても、再就職先を見つければいいだけじゃないか。」と簡単に考えていた。
康夫は、「自主退職ではなく解雇となれば、その理由を疑われて簡単に再就職できない。まして警察に留置されていたとなるとなおさらだ。だいたい白石が死んだ事になっているからだぞ。どうしてくれる!」と今後どうやって生きて行けばいいのか困っている様子でした。
亮太は、「康夫、お前探偵できるか?俺が男だったと知っている友達が探偵事務所を経営している。説明すれば理解してくれるよ。」と友彦に依頼して、駄目だったら父に理由を説明して再就職の口添えを依頼しようと考えていた。
康夫は、「そうか。頼むよ。生きて行く為だったら、探偵でも何でもするよ。」と亮太に期待した。
**********
さっそく探偵事務所に電話すると坂下が出た。
「秋山ですが、松島さんをお願いします。」と友彦を呼び出した。
「その声は陽子さんですね。先日の調査が終了すれば、松島が陽子さんを紹介してくれると言いながら紹介してくれなかった。今度の週末、私とデートして頂けませんか?」と亮太の事で、頭が一杯の様子でした。
「そうね。松島が私のお願いを聞いてくれたら考えてもいいわよ。私の携帯に連絡くれるように伝えてね。」と伝言を依頼して早く電話を切りたそうでした。
「わかった。何でもあいつに言う事を聞かせるよ。」と何とかして亮太とデートしたい様子でした。
電話を終えてしばらくすると、友彦から着信があった。
「はい、秋山です。」と電話にでた。
友彦は、「俺に何か用か?坂下が、天女に逆らえば天罰が下る。天女の指示に従えと五月蠅いんだ。お前、坂下に何を言ったんだ。」と亮太に確認した。
亮太は、「俺の頼みを友彦が聞いてくれたらデートしてもいいと言っただけだ。そんなに騒いでいるのか?」と笑っていた。
友彦は、「笑いごとじゃないぞ。お前、女の体を悪用しやがって。お前の依頼を聞くしかないじゃないか。俺に何をさせるつもりだ。」と不愉快そうでした。
亮太は康夫の説明をして、「あいつを探偵事務所で雇ってくれないか。」と依頼した。
友彦は大笑いして、「わかったよ。探偵が務まるかの確認の為、しばらく探偵の助手として採用するよ。問題がなければ探偵として採用するよ。」と承諾した。
亮太は、「ありがとう。助かるよ。明日にでも本人に電話させるよ。」と安心した。
亮太は康夫に連絡して、友彦の返答を伝えた。
亮太は、「そういう事だが、お前に注意しておきたいのは、松島は俺が男だったと知っているが、同僚の坂下は知らない。俺が生まれた時から女だと思っている。その坂下に一目惚れされて、俺の事を天女だと言っている。困っているよ。でも坂下が天女の指示に従えと松島に圧力をかけているから大丈夫だと思うよ。」と補足説明した。
**********
翌日康夫は友彦にアポをとり、亮太が書いた地図を見ながら探偵事務所を訪れた。
友彦は、「彼は陽子の同級生で、経験はないが、ここで探偵として就職させてと陽子から依頼された。」と康夫を坂下に紹介した。
坂下は、「天女の紹介だったら間違いないだろう。即採用だ。」と亮太とデートする事で頭が一杯の様子でした。
翌日、さっそく亮太に坂下から着信があった。
「陽子さんの同級生の清水康夫さんを探偵として採用したので、約束通り私とデートして頂けませんか?」と条件をクリアしたと伝えてデート依頼した。
「私は考えてもいいと言っただけで、デートするとは言ってないわよ。そんなに私とデートしたいの?」と松島から聞いたように、本当に騒いでいるなと呆れた。
「勿論デートしたいです。考えておいて下さい。良い返事を待っています。」と期待して電話を切った。
泉が、「亮太、坂下さんとデートしないと採用取り消しになるわよ。今後も坂下さんと付き合わないと、清水さんは解雇されるわよ。」と笑った。
亮太は、「なんで俺が男と付き合わなければならないんだ。」と不愉快そうでした。
泉は、「亮太が変な条件を出すからでしょう?自分のまいた種だから、あきらめてデートしなさいね。」と笑っていた。
**********
数日後、友彦から亮太に着信があった。
亮太は、「何か調査の依頼か?」と確認した。
友彦は、「以前、島谷外務大臣の自宅で本場京都から芸者を呼んでパーティーを開催した事があるらしい。芸者にも縄張りなど色々あるらしく、以前から島谷外務大臣の自宅に出入りしている芸者が怒って、京都の、その芸者をぶっ殺すと言いながら京都に向かったらしい。そのパーティーにお前も出席していたと聞いた。その京都の芸者と連絡できないか?」と依頼された。
亮太は、「そんなの、警察に通報すれば問題ないだろう。」と不思議そうでした。
友彦は、「依頼者は、その芸者が所属する置屋のおかみさんで、警察沙汰にしたくないので、俺の探偵事務所に依頼してきた。」と警察に通報しない理由を説明した。
亮太は、「警察沙汰にしたくないといっても、あの時の芸者は、高校時代から鶴千代の源氏名でお座敷に出ていて、公務員になってからはボランティアとしてたまに芸者をしているよ。」と簡単に説明した。
友彦は、「そんなのどうでもいいから、早く連絡しろよ。」と焦っていた。
亮太は、「いいのか?警察沙汰にしたくないんだろう?鶴千代の本職は、京都府警捜査一課の係長で、主に殺人事件や凶悪事件を担当している。あの時は、芸者の経験がある係長が、事件絡みで潜入捜査に来ていただけだ。依頼者に、刑事が潜入捜査で芸者として来ていたから、芸者に連絡すると即警察に知れると相談しろよ。」と説明した。
友彦は、「わかった。依頼者に相談するよ。」と困った様子で電話を切った。
**********
しばらくすれば友彦から着信があり、「あの時の芸者が刑事だったとは知らなかった。その刑事と知り合いなら、内緒で対応して頂けるように依頼してほしいそうだ。最悪警察沙汰になっても仕方ないとの返事だった。」と依頼者の意向を亮太に伝えた。
亮太は京都府警に電話して、広美に依頼内容を伝えて気を付けるように伝えた。
広美は、「探偵は京都に来ないの?それって手抜きね。警察沙汰にしたくないんでしょう?それだったら相棒が必要よ。刑事を相棒にすれば警察沙汰になるわよ。探偵が私の相棒になってくれたら、警察沙汰にしなくても済むかもしれないわよ。」と亮太が京都に来ないかと期待した。
亮太は、「わかったわ。探偵事務所に伝えるわ。」と刑事の相棒に、刑事ドラマの主人公になった気分で期待して、仕事はしばらく有給休暇を取得しようと考えていた。
電話の内容を聞いていた刑事たちは、「係長、警察沙汰にしたくないって、何か事件の相談ですか?」と確認した。
広美は、「そうね。東京の芸者が鶴千代を殺すと言いながら京都に向かったらしいわ。その芸者が所属するおきやのおかみさんから探偵に相談があったらしいのよ。」と説明した。
「初対面の探偵を相棒にして、チームワークが保てるのですか?探偵の力量も不明ですし危険です。一課長に報告して正式に私たちが動きましょう。」と広美を心配していた。
広美は、「わかったわ。」と納得して一課長に報告した。
亮太は友彦に電話して、自分が京都に行こうとしていた。
友彦は、「お前、商社の社員だから暇じゃない。週末だけだと言っていたじゃないか。会社はどうするんだ?芸者の護衛だろう。清水康夫を連れて俺が行くよ。芸者姿だから、康夫も担当刑事の上司だとは気付かないだろう。その鶴千代さんに、あなたのおかげで彼が探偵になる破目になった。その罪滅ぼしとして、探偵として役に立つかどうか見極めてほしいと依頼しろよ。」と友彦が康夫を連れて行こうとしていた。
亮太は広美に電話して、「探偵が助手を連れて行きます。打ち合わせなどしたいそうですので、探偵事務所の松島までお電話お願いします。」と依頼した。
広美は探偵事務所の電話番号を聞いて、やはり陽子さんは探偵じゃないから来ないのね。体だけ死んだ事など、色々話がしたかったけれども残念ね。と思っていた。
京都に到着後、友彦は康夫をホテルに残して広美と打ち合わせした。
広美は、「私が清水さんの指導をするの?護衛してくれないの?」と探偵の見習いが相棒だなんて、一課長に報告して三係で対応する事にしていて正解だったわ。と安心していた。
**********
康夫は鶴千代の近くで待機して、刑事二名が近くにいるとも気付かずに、友彦は少し離れて様子を窺っていた。
刑事から無線で報告を受けた広美は友彦に電話した。
「松島さん、私を狙っている芸者の情報は把握していますか?」と確認した。
「ええ、顔写真は入手していますので捜しています。」と情報は入手していると広美を安心させようとした。
「人を襲う時は、帽子やサングラスなどで顔を隠します。身体的特徴は把握していますか?」と、この探偵大丈夫かしら?と不安そうでした。
「さすがプロですね。」と感心していた。
「のんきですね。その女性らしい人がいますよ。」と探偵は、あくまでも探偵ねと諦めた。
「えっ?どこですか?」とキョロキョロしていた。
「どこを見ているの?今、あなたの横を通った女性よ。」と教えた。
友彦がその女性に声をかけると、「じゃまするな!」と突然刃物で腕を切られて腰を抜かした。
その女性は、「お前も鶴千代の仲間か!ぶっ殺してやる。」と刃物を振り上げた。
広美は銃を構えて、「動くな!警察よ。刃物を捨てなさい!」と命令したが、広美が刑事だと知らないその女性は、広美の持っている銃をモデルガンだと判断して、広美を無視して康夫を刺し殺そうとしたので、やむを得ず、刃物を持っている腕を銃で打ち抜き、「身柄確保」と刑事に指示した。
広美は友彦に、「変装を見抜けないようだと尾行も難しいわね。あなたこそ探偵として役に立つの?」と睨んで軽傷なので手当ては本人に任せた。
その女性は、鶴千代が持っている銃がモデルガンではなく本物だと気付いて、「鶴千代!お前刑事だったのか!」と驚いていた。
彼女を逮捕した刑事は、「鶴千代は私の上司です。先日は芸者の経験がある私の上司が潜入捜査していただけだ。」と説明した。
広美は警察手帳を提示して、「京都府警捜査一課の高木です。傷害事件を起こす前に相談してくれれば何も問題なかったのに残念です。」と自己紹介した。
次回投稿予定日は、8月9日を予定しています。