再び色々と決まっていく。
「任せろ! 俺に掛かればマジックアイテム「腐葉土」なんて大量に仕入れてやる」
呼ばれたギュンターは拳を握りしめて気合いを入れていた。ユーファネートに呼ばれ部屋にやってきた際は、妹がレオンハルトと二人きりなのを見て激怒していたが、ユーファネートから話を聞くとテンションが上がっていた。
「ふっふっふ。俺の剣が冴え渡る。これはフィネも連れて行かないとな。丁度良い訓練になるな」
最近は冒険者としても名を上げつつあるギュンター。剣技だけでCランクまで上げており、次期侯爵でなければ将来有望の新人であると冒険者ギルドからは嘆かれていた。そんな期待の新人であるギュンターである。ユーファネートからの指名依頼に燃えないわけがなかった。
「ちなみに、どれくらいの量が必要なんだ?」
「そうですわね。まずは種として配れる程度には確保したいです。ですので、新たに作った研究所の畑を、マカダミアナッツの栽培に充てようかと思っています。これくらいの大きさで……」
机に用意されていた研究所の全体見取り図に線を入れていくユーファネート。それを見て何度も頷くギュンター。おおよその目星が付いたのか、ユーファネートに向かって確認をとる。
「その大きさなら「腐葉土」は8個でいいな? よし。分った。しばらくは魔物狩りに専念する必要があるな。ふっふっふ。いいだろう! 俺の実力をフィネやセバスチャン、ギルドにも見せつけてやる。ユーファ。俺はしばらく魔物退治にいくから、父上と母上に『しばらく帰らない』と伝えておいてくれ!」
「え? そこまで急がなくても大丈夫です――行っちゃった。お兄様ってあんなにせっかちだったかしら?」
「ふふっ。私との話もそこそこに出て行ったね。あれほどやる気に満ち溢れている彼を見れるなんてね。私とユーファが一緒に居るのを怒っていたのも最初だけだったね」
準備もそこそこに飛び出していくギュンター。ユーファネートは慌てて近くに居たメイドに護衛騎士の手配と、食料やポーションなども準備するように伝える。両親への伝言も頼むとメイドは一礼して早速行動に移るようであった。
兄の突発的な行動に苦笑をしているユーファネート。普段は見られない友人の姿に楽しそうにしているレオンハルト。年相応の行動をしているギュンターとは違い、落ち着き過ぎている2人は、一旦休憩を入れようと自分達の執事を呼ぶように別のメイドに指示を出した。
「では、お互いの執事が来るまで楽しもうか」
「わわわ! ちょっと近いですわ殿下!」
部屋に居たメイド達が全員居なくなったのを境に、レオンハルトがユーファネートの隣に座ると抱き寄せるレベルで近付いて話し掛けてくる。一瞬で顔を真っ赤にさせて挙動不審になったユーファネートが、推しキャラの勢いに過呼吸になりそうになって思わず押し返す。
「先ほどまでと同じように『レオン』と呼んで欲しいのだが?」
「……。はぃ……。レオン様」
湯気が出るのではないかと思うほど真っ赤になっているユーファネートと、それを愉しそうに見ているレオンハルト。ユーファネートにとっては心臓に高負荷が掛かりながらも幸せな時間はユックリと流れていくのだった。
◇□◇□◇□
「……。殿下? それはあまりにも」
レオンハルトの執事であるユルクが呆れた表情になっていた。メイドに呼ばれ、主人のレオンハルトと婚約者であるユーファネートが居る部屋に入ってきて、最初に目に入ったのは主人が婚約者を膝の上に座らせてクッキーを食べさせている光景であった。
「どうかしたかい? 婚約者だから問題ないだろう?」
「こ、婚約者なら普通。そう、婚約者なら普通なのよ。むしろチャンス! この瞬間を! この瞬間を目に焼き付けなければ。私の心にあるフォルダに容量制限はないわ!」
愉しそうにクッキーを食べさせているレオンハルトと、うわごとのように呟きながらも従順にクッキーを食べているユーファネート。飼い主がペットにおやつをあげているような光景であったが、一緒に入ってきたメイドには刺激が強かったのか、頬を赤らめながらも2人の様子をガン見していた。
「ユーファネート様?」
「セバスチャン? ……。だ、大丈夫ですわ! 私はこの瞬間を生きているのです」
いつもの凜々しい主人とは違う顔を見てセバスチャンが声を掛ける。ぼうっとした表情で全身真っ赤にしていたユーファネートだったが、セバスチャンの声で我に返ったのかキリッとした顔に戻って意味不明な答えを返す。
「どのような表情を浮かべておられても、ユーファネート様の神聖さに変わりはありません。今日は殿下のお力でユーファネート様の新たな一面を見る事が出来ました。これは今日の日記に詳細を記載しないと」
「おい。セバスチャン。お前はなにを言っているんだ?」
主人とレオンハルトの仲むつまじい姿を見て、なにやら頷いて感想を述べているセバスチャンにギョッとした表情を浮かべるユルク。しかし、セバスチャンはユルクの言葉に反応する事なく、ユーファネートに憧憬の視線を向け続けていた。
「丁度良かった。ユルク。ユーファと私に紅茶の準備を。クッキーは大量にあるのだが、飲み物が無くて困っていたのだよ」
「殿下。侯爵様が、この現場を見られたら激怒されますよ」
「大丈夫だよ。奥方のマルグレート殿には許可はもらっているからね」
なんの許可をもらったんだよ。と二人きりならツッコミが出来たであろうが、さすがにユーファネートとセバスチャンの前では猫を被り続けたいユルクは苦笑いを浮かべるのが精一杯であった。




