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幼い執事と和やかな一幕

 なんとか紅茶を淹れた希とセバスチャンだったが、砂糖も忘れる大失態をしており、希の「何をしているのよ?」との冗談交じりの言葉に涙目になっていた。


 そして再び希から抱きしめられる。


「あ、あの。お嬢様?」


「いいの、いいのよセバスチャン。失敗は誰にでもあるわ。次は間違わなければいいの。さあ、せっかくだから紅茶を飲みましょう。セバスチャンが初めて私のために淹れてくれた紅茶を味わいたいの」


「ユーファネート様……」


 希の言葉に感動で涙目になり「ユーファネート様」と呟いているセバスチャンに、危険な色気を感じている希は、思わず生唾を飲みながらも慌ててかぶりを振って冷静になれと言い聞かせながら呻いていた。


「うぅ。なにこの色気(ありすぎじゃない。これは将来が恐ろしいわ。さすがはスチルでお姉様方を虜にしているだけはあるわね)……。ふふっ。セバスチャン泣いては駄目よ。貴方に涙は似合わないわ。これからは私のためにだけ微笑みなさい。どんなに苦しくて辛い時でもよ。分かったかしら?」


「はい……はい! 俺……私はお嬢様の為だけに微笑みます。まだ執事となって半年も経っていない私の名前を覚えて下さっただけでなく、優しいお言葉まで頂けるなんて。このセバスチャン、お嬢様……いえ、ユーファネート様の為に一生を捧げます!」


 セバスチャンの決意に微笑みつつ軽く頷きながら、希は内心では驚きの声を上げていた。


(え? まだ執事になって半年なの? なんでそんな子を侯爵家令嬢の執事にしているのよ? 見習いレベルどころか、卵さんですらないじゃない。私が怒る練習をする為に担当に選ばれたのかしら?)


 決意新たに崇拝した表情で自分を見ているセバスチャンに、希は表面上は微笑みを浮かべつつ紅茶を一口飲む。

 2人で淹れた紅茶は味も色も薄く、お湯と変わらないレベルであったが、砂糖がなくとも甘く感じられた。

 一緒に飲むのを最初は拒絶していたセバスチャンだったが、希から強く言われると恐る恐るな感じで紅茶を飲んでいた。


 そんな可愛らしい小動物のような動きを楽しそうに眺めていた希に、セバスチャンが首を傾げながら問い掛けてきた。


「どうかされましたか? ユーファネート様」


「ふふっ。セバスチャンがここに来て半年になるのね。と思っていたのよ」


「はい! お嬢様……ユーファネート様に雇って頂き感謝しております! お嬢様に拾って頂いたお陰で、妹達を学校に通わせられます。そして母にも薬を買ってあげられたはずでした…… 」


「え? セバスチャンに妹なんていたの!? え? お母さんはすでに亡くなっているなんて……。まさかそんな状態だったなんて……。それにしても私の知らない情報はまだありそうね」


 突然追加されたセバスチャン情報に、再び考え始めた希の顔をこっそりと見るように、そして若干頬を染めながらセバスチャンが話しを続けてきた。


「ユーファネート様が急に優しくなられ――い、いえ! 今までも十分にお優しかったのですが、今日はいつも以上に優しくして下さって本当に嬉しいです!」


「いいのよ誤魔化さなくても。ちなみに今まではどんな感じで貴方に接していたのかしら? 怒らないから正直に言ってみなさい」


「は、はい。初めてお目にかかった時は一言も頂けず、私を見て『お風呂に入れて身だしなみを整えなさい』と冷静に言われました。先輩から『汚れているのがお気に召さなかったのよ。拾った犬が汚れていると綺麗にしたくなるでしょう?』と教えてもらいました!」


 自分の失言にワタワタしているセバスチャンを見て、希は微笑みながら問い掛けた。

 そして勘弁して下さいと言いたげな表情を浮かべているセバスチャンに、無言で微笑みかけ話すように促すと諦めたかのかポツポツと話し始める。

 最初は笑顔で聞いていた希だったが、セバスチャンの言葉が続くたびに徐々にひきつった顔になる。


「そ、そうなの? ちょっと覚えてないかなー」


「当然です! ユーファネート様は覚えてなくて当然です。僕の……私の姿が薄汚れていたからご満足頂けていなかったと十分に理解しております」


「そ、そう? そんな酷い態度を取っていたのね。どうしよう? すでに悪役令嬢の素地があるじゃないの!」


 セバスチャンの話を聞きながら、なんとかひきつった顔を笑顔に修正しようと悪戦苦闘していた希だったが、さらに話を聞くとうち回りそうになる。


「最初のお言葉は私が失敗したのを見られた時ですね。『少しは使えるようになりなさい。顔だけで選んだとはいえ、最低限の事はしてもらわないと困るわ』と、褒めて頂きながらも失敗は悪いと優しく叱咤激励をして下さった事は生涯忘れません!」


 お願い! それは本当に忘れて! お願いだから! と、思わず叫びそうにになったが、今までの台詞はユーファネートであり自分ではないと割り切ると、ひきつった顔に再びなりながらセバスチャンの頭を撫でる。


「これから頑張ればもっと褒めてあげる。セバスチャンが聞いた最初の台詞なんて忘れてしまうくらいに、盛大に褒めてあげるわ。私は貴方に期待してるのよ」


「はい! ユーファネート様にご満足頂けるように。ご期待を裏切らないよう。この生涯を掛けて一所懸命に頑張ります!」


「おやおや。いつの間にか仲良くなったようだね」

「ええ本当に。素晴らしい主従関係が築けているようね。具合はどう? ユーファネート。本当に心配したのよ」


 頭を撫でているユーファネートと、頬を赤らめながらも気合いを入れているセバスチャン。

 二人の中で満足げな空気が流れている中、ユックリと開いた扉から一組の男女が入ってきた。

 2人とも揃っての美形であり、着ている服も洗練され高価である事は一目瞭然だった。

 そんな2人はユーファネートの元気な姿を見て安堵しているようで、微笑みながら近付いてくる。


「ユーファネートの両親よね? 当然ながらユーファネートにも両親がいるわよね。そう言えば婚約破棄と断罪イベント後に、勘当される時に父親が出てきたわね。それと母親は婚約破棄の報告を聞いてユーファネートと一緒に修道院に行って生涯を終えるのよね」


「旦那様! 奥様!」


 2人の姿を見たセバスチャンが慌てて希から離れ直立不動になる。そんなセバスチャンの動きに希は2人が間違いなくユーファネートの両親だと確信するのだった。

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