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私、どのゲームの悪役令嬢なの?  作者: うっちー(羽智 遊紀)
プロローグ

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希はセバスチャン・コールウェルについて考える

「やっぱり、ユーファネート・ライネワルトだわ。理解は追いついてないけど」


 手鏡で何度も自分の姿を確認していた希だったが、姿が変わるわけでもなく、大きくため息を吐くと諦めたように手鏡をベッドの上に放り投げた。

 そして自分の怪しい行動をなにも言わず、ただ心配そうに見ている少年へと視線を向ける。


 どこから見ても「君☆(きみほし)」に登場するセバスチャン・コールウェルであり「少年時代ならこんな感じだよね」と妄想を膨らませられる姿であった。

 月の光を受けたような輝く銀髪。透き通る空のような青い瞳。数年もすれば女性達が放置しないであろう整った顔立ち。

 そして少年なのになぜか色気を感じるはにかみ。

 希は自分に起こっている非現実的な光景を受け入れようと、何度か深呼吸を行う。


「どうかされましたか、お嬢様? お辛いようでしたら温かい飲み物をご用意いたしましょうか? それとも回復魔法を掛けた方がいいでしょうか?」


「いえ大丈夫よ。ちょっと考え事をしていただけだから」


 あまりにも無言の時間が続いたのか、目の前の少年であるセバスチャン・コールウェルが心配そうに話し掛けてきた。

 それに軽く返しながら、希は自分の手を見つめ続ける。

 そして、こちらを気遣っているセバスチャンをチラ見しながら彼の情報を思い出す。


(私の手のひらサイズで考えると、ユーファネートの年齢は10才くらいかな? そんな私とセバスチャンの身長は同じね。「君☆(きみほし)」シリーズ公式情報なら、セバスチャン・コールウェルの年齢は18才。身長185センチ。特技は乗馬と剣術。趣味は紅茶を淹れる事。登場人物の中で第4位のスチル数。その柔らかな微笑みを浮かべながらも、相手を陥れる事は天下一品な腹黒執事。その表面的でしかないと分かっているのに、爽やかな微笑みを浮かべるセバスチャンは世の中のお姉様達を虜にしてきた。決めゼリフは『私の為だけに微笑みなさい』だったわね。私はライナルト様推しだから、セバスチャンにはそれほど興味はなかったけど。まあ、スチルは全てコンプしているけ――)


「きゃっ!」


「し、失礼しました! お嬢様があまりにもお辛そうでしたので」


「気分が悪い訳じゃないの。少し考え事をしていただけだから気にしないで。それにしてもお父様とお母様は遅いわね……」


 ふと視線を上げると、目の前にセバスチャンの顔があった。


 それこそ顔がぶつかりそうな距離であり、驚いた希が短く悲鳴を上げて仰け反ると、セバスチャンは焦ったように慌てて後ずさりながら謝罪する。

 そのまま希との距離を取り、部屋の隅で小さくなった。そんなセバスチャンを見て希は小さく笑う。


「ふふふ。そんなに怯えなくていいのよ。お父様達はまだ来ないようだから、気分を少し変えましょうか。久しぶりに貴方の紅茶を飲みたいわ。腕は鈍ってないでしょうね?」


「『久しぶり』ですか……? どなたかとお間違えでは? 私は紅茶を習い始めてまだ1週間しか経っておりません」


 気分転換に話題を提供した希だったが、セバスチャンからの返事に言葉を失う。

 公式情報を元にした希の発言であったが、それは彼が18才の情報であった。


「知っているわ! 貴方が紅茶を淹れ始めて1週間なんて! そ、それじゃあ修行の成果を確認させてもらおうかしら。1週間でどれだけ淹れられるようになったか知りたいわね」


「え? そ、そうですか? 分かりました! すぐに準備をしますのでお待ちください」


 誤魔化せたのかは分からないが、希の腕前を見たいとの言葉にセバスチャンは顔を輝かせて弾むように紅茶の準備を始める。

 その姿にはゲームに登場する腹黒イメージはなく、初々しいながらも主人を喜ばせようとする気持ちしか感じられなかった。そんな姿を見て希は首を傾げる。


「この子は本当にセバスチャン・コールウェルなの? あんな純粋に嬉しそうに紅茶を淹れるなんて。スチル絵に紅茶を主人公のために淹れるシーンがあったけど、あれは笑顔を浮かべながらも目は笑っていなかったのを覚えているわ。ひょっとして――」


 ひょっとして、この後の人生でユーファネートによって彼の性格がひん曲がったのでは? そう口に出そうになった希だが、なぜかその言葉を飲み込んだ。

 まるで自分が発言する事で、セバスチャンの人生が決まりそうに感じたからである。

 希が心の中で独り言を呟いている中、セバスチャンはケトルに手をかざすと小さな声で詠唱を始めた。


『指先に宿りし火の精霊よ。少しばかり我に力を与えよ』


 セバスチャンの詠唱が終わると薄赤色が指先に集中し、その光がケトルに向かって進む。

 するとケトルから湯気が立ち始めた。初めて見る現象に希が静かに驚いていると、セバスチャンは覚束(おぼつか)ない手つきでティーポットにキャンディースプーンで茶葉を入れる。


「えっと……茶葉は1杯を入れて、さらに半分を妖精様に捧げる為に入れる。その後に熱湯を注いで茶葉にダンスを踊らせる。あれ? あんなに確認したのに砂時計を用意してなかった。茶葉に気を取られ過ぎちゃった……。どうしよう……。お嬢様にお出しする大事な紅茶なのに……」


「ちょっ! 待っ! ちょっと待って! この可愛い生き物はなんなの!? 全然腹黒くないじゃない!」


 希の目には小動物が一所懸命に紅茶を淹れようとし、上手くいかずにワタワタしているようにしか見えなかった。

 さらに砂時計を忘れたと気付いて涙目になっているのをみると、思わず駆け寄って抱きしめてしまう。

 希の突然の行動に驚いたセバスチャンが耳まで真っ赤になりながら叫ぶ。


「お嬢様なにを!」


「いいのよ。落ち着きなさいセバスチャン。砂時計を忘れてもいいのよ。ユックリと数えれば良いの。次に紅茶を淹れる時は砂時計を忘れないようにしなさい。そうだ! カップが2つあるわね。私も一緒に淹れるから2人で飲みましょう!」


「い、いいえ。そのような雑事をお嬢様にさせるわけには――」


「いいから。いいから」


 弟をあやすように頭を撫でていた希が明るく笑いながらケトルを手に取る。

 主人であるユーファネートに子供扱いされ、軽く混乱していているセバスチャンには止める術もなく、希が紅茶を淹れるのを慌てて止めようとするも、出来ずに一緒に紅茶を淹れる事になった。



【新しい情報が追加されました】

セバスチャン・コールウェル

 「君☆(きみほし)」シリーズで主要なキャラクターです。悪役令嬢ユーファネート・ライネワルトの執事として登場します。

 常にユーファネートの背後に控えていますが、彼女の行動を快く思っておらず、その行動に眉をひそめています。

 また、幼い頃に受けた仕打ちがトラウマになっており、いつか主人であるユーファネートに復讐しようと狙っています。

 仲良くなれれば、影から様々な援助をしてくれる心強い味方となります。


特技は乗馬と剣術。

 その特技となる剣術は国内でも有数の腕前です。

 優しそうな瞳に虜となり、密かに慕っている令嬢は多いとか。しかし見た目の爽やかさとは裏腹に……。

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