私が薔薇の令嬢?
悪役令嬢物が書きたくなったのですよ。
ライナルト王国の首都フェイドリスには、語り継がれたおとぎ話があった。
「精霊から愛されし少女、主となる場所に現る。輝かんばかりの黄金色の髪をなびかせ、その瞳は透き通る晴れ渡った空のような色であり、肩には精霊に愛された証拠である「精霊花」の紋章を浮かべる」
そして精霊に愛された少女が王都に現れ一人の男性を救い――そして世界を変えていく。
聖王歴1222年4月9日
期待と不安を混ぜ合わせながらも、目を輝かせ学院の門を見上げている少女がいた。
そんな愛らしい少女の姿に通りがかりの人々が微笑ましそうに視線を向ける。
少女は周囲の視線に気付かないまま、意を決して学院の門をくぐった。
あどけない笑顔。
天真爛漫な行動。
慈愛に満ちた瞳。
身分に関係なく接する純粋さ。
なにより――精霊に愛された紋章を持つ少女。
少女は学院で人々とふれ合い、そして成長していく。
貴方は誰の手を取り物語を紡ぎますか?
「君に心を届ける☆ 心を捧げるのは誰だ!?」
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精霊花
貴女の肩にある紋章です。精霊に愛されている事に気付いて下さい。
花言葉
悲哀 慈悲 愛の悲しみ 純愛 純真な愛情 無垢な愛情 意思の固さ 禊 切ないほどの愛
◇□◇□◇□
「かー。やっぱりここで登場するよねー。薔薇の令嬢ユーファネート・ライネワルト! 絶対に柱の陰から見てたでしょう! ストーカーまっしぐらだわー。『無知な貴方へ、貴族との付き合い方を、この高貴なる私が教えて差し上げますわ!』だと? 要らん! そんな説明は要らないからレオンハルト様との友好度を上げさせて!」
コントローラーを放り投げ、冷め切った紅茶を飲みながら塚望 希が疲れた声を出していた。
その視線の先には彼女の推しキャラである第1王子のレオンハルト・ライナルトが、主人公であるヒロインを見て微笑みつつ薔薇の令嬢と呼ばれたキャラをにらみつけているスチル絵があった。
「ふはー。さすがはレオンハルト様。この微笑みよ。ヒロインを守る気高さよ。なんと言っても声! 運営さんありがとうございます。本当に感謝してもしきれないわ。でも言わざるを得ない。ありがとう運営さん! もう一度言います。ありがとうございます。レオンハルト様に癒やされた私は月曜日を乗り切れます」
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『貴方には私のように薔薇が似合う美しさも気品もありませんわ。これだから平民はダメなのです。そんな貴方には落花生がお似合いですわ』
「なんだよ! 落花生美味しいじゃん! 運営! 落花生になんの恨みがあるんだよ! それとユーファネート! お前の薔薇は棘だらけだろうが。触る人間を傷つけてばっかりじゃない! 主人公が可哀想だよ」
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「やった! このゲームでの初スチルgetだわ! 思わずネイティブな発言になったけど、それくらい嬉しいのよ! 宴じゃー。新作【君☆(きみほし)】で初のスチル絵じゃー。コンビニで色々と買ってお祝いしないと。アイスでしょ。ケーキでしょ。それと落花生! 絶対に落花生を食べてやる。飲み物は紅茶を淹れたらいいかな? さすがにコンビニには落花生は売ってないかなー。まあいい! 落花生は明日買いに行く! ……。あ、あれ? 急に眠気が……な……ん……」
◇□◇□◇□
(落花生を早く買いに行かないと! 売り切れちゃう!)
「特売なんて聞いてない! ……。あれ?」
スーパーの特売で落花生を買いそびれそうな夢から目覚めた希は、体を起こしつつ困惑の表情を浮かべた。
つい先ほどまで最新作の「君☆(きみほし)」をしていたはずだ。初のスチル絵を見た瞬間にテンションが上がりすぎたのか、身体の力が抜けるように睡魔が襲ってきたのは覚えている。
そのままなら床の上か、安布団の中にいるはずであった。間違っても今のような高級羽毛布団に包まれているはずはなかった。
「こんな高級布団をいつのまに買ったっけ?」
ぼんやりとしている意識をハッキリさせる為に、希は軽く首を振りながら視線を壁側に移す。
するとそこには見た事もない大きな肖像画が飾られていた。
「ふわぁぁぁ。物凄く綺麗な子供。まるで薔薇の令嬢の子供時代みたい。こんな感じで微笑み続けたまま大人になったら、レオンハルト様もユーファネートに惚れてただろうにねー」
希はベッドからユックリと身体を起こす。
そして、普段よりも身体が動かせない事に若干の不安を感じながらも、周囲を見渡す。
「どこのセレブの家だろう?」
思わずそう呟くほど豪華な家具が並んでいた。
自分のアパートとは比べものにならない広さがある部屋であり、改めて自分が寝ているベッドを見ると、天蓋付きであり、いったいどれくらいの値段がするか見当も付かなかった。
「夢にしても豪華過ぎる……。でもお姫様な生活っていいかも。夢だからもうちょっと楽しんでも――」
「お嬢様!」
「きゃっ!」
部屋の中を興味津々で眺めていた希だったが、音を立てないように静かに入ってきた女性の叫び声に驚く。
慌てて振り向くと、そこには手を口に当てて涙を浮かべているメイド姿の女性がいた。
女性は目を潤ませており、なにごとだろう軽く首を傾げている希に恐る恐る話かけていた。
「お目覚めになられたのですね。本当に良かった。お嬢様の身に何かあればと思うと……」
「お、お嬢様って誰の事? 私!?」
「ええ。当然です。お嬢様以外にお嬢様はおりません。それよりも立ち上がって大丈夫なのですか? お身体の具合にさわりますので、回復魔法を使える者をすぐ呼んで参ります」
「回復魔法?」
女性の声に夢にしてはリアルだなと、他人事のように考えていた希の耳に聞き慣れた感じの声が聞こえてきた。
「回復魔法なら僕が少しだけ使えます。旦那様と奥様に、お嬢様がお目覚めになられたと連絡をお願いします」
「ええ、ええそうね! すぐに旦那様と奥様にお知らせしないと。後は任せましたよ」
新たに部屋に入ってきた少年が女性に声をかける。
そして女性は勢いよく頷くと、先ほどまでの静かさが嘘のように盛大に扉を開けて駆けだしていった。
そんなやり取りを呆然と眺めていた希だったが、目の前にやってきた少年を見て思わず呟く。
「……。セバスチャン・コールウェルなの?」
「はい。さようで御座いますよ。お嬢様」
ぎこちないながらも胸に手を当て答える少年の姿に、希は口をパクパクさせながら次の言葉が出てこなかった。
そして何かに気付いたのか、希は自分の手と髪の色を確認すると、焦った表情で少年に向かって叫ぶ。
「鏡を! 早く鏡を持ってきて!」
「? かしこまりました。どうぞ、お嬢様」
セバスチャンから奪い取るように手鏡をもらった希は、そこに映っている姿を見て身体が震え始め、声も同じように震えていた。
「薔薇の令嬢。ユーファネート・ライネワルト」
そこには、希が画面越しに散々と悪態を吐いた薔薇の令嬢の若かりし頃の姿があった。
驚愕している希だったが、鏡は愛らしくもあどけない金髪碧眼のユーファネート・ライネワルトを映しだしていた。
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ユーファネート・ライネワルト
「君☆(きみほし)」シリーズ全てに登場する悪役令嬢です。
平民への敵愾心が強く、貴族第一主義であり、平民が学院に入学する事を快く思っていません。
物語の中で様々な妨害をしてくる事でしょう。
彼女は美貌と学力だけでなく、豊富な魔力を持っています。
ライネワルト侯爵家の次女であり、第1王子レオンハルト・ライナルトの婚約者として登場します。学院で最大のライバルとなる女性です。