起承転結に見る、物語の作り方①
前項では「ドラマ・ロマン・カタルシス」について話したな。これがなきゃ、オチなし、山なし、意味なしの駄作が出来上がる。ドラマは意味を、ロマンは山を、カタルシスはオチを作る。どれかひとつでも欠かすわけにいかないってのは当然として理解してもらえたよな。
さて、じゃあ実際に物語がどう描かれるかっていう話をしよう。サブタイにある通り、今回は起承転結の話だ。「ドラマ・ロマン・カタルシス」を設定して「誰が何のために・いつどこでどうやって・何をするのか」が決まったら、「それをどう書くか」を決めていかなきゃならない。考えなしに始めるんじゃないぞ。ヤル気があるのは大変良いことだが、方向性が重要だ。
起承転結を合理的でないとする向きもある。国際的には三幕構成っていうのが支持されてるみたいだ。設定、対立、解決で三幕だ。それぞれの間にターニングポイントがあって、物語が大きく動く。まあ、あくまでも映画とか尺の決まってる話に使う理論だな。調べてみると絶対参考になる。俺は起承転結の話をするけどな!
起承転結の内容について事細かに説明する気はない。日本人なら誰でも知ってるだろう。だから使い方について話す。
なぜ起承転結揃ってる必要があるかと言うと、作者も読者も迷子になるからだ。書いてる途中で本筋を見失って、小説が丸ごと閑話になってるパターンの多いこと。だから筋道が必要なんだ。骨格に筋肉を纏わせていくように物語を書けば、話として成立することは保証される。
別に起承転結にこだわれって言うつもりはない。だが、物語の構成を決めずに着手しても、書き直しの連続と見つからない落とし所で苦痛を味わうことになる。エタるぞ、間違いなく……。
物語の導入部分でどう始めようかと悩んだことはないか? どこから書き始めれば面白いのか、と考えるかもしれない。だがそれは物語の作り方としては間違ってる。
そもそも物語っていうのは、ストーリーを文章化したものじゃない。物語は読者の情動を煽るシステムだ。スマホゲーが本質的にはゲームではなく集金システムであるように、物語の本質は感動生産システムなんだ。誤解を恐れずに言うとそうなる。カタルシスを得るために読者にハムハムさせるんだ。
その前提に立つと、物語の作り方が合理性に根差したものになる。面白くなるべくして面白くなる。
作者はつい自分を主人公に重ねてしまいがちだが、主人公は読者の分身であって作者の分身ではない。作者は神として世界を作るのが仕事だ。運営が特定のキャラに肩入れしたゲームがクソゲー化するのと同じことだ。
主人公の行動をただ追っていく制作過程を経た小説はなろうにごろごろしている。成り行きで異世界に来て、何らかのパワーで無双していい思いをするって話は大体こうして書かれてる。そういった作品は話の意味に乏しかったり、まるで気分が同調しなかったり、結末に心動かなかったりするが、それは平たく言えばつまらないってことだよな。
つまらなくない物語は、その構成によって読者の意識をコントロールするメカニズムを組み込んでいる。抽象的な話が多くなったから具体例に進もう。
不遇な扱いを受ける主人公が逆転して見返す話が最近多いから、それを例にしようか。まずここからだ。どういう話を書くか決める。主人公は異世界人で~とか、冒険者になって~とかから入るな。この場合は「解放と復讐の話をしよう」となる。それからそれをどういうシチュエーションで書くか決めろ。エロ同人の作り方と一緒さ。まずエロありき、それからシチュエーションやプレイを決める。
まず”起”だな。三幕構成の”設定”に当たる。何を表現するか、誰が何する話か、シチュエーションはどうか。これら物語の前提要件を読者に伝えて、読み進めようと引き込む機能を持たせる必要がある。表現するのは「解放と復讐」、誰が何するは「不遇な主人公が逆転して仕返しする」、シチュエーションは……「捕らわれの身から脱出して悪党を倒す」でいいか。
さて、物語の”起”が決まったな。ここから色々肉付けして、面白い物語にしていこうぜ。まずは捕らわれてるだけじゃ脱出するための動機が薄いな。
「主人公は捕らわれ、拷問を受けていた」
助かるために脱出しなきゃいけなくなったな。じゃあ拷問の理由を決めよう。
「主人公は騎士で、秘密を守っていた」
主人公が黙ってれば済む話なら、脱出の後で大立回りさせる意味がない。ここは主人公に何がなんでも脱出して、なおかつ逆襲しなきゃいけない動機を与えよう。
「秘密とは姫の居場所だった。そして別の騎士がそれを話してしまい、姫に追跡者の魔の手が伸びる」
のっぴきならない状況だってのは伝わる。だがこれじゃあゲロッた騎士がただの根性なしになってしまう。
「秘密を明かしたのは主人公の友の騎士だと知らされる。後に妻子を人質に取られていたことが判明するが、この時点では主人公は知らない」
友騎士は根性なしだが、仕方ない話だったな。主人公は友騎士が裏切ったなど信じられない。主人公があり得ないと言えば、読者もそれを支持するだろう。少なくとも拷問官の話よりは信用に足る。すると読者は真相を知りたがる。これが物語に引き込むための謎になる。
「悪党を倒し姫を救うため、友の裏切りの真相を知るため、主人公は脱出を決意する」
メインクエストとサブクエストが読者に強く印象付けられたな。引き込み要素もばっちり。敵味方の配置も完了。描写でこの世界の文明レベルや政治体制を示唆したら、本格的に読者が物語を追う準備は出来上がりだ。これが物語の導入の簡単で確実な作り方だ。
続きは次回にな。