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第25話 封印されし想い(姉妹)

 こちらは伊勢の宮。

 金髪の女は仲間の忍びと共に境内の裏に潜んでいた。

 冬でもこの境内はじめじめしている。


姉様あねさま! 風の便りによりますとひさめらが動き出したようですぜ」

「そう、ありがとう」

「俺らはどうしやすか。いずれひさめらはここに来ると思いやすぜ」


 部下の提案に女は何も言わなかった。

 今は乗る気はなかった。あの盗賊のせいで神主の自分への寵愛が弱まっているから。

 確かにあの盗賊は相当な実力の持ち主だ。

 凄腕の忍びといわれる夏川家出身である自分と互角、あるいはそれ以上の実力はある。

 だからと言って盗賊に寵愛を奪われるわけにはいかない。でないと自分と仲間の忍びはこの先飢え死にするからだ。


「姉様、どうしやすか」


 女はしばらく何も言わなかった。

 でも、いつまでもこうしているわけにもいかない。


「小椋湖の東岸に行きましょう。緋肋と佐茂は此方に戻ってくる。ひさめたちも奴らを追ってくるでしょう」

「そこであいつらを討つんですね」

「ええ」


 金髪の女は頷いた。

 ここで妹たちを始末すれば信頼を取り返せる。それに懸けるしかない。


「さあ、今から出かけましょう。私に同意する者はついてきなさい!」


 女は大声で仲間の忍びたちに呼びかけた。

 忍びたちから歓声が上がった。


 ***


 襖を思いっ切り開ける。カズたちの前に見えたもの。それは……。


「やっぱり辿り着けなかったんだな」


 目の前には二尺を超える大男。男は鬼ような目でカズたちを凝視した。

 この男をカズたちは知っている。元足軽、篠原佐茂。


「六実は、父上と母上はどこにやった!」


 桃花が強い口調で佐茂に言った。


「ほう、お前が姫島の次期当主か」


 佐茂は嘲った。


「お前の親父とおふくろなら隣の部屋で眠ってもらっている。だが、お前の妹は……」


 ――此処には居ない


 その言葉に桃花は一瞬頭が真っ白になりかけた。だが、すぐに我に返り冷静な表情に戻った。


「もう一度聞く。妹はどこだ」


 佐茂は両手を広げ、自分は知らないという素振りを見せた。


「緋肋に訊けば分かるだろな。その緋肋は今さっきここを出た」


 そして、佐茂は天守閣の窓に向かった。


「待て!」


 桃花がとっさに刀を引き抜く。


「俺もこの城に用はない。本来ならこの城の奴もろとも消したいところだが、そんな余裕はない」

「なにっ!」

「じゃあな」


 そう吐き捨てると、佐茂は窓から飛び降りた。お晴とひさめは素早く窓に向かう。

 すでに佐茂は居なかった。その代わり、城の下の方から煙が上がっていた。


 そう、佐茂は部下に放火を命じていた。


 桃花は肩を落とし、すでに佐茂が消えた天守閣の外を呆然と眺めていた。


「私としたことが、妹を守れぬとは……」


 気持ちはわかるが、そんなことをしている暇はなかった。カズは桃花の肩を叩いた。


「桃花さん、今はお父さんとお母さんを助けるべきじゃないですか?」

「ああ……そうだな」


 桃花は立ち上がり一呼吸置くと、家臣に命じた。


「今すぐ父上と母上を救出し、脱出を図る! 消火の準備も怠るな!」

「はっ!」


 隣の部屋にいる両親をすぐに助け出す。二人とも気を失っていたが、幸いけがもないようだ。

 家臣たちは二人を担架に乗せ、運んだ。


 カズたちを先頭に下の階から脱出を試みる。炎は下の階を回り始めていた。煙を吸わないように炎を避けて脱出を図った。


 消火活動も行われた。

 しかし、炎の周りが早くて食い止めることができなかった。城にいた者は全員脱出したが、全ての消火が終わった時には城はほとんど焼け落ちてしまった。

 その姿に桃花をはじめ姫島家の関係者や島民が呆然としたのは言うまでもない。


 しかし、カズたちはこうしていられなかった。呆然と立ち尽くす桃花に伝えねばならないことがあった。


「桃花さん、今は答えにくいかもしれませんけど……」

「〈天険賊〉を追うんだな」


 桃花は意外にも冷静だった。


「ええ、僕らはすぐにここを出ます。六実さんは僕らを任せてください」

「わかった。私にはやらねばならないことが山積みだからな」


 妹の安否も大事だが、今は自分がこの島の指導者を果たさねばならない。

 桃花はそう決意しているのだ。


「六実の救助を頼む!」


 その日のうちにカズたちは島を出た。島を出るのに地元の漁師に船を出してもらい、堺まで戻った。



 都についたときは既に夜だった。今日はやったことが特に多く、カズたちは疲れていた。

 彼らは華の都の正門前にいた。


「今日はいったん休もう。明日またあらためて伊勢に向かおう」


 春樹が提案した。


「そうだな。おれは大丈夫だけど、夜に出歩くのは姉貴や佐茂に都合がよすぎる」


 ひさめも同意していた。カズは本来なら行きたかったが、今日はやめにすることにした。彼らが言うように無茶に出ても奴らの思う壺だからだ。

 お晴もカズに賛成のようだった。


 一度カズたちはその場で別れた。明日の朝早朝にまたここに集合し、伊勢を目指すことにした。


 別れた後、カズとお晴は弥吉の食堂に行き、夕食を摂ることになった。

 長屋に帰ってもよかったが、もう食事も終わっている時間なので迷惑をかけるわけにもいかなかった。

 既に同胞たちにも今日は遅れる理由は伝えていた。


 食堂に向かっている途中の事だった。


「桃花さん、大変だったね……」


 お晴の声とともに白い息が出る。


「桃花さんはあの島の指導者だってことを自覚してるんだよ。吉備ノ島はきっと何とかなるよ」

「そうだね。あの人やっぱりすごいから」


 桃花のすごさは宇羅の討伐のときに、カズたちはその目で見ていた。


 暖簾を分けて弥吉の食堂に入る。

 入った時だった。


「おう、掃除屋の二人か。今日は見かけなかったが遠出してたのか」

「まあ、ちょっとね」

「お前さんら、大きな敵を追ってんだろ?」

「え、でもなんで知ってるんですか?」


 カズは目を丸くしながら弥吉を眺めた。


「俺の網の目を舐めるなよ。お前さんらが知ってるやつらとはみんな知り合いだぜ」


 すげえ……。

 さすが、下京の人の繋がりはすごい……。

 繋がりが大事だと言っていたお晴も感心していた。


「まあ、そいつらもよくうちに来てくれるってのもあるけどな」


 その後も弥吉とはいろんな話で盛り上がった。カズたちは勾玉事件のことを話した。

 弥吉は事件自体はことみばあちゃんから聞いていた。ひさめがたびたびおばあちゃんに話していたようだが、事件自体は周囲にはあまり知られていなかった。

 だが、新たにわかった事実、つまり古代王朝の末裔と〈天険賊〉の動きを弥吉に話すと、彼は驚いていた。


 弥吉に話したことで心の重しが少し軽くなった。しかし、カズたちの不安は完全に消えた訳じゃない。でも、楽になったのは事実だ。


「俺もできることがあれば力になるよ」

「ええ、その時はお願いします」


 そう言ってカズたちは弥吉の食堂を後にした。



 翌日。

 まだ夜も明けていない頃。

 カズたちは下京の正門にいた。


「仮眠は十分にとれたかい?」

「ええ。でも、ひさめさんがいない……」


 カズは辺りを見た。

 ひさめの姿はどこにもない。

 その時だった。


「向こうから誰か来るよ」


 お晴が指をさしている。

 次第に姿が見えてくる。


 ひさめだ!

 カズはすぐに声をかけた。


「ひさめさん、一体どこ行ってたの?」

「わりい。ちょっと見張りに行ってた」

「見張り?」


 まさか無理して〈天険賊〉を偵察に行ったんじゃないだろうな。

 だがひさめは首を振った。


「そうじゃないって。あいつらの下っ端とかが辺りにいないか捜してたんだ」

「僕らが来るのを見越して下っ端が待ち伏せてるってこと?」

「ああ……。あいつらの仲間に姉貴もいる。先回りしていてめおかしくない」

「それで、いたの?」

「今のところはな。でも、あいつらはそろそろ〈伊勢の森〉に入ったはずだ」


 吉備ノ島からの距離を計算すると〈伊勢の森〉についてもおかしくない。

 先を急ごう。



 伊勢は都の南東。歩くと丸一日かかる。

 だから船を使い、小椋湖の東岸に行く。そこから鈴峠という峠を越えた先にある密林に伊勢の宮はある。

 辿り着くのは走って今日の昼過ぎか。


 日が昇るまでに小椋湖を渡りたい。


 船は淀野川に停泊しているものを拝借した。

 船の持ち主には申し訳ないが、時間が押しているから仕方なかった。

 これしかいい移動手段がないのだ。


 予定どおり小椋湖の東岸に辿り着いた。カズにとってここに来るのは初めてだ。

 まだ夜が明けていないので見えないが、ここ一体は広い平野で水田や雑木林が広がっている。


「なんとか時間までには着けたね」


 カズは大きく背伸びした。

 一方、春樹は目を閉じて何か瞑想していた。


「春樹さん、どうしたんですか?」


 少しして春樹は目を開けた。


「緋肋の気が流れていないか探してたんだ。でも気は感じない」

「それってもう遠い所にいるってことですか?」


 春樹は何とも言えない表情だ。


「そうとは限らない」


 ひょっとしたら気を消して近くにいるかもしれないし、もう伊勢の宮についているかもしれない。

 緋肋も凄腕の呪術師。

 油断は出来ない。


 その時、お晴が口を開けた。


「あれ、ひさめさんは?」


 確かにいない。

 さっきまでカズたちの先にいたのだが……。


 だが次の瞬間何かがカズの目の前を横切った。

 それは地面に突き刺さる。

 まずい!


「みんな、伏せて!」


 とっさにお晴と春樹に呼びかけた。カズたち三人は地面に伏せた。地面に何かが突き刺さる音が五回聞こえた。


 しばらくして……。


「やっぱり、妹のお友達なだけはあるわね」


 妖艶な、だが敵意のある女の声。

 その女は姿を現した。


「久しぶりね。元気にしてたかしら」


 女は長い金髪を掻き上げた。

 カズたちはこの女を知っていた。


 この女はひさめの姉、夏川かざめ。

 〈天険賊〉の一人で犬塚緋肋の相棒だ。


「ひさめさんはどこだ!」


 カズが声を上げる。


「妹ならこの奥でわたくしの仲間と戦ってるわ。幾ら凄腕の忍びでも仲間を倒せる訳ないけどね」


 カズたちは知らない間に奇襲されていたのだ。ひさめはそれに感づき、ひさめが放った刺客に挑みに行った。


 そしてかざめはクナイを突きつけた。


「新世界の誕生を邪魔する者はここで消えてもらうわ。相手してあげる」


 カズは木刀を構える。お晴も鉄扇を右手に攻撃態勢に入っている。

 だが春樹は冷静だった。彼は耳打ちしていた。


「無理はするな。ひさめちゃんじゃないと太刀打ちできないだろうから」


 かざめは本当の忍び。暗殺術には長けている。


「それはわかってます」


 とにかく、相手の手を紛らわせないと。

 カズたちはとりあえず、カズとお晴でかざめを攪乱し、春樹の呪符で攻撃することにした。これでうまくいくか分からないが、勝てない以上こうするしかない。


「準備は整ったみたいね。どんな手を遣おうとわたくしには意味がないわよ」


 そんなのやってみないと分からない。

 カズとお晴は前に出た。

 カズは木刀を構え、かざめに殴り掛かる。

 かざめの背後にはお晴がいる。

 ところがカズの目の前からかざめが消えた。

 目の前には同じく鉄扇をもって攻撃を仕掛けていたお晴が……。


 ガン!


 二人とも声を上げて転がり落ちた。


 いってーっ!

 カズは頭を押さえてうずくまった。

 お晴も同じだ。

 攻撃しようとしたときにお晴とぶつかり合い、転げ落ちたのだ。


「貴方たちのその動き、読めていたわ。忍びを甘く見たわね」


 カズがやっと目を開けると春樹は呪符を掲げて詠唱していた。

 そして、突風を放たれる。

 突風は雑木林の木々を数本折り曲げた。

 だが、その先にかざめは居なかった。


「ど、どこ行った!?」


 その時、カズとお晴は背後に人影を見つけた。


「春樹さん、後ろ!」

「なにっ!」


 お晴が叫ぶ。

 だが、叫んだ時には既に遅かった。


「うっ……!」


 カズたちは目をつぶった。


 春樹は吹っ飛ばされ、巨木に体をぶつけると同時に直衣と袴に手裏剣を打ち付けられた。

 春樹は手裏剣を振り払おうとしたが、布を貫いて巨木に深く突き刺さっているので振りほどけなかった。


 かざめが春樹の前に現れた。


「呪符は強力だけど隙が大きいわね。だから緋肋も貴方たちに負けちゃったのよ」


 かざめは光のような速さで春樹にぶつかったのだ。

 カズとお晴もそれにやられた。


「さ、とどめと行きましょうか」


 かざめはまた別のクナイを取り出した。


「妹の声も聞こえないし、貴方達は消すべき本当の相手だから」


 カズは立ち上がろうとする。まだ戦える。

 木刀を杖代わりに立ちあがった。


「お晴さん、立てる?」


 カズはお晴に手を貸す。


「ええ」


 少しよろめくが、カズたちはかざめと対峙した。


「そんな体力で私に勝てると思って?」


 かざめはクナイを手で上げ回して挑発していた。


 カズは額から出る汗をぬぐった。

 こいつを倒すつもりはなかった。

 隙をついて逃げる気だった。

 この三人の中でかざめに対抗できるのは春樹の呪符だけだろう。

 しかし、それも今はダメだ。

 どうする……。


 その時だった。

 かざめと同じく光のような速さでカズたちの前をすり抜ける影。

 そいつは春樹が張り付けられた巨木のクナイも素早く抜き去った。

 春樹は解放され、草の上に倒れ込んだ。


 そいつはカズ、お晴とかざめの間にその姿を現した。

 そいつは肩にかかる黒髪を後ろで束ねた女の忍び。


「姉貴。おれのダチに手をかけるなんてさせねえぜ」


 かざめだ。

 忍び装束は砂埃や泥で少々汚れているようだが、彼女自身は大丈夫なようだ。


「まさか貴女、私の仲間を一人で……」


 かざめは驚きを隠せていなかった。

 カズたちに見せた表情とはまるで別物だった。


「ああ。おれだって修行は欠かさずやっている。腕は相当上がったと思うぜ」


 かざめは落ち着きを取り戻そうとしていた。

 しかし、同様の色はまだ隠せない。


「手をかけてないわよね」

「姉貴忘れたんだな。おれは人を殺めることは大っ嫌いなんだ」


 少しして、かざめは落ち着きを取り戻したようだった。

 そして妹を見下すように笑った。


「やっぱり変わってないわね。だから貴女は忍びの成り損ないなのよ」

「好きなだけ言いな。でも、おれは姉貴に言っておきたいことがある」


 そして、ひさめはカズたちに叫んだ。


「カズ、お晴!おまえらは神主の兄ちゃんを連れて山の奥に行け! まだ時間は残ってるはずだ!」


 色々とひさめに訊きたいことがあったが、カズは頷くとお晴と共に走り出した。

 春樹を助け、鈴の関を超えるのだ。


 それを見たかざめの手が動き出す。

 しかし、ひさめはそれを見過ごしてはいなかった。瞬間的に動き、かざめのクナイをはたき落とした。


「姉貴は仲間を大切に思っている。だが、おれも同じだ。おれの仲間の命を奪いさせやしねえよ」


 かざめは歯を食い縛っていた。



©️ヒロ法師・いろは日誌2018

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