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第24話 封印されし想い(末裔)

「大丈夫か!」


 その声にカズたちは気が付いた。咳き込んでいたが、声が聞こえてきた時には煙は晴れていた。


 今度は戸の前に夏川ひさめが立っていた。彼女は息を切らせていた。


「ひさめさん……」


 ひさめはカズたちを見渡した。


「大丈夫みたいだな。佐茂は危害を加えなかったんだな」

「一体どうしたの?」


 ひさめによればカズたちが都を出た時にその様子を遠くから窺う者がいたという。

 少ししてそのものが動き始めた。

 ひさめはそれをひそかに追跡していた。


 追跡中にわかったのだが、その正体は佐茂だった。そして、佐茂が行った先は羽見のそば屋〈たきざわ〉。


「まさか、私たち後を付けられていたの?」


 お晴は手を口に当て、驚いている。

 ひさめは頷いた。

 カズは悔しかった。

 だが佐茂の仲間にはひさめの姉である凄腕の忍び、夏川かざめもいる。

 しかも相手が相手だ。


 でもこうしちゃいられない。

 あいつらに先を越されているんだ。


「で、佐茂が向かったのは吉備ノ島なんだよね」


 ひさめは一度首を縦に振った。


「あいつら、どうやってそんな情報仕入れたのか知らねえけどこうしちゃいられないぜ」


 カズたちはそば屋を後にし、一度都に戻り春樹と合流することにした。

 浅邦と路子には悪いと思っていたが、仕方なかった。ただ、路子も別れ際に申し訳ないと感じていたらしい。


「ごめんなさい。大事な話だったのに私の不手際でこんなことになってしまって」


 だがカズはそんなのは気にしてないからもういいと伝えておいた。

 しかし、路子の落ち込み具合はひどかった。



 華の都。

 南の門の前には安倍春樹がカズたちを待っていた。


「春樹さん!」


 カズが声をかける。

 春樹は頷いた。


「事情は後から話してくれ。事は一刻を争うみたいだからね」


 吉備ノ島まで急ぐために直ちに都を出発した。

 今カズたちは堺に向かう連絡船の中にいた。全速力で行ってくれと頼んだので、夕方までには堺に辿り着けそうだった。


 カズは事の次第を春樹に伝えた。


「そうか。佐茂は古代の王族の末裔が吉備ノ島にいるって言ってたんだな」

「ええ。路子さんはそこまでは知らなかったみたいなんですけど」


 でもどうやって〈天険賊〉はその情報を手に入れたんだ……。

 そうこう考えていると、春樹が口を開く。


「君とお晴ちゃんは夏に吉備ノ島に行ったんだろ? 勾玉のこととか聞いてないのか?」

「特に聞いていないです」


 城の人は何も話してくれなかった。

 お晴にも尋ねてみたが、彼女も首を振っていた。


 だが、気になることはあった。


「全然関係ない話かもしれませんけど、吉備ノ島の領主の姫が外出を許されていないんですよ」

「許されていない? 上流の姫なら当たり前じゃないのか?」


 その姫とは姫島六実。

 次期当主、姫島桃花の妹君で暴政を行いカズたちに成敗された豪商、宇羅が娶ろうとしていた姫だ。


 表向きは春樹の言うとおりだった

 だが、桃花は「個人的な理由で」外に出られないといっていたのだ。


「それがなかなか腑に落ちなくて」

「そうか……」


 春樹は腕を組んで考えてこんでいた。

 だが、カズも同じだった。

 いや、同時にある不安が巻き起こっていた。カズは外に出て風景を眺めていた。


「カズ、怖い顔してるよ」


 ふと振り向くとお晴が心配そうな顔を向けている。


「あ、ごめん」

「謝ることないじゃない」


 そう言ってお晴はカズの横に立った。

 まあ、そうだ。


「何考えてたの?」


 まあ、言った方がいいだろう。いずれ吉備ノ島に着けばわかることだ。


「これは今思いついたことではっきりした根拠があるわけじゃないけど」


 カズはその〈選ばれし者〉が六実じゃないかと思っていた。断言できないけど、王族の末裔が姫島家なら可能性はある。そして、〈選ばれし者〉が六実であれば桃花が言う『個人的な理由』がそれになる。


「でも『個人的な理由』が、六実さんが〈選ばれし者〉だって、なんか小さすぎない?」

「桃花さんあの時ぼかしたんだよ。僕らが詮索しないように」


 と言ってみたがただ物事を繋げただけだ。

 今は吉備ノ島を目指すこと。

 これが最優先だ。


 ほどなくして堺に到着した。異国情緒漂う風景はいつも変わらない。

 しかし、街は何やら騒がしかった。港の方で人だかりができていたのだ。


「何かあったのかな」


 お晴は不安そうにその方を見る。

 その時、カズの目に何かが映った。


「あれ、まさか……」


 カズは自然と走り出した。


「ちょっと、カズ! 何なんだよ!」


 背後でひさめが呼び止める声。

 だが、同時に彼らもカズの後を追っていた。



 野次馬を掻き分けて奥へ分け入った。

 その先には、大勢のぼろをまとった人の群れがあった。

 老いも若きも、男も女も様々だ。

 港に漂着している無数のいかだから察するに近くの島からやってきた難民なのだが……。


 実はカズは彼らがどこから来たのか、わかっていた。


「おじいさん、おばあさん!」


 カズはその老夫婦の前に立っていた。


「お、お前さんは桃花姫様と一緒に島を救った……」


 おじいさんがカズを見上げる。


「ええ、あのときの者です」


 お晴やひさめたちもカズのところにやってきた。


「カズ、誰と話してんだ?知り合いのなのか?」


 ひさめが訊く。

 カズは夏に会った老夫婦の事を話した。


 お晴が前に出た。


「でも、どうしたんですか?相当疲れてるみたいですけど」


 おじいさんは顔を俯けた。


「島が、島が大変な有様になっておるのじゃ」


 島では黒衣をまとった男と忍び装束の連中が島に上陸し、激戦を繰り広げているのだという。

 それで、老夫婦ら島民は難民として島から出ることを余儀なくされた。


 黒衣をまとった男と忍びの連中……。

 そして、そば屋に現れた篠原佐茂……。

 カズはそれで確信した。〈天険賊〉の奴らが島に上陸し、島を攻撃したのだ。


「島は、桃花さんたちはどうされてるんですか!」


 カズが声を上げて尋ねる。

 おじいさんは驚いた様子だ。


「桃花様は今戦っておられる……。じゃが六実様は……」


 まさか……。

 カズの頭に恐ろしいことが過った。


「六実さんは……?」

「どうなったかは分からぬ。わしらは命からがら逃げてきたのじゃ。桃花様の命令で……」


 ここにいても何もわからない。

 一旦吉備ノ島に向かう必要があるみたいだ。


 カズたち四人は船に乗り、吉備ノ島に向かった。

 連絡船は吉備ノ島の戦乱でほとんどが出ておらず、乗れたとしても島には上陸できない。

 だから、カズたちは余っている筏を借りて島に上陸することにした。


 船乗りには感謝していた。

 みんな島に行きたくないと言い張っている中連絡船を出してくれたからだ。


 目の前に吉備ノ島が見えていた。

 船は島から少し離れたところに浮かんでいた。おそらく、島にいる者からこの船を見つけることはできない。海に浮かぶ大岩の陰に隠れているからだ。


「船はここまでしか出せない。だから、お前らはこっから筏に乗って行ってくれ」

「わかりました」


 そういうと、カズは春樹と一緒に船に結びつけてある筏を海に浮かべた。

 四人は筏に乗った。

 お晴とひさめが縄を切る。


「じゃあ、行ってきます」

「気をつけろよ。島はかなり危険だからな」


 船乗りに感謝をしつつ、四人を乗せた筏は進み始めた。

 目指すは吉備ノ島。白桃城。


 一行は島に上陸した。

 島からあちらこちら煙や火の手が上がり、慟哭も響いていた。

 遠くの方から刀をはじく音が聞こえた。ひさめがカズたちの前に立った。


「島は何があるか分からねえ。おれが城に行く道を探すからおまえらはここで待機しててくれ」

「分かった。でも、無理しないでよ」

「ああ。一度犯したことはもうしないさ」


 そう言ってひさめは飛び上がった。まるでウサギのように岩壁を登り、森の方に姿を消した。


「みんな、これを持っててくれ」


 ひさめが消えたのを確認すると、春樹が直衣からあるものを取り出した。

 それをカズとお晴に渡す。


「なんですか、この玉……」


 カズの手の上には透明な玉があった。


「〈壁数珠〉の数珠玉だ」


 これは闇夜の事件の時、緋肋に壊された〈壁数珠〉を改良して数珠玉だけにしたものだ。

 握るだけで結界を作ることができ、ある程度の衝撃や攻撃を抑えられるという。


「すごい物作ってたんですね……」


 春樹は頭の後ろを掻いた。


「いや、いずれ緋肋が現れたら必要になると思ってさ」


 相手が相手だから仕方ない。

 緋肋の〈炎の呪符〉攻撃を防げるのはこれしかないのだ。


「〈炎の呪符〉が使われていなければいいが……」


 春樹は島の森を見上げていた。


 その時、崖から飛び出す影が現れた。それはカズたちの前に飛び降りた。

 ひさめだった。


「行けそうな道があったぜ」



 カズたちはひさめが見つけてくれた道を進んで城を目指した。

 森のあちこちで火の手が上がっていた。

 炎の広がり方がそれほど大きくなかったので呪符ではない、と春樹は言っていた。


 道中では戦士や村人とみられる人たちの遺体が転がっていた。見るも無惨な姿で戦禍の悲惨さを物語っていた。

 カズは初めて見る死体が見るに耐えなかった。


「やだ、これ……」


 お晴は目を背けていた。

 お晴が村を壊滅させられた時のことを思い出しているのだろうか。

 こんなことをしたのは奴らに違いない。

 城に急ごう。



 そして、白桃城の前。

 ひさめが足を止めた。


「待て。誰かいる」


 カズたちは茂みに隠れた。

 城のつり橋が架かる前に兜と胴着、刀を装備した男たちが数人刀を携えた軽装の女の前に立っていた。

 彼らの装備品には姫島家の家紋がついていた。

 軽装の女は男たちに指示しているようだった。


「カズ、あれって……」


 お晴が小声で話しかける。


「うん。桃花さんだ」


 そう。姫島家の長女、姫島桃花。そして、男たちは家臣。次期当主として相当頑張っていることが窺えた。

 その時だった。


「誰だ!」


 桃花が声を上げた。


「ば、ばれた?」


 カズはまさかと思った。

 ひさめは頷いた。


「すごいなあの桃花っていう姉ちゃん。忍びとしてもやってけそうだぜ」


 ひさめは感心しているようだった。


 カズたちは茂みから出た。

 彼らを見て桃花の表情から睨みが消えた。

 そして、驚きの表情に変わった。


「君たちか」

「すみません。邪魔になると思って」

「驚いたのはこっちもだよ。でも、どうしてこんなところに?」


 カズは事情を説明した。

 カズたちが追っている〈天険賊〉がこの島に、古代王家の血を継ぐ者を捜しに来ていることだ。


「そうか」


 桃花は顔を俯けた。


「君らは我が姫島家が、その王家の血を引く一族であると踏んでるんだな」

「ええ。特に、六実さんは何か特別な存在なんじゃないかって思ったんです。何か、思い当たることありませんか?」


 桃花は顔を上げた。そして、カズの方を向く。


「こうなれば隠す必要もない。君たちにはすべて話そう」


 古代王朝の王族は都を追放されたのち、この国の全土に離散した。

 そのうちに一派がこの吉備ノ島に流れ着いた。それが姫島家の祖先だという。

 王族には勾玉を操る力があった。そのことは路子から聞いていた。世代を繰り返すうちにその力は弱くなっていったが、六実は違った。

 六実には強い勾玉を操る力があったのだ。偶然、先祖がえりしたのだろうと桃花は言っていた。

 そのことに気が付いた領主、姫島吉彦は六実を軟禁した。この事が外部に漏れれば宇羅のような暴虐者に悪用されかねない。

 しかし宇羅には幸いばれなかった。


「あいつらはそれを聞きつけていたのだな」

「おそらく、やったのは姉貴だな」


 ひさめが呟いた。


「それで、そこの忍びと神主は君らの仲間か」

「ええ。彼らは知り合いで、一緒に来たんです」


 ひさめは凄腕の忍びであること、春樹は一流の呪術師で数少ない呪符の使い手であることも告げた。

 桃花は考え込んだ。

 そして。


「今、吉備ノ島は最大の危機を迎えている。私らも手に負えないのだ。城が君らの言う〈天険賊〉に占拠され、父上も母上も、六実も監禁されている」

「監禁されてる?」


 城は忍びと黒服の装束集団に占領されていた。天守閣に両親と六実は黒服の神主に監禁されていた。


「我ら姫島軍も死力を尽くして戦った。しかし、黒服の神主の呪術に為す術もなかった……」


 緋肋だ……。

 恐らく、かざめと佐茂もいる。


「桃花さん、僕たちはできる限りのことはします。協力させてください!」

「ああ。君らなら助かる。今から我らで城をどう攻略するか考えていたところなんだ」


 桃花によれば緋肋の姿を見た瞬間、姫島軍の武士もののふたちはみるみるまるで生気を奪われたかのように倒れて行ったのだという。

 そして、忍びたちにとどめを刺されていった。

 さらに、【意志を持つ炎】による攻撃にもどうすることもできなかった。


「あの男の呪術をどうにかできないものか……」


 緋肋が使ったのは催眠術だ。

 あいつは闇夜に一件の時も同じ手を使ってカズたちを苦しめた。


 対処法としては目を見ない事。これしかないのだ。〈壁数珠〉による結界も効かない。

 そして、あいつに呪符を使われる前に彼らを助け出さないと。


 そしてもう一つは一番警戒すべき〈炎の呪符〉。

 あれはカズたちが持っている〈壁数珠の珠〉しか防ぐことができない。


 カズはそのことを桃花に伝えた。

 桃花は頷いた。


「その男は君たちに任せる。私らは妹と父君、母君を捜す。いいな」


 カズたちは頷いた。


 カズたち四人は桃花と数人の姫島家の武士と共に城に乗り込んだ。

 内部には不穏な空気が流れていた。

 緋肋の呪力が強く伝わってくる。春樹はそう言っていた。

 道中での戦いはできるだけ避けたかった。〈天険賊〉の忍びや兵士がしばしば現れ道を封じたが、桃花の武士たちが彼らを倒し、道を切り開いてくれた。

 桃花の指示は的確で、武士たちはよく戦った。


 そして、天守閣の領主部屋。大きな襖がカズたちの前に立ちはだかる。

 そう、夏に宇羅を倒しに来た部屋。


 この奥に緋肋たちがいる……。


「緋肋の気だ。みんな、気を抜くんじゃないよ」


 春樹の言葉をカズたちはちゃんと心に刻んだ。

 そして叫ぶ。


「さあ、行くぞ!」


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