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第20話 どんな形でも(後編)

晩秋。カズとお晴は喜平と千鶴に堺で開かれる秋祭りに誘われる。祭りを満喫する中、カズたちは物乞いをする少年と出会うが……。

 

 〈西の海〉の海上。カズとお晴は船を漕いで三つ子島を目指す。


 親が子供を見捨てた? 弦助の両親は本当に薄情なのだろうか。弦助は強くて、とても優しい人だと聞かされていた。老人も以前はそんなことはなかったと言っていたが……。

 カズは曇り空を眺めながらそう考えていた。


 三つの大きな岩が見えてきた。カズたちは島に上陸した。

 浜辺には人っ子一人おらず、閑散としていた。そして、少し離れた丘の上には朽ち果てた廃墟が数軒見えた。


「ここにも人が住んでたのかな……」


 お晴が声を漏らす。


「だろうね……」

「じゃあ、海賊が……」

「多分……」


 森の奥に井戸が見える。カズは縄をつたって下に降りて行った。お晴もそれに続く。

 井戸の下は薄暗いけど、奥からほのかに揺らめく光源が見えた。カズとお晴は顔を見合わせ、頷き合うと奥の部屋に向かって走り出した。

 ろうそくの灯火の下に海賊の男たちが寝転がったり、仲間とつるんだりしている。しかし、奴らを束ねる棟梁はいないようだ。彼らはすぐに目の前にいた男と女に気付いた。


「お前ら、何者だ!」


 男の一人が短刀を構えて近づいてきた。


「弦助の両親はどこにいる」


 カズはにじり寄る男にひるまず、声を張り上げた。


「弦助の親ァ? 知らねえな」

「お前らの仲間なんだろ。どこに行った?」

「お前に言うまでもない。お前ら! こいつらをひっ捕らえろ!」


 男たちは短刀を構えて襲いかかってきた。

 カズとお晴もすぐに攻撃の態勢に入った。木刀を振りかざして敵の短刀を跳ね除けて、腹を突いて気絶させる。お晴は鉄扇で切り上げてさらに横に扇子を入れて敵を突き飛ばした。

 ここにいた海賊たちと戦った後、彼らが持っていた縄を奪って、海賊たちを縄で縛り上げた。


「こ、こいつら何モンだ!? 強すぎるぞ」


 男の一人が縛り上げられた縄で思うように動けず、そこで転がり回っていた。


「さあ、弦助の両親はどこだ!」


 カズは木刀を咽元に突き付けていた。隣では恐ろしい形相の少女が鉄扇を広げて睨んでいた。

 こうなれば男は体だけでなく、精神を奮って動くこともできないだろう。

 カズたちの攻撃は効果テキメンだった。


「ここにはいないぜ。堺に行った。群太郎様もな……。幻の宝刀を手に入れるために……」


 群太郎……? こいつらを束ねる棟梁か。


「堺のどこだ!」


 カズは男に向かって声を上げる。


「玉造……。数日前からそこに行っている……」



 カズとお晴はすぐに井戸を出た。男らは厳重に縛ってある。だが、棟梁はそこにいない。どうやら両親と共にいるようだ。まずはすぐに弦助の元に戻らないと。ここに両親はいないのだ。


 カズたちは浜辺に立っていた。


「ここに弦助君たちの両親はいないのね」

「うん。そういえば玉造って堺だよね」

「ええ。ちーちゃんがそう言ってたね」


 お晴が頷く。

 ふとカズは昨日、千鶴が道案内していた菅笠をかぶった女性のことを思い出した。彼女は堺の玉造屋たまつくりやに行きたいと言っていた。

 あの時の弦助の表情。彼はその女性を睨んでいたのだ。

 そして、弦助の両親は息子を見捨て、海賊に命乞いをした。彼らも数日前に玉造に向かったという。


「まさか……」

「ん? カズ、どうかしたの?」


 お晴が心配そうに声をかけてきた。


「いや、何か気になってたんだけど……」


 カズは事をお晴に話す。


「え? じゃあ、あなたはあの菅笠の女の人を弦助君の母親だって思ったの?」

「うん。本人に訊くまでわからないけど、もしも弦助を見捨てたのが本当であればね」


 弦助が言うには、堺で出会った菅笠の女性は弦助を見捨てた人と似ていた。


「そんな……」

「弦助にとってはひどすぎると思う。僕だって、信じたくないよ」


 弦助の両親はとても優しい人だからだ。でも、本当かどうかはもっと調べてみないとわからない。しかし、なぜ両親は堺の玉造屋に行ったのか。


 とにかく、今は西道に戻った方がいいだろう。


 ***


 西道。弦助の家。

 カズとお晴は部屋に飛び込んだ。


「ちょっとみんな! 大変だよ!」


 カズが玄関で叫んだ。

 しかし、喜平たちは奥の部屋でしゃがんで何かを見ている。喜平の隣では弦助がすすり泣いており、千鶴が彼を慰めていた。


「カズ、海賊を潰してきたのか?」

「いや、そうじゃなくて」


 しかし、喜平はカズが話を入れる余地を与えてくれなかった。


「ちょっとこれ見てみろよ」


 喜平は褐色に染まった紙をカズに渡した。これは壺の下に埋まっていたという。それは、弦助がこの西道に運よく戻ってきたときのために書き残していったものだった。


 ――ごめんなさい。弦助。あなたはこんなひどい目に遭うなんて思ってもいなかったでしょう。

 ――でも、私たちがあなたにしてしまった罪を、どうか後に引きずらないでください。


 その紙にはそう書かれてあった。


 両親は海賊団に村人を裏切った、のではなく海賊団に捕まってしまった。やはり彼ら勇敢で頼りがいがあった。村人や子供達のために、自分たちでその海賊団を討とうと思っていたのだ。

 しかし、逆に海賊団につかまってしまう。

 そのため、彼らは海賊団を倒すためその棟梁に忠誠を誓うことにした。群太郎を討つチャンスを伺うために。


 弦助を襲ったのは自分たちだった。

 弦助をこの事件に巻き込みたくないために、彼を襲い、船に乗せて堺に送ったのだ。自分たちはもう戻ってこられないかもしれない。

 どこか遠くで拾われて、いつかここに戻ってくるように。

 そして、自分たちは群太郎を討ち、そして……。


 ――こんな無責任な私たちをどうかお許しください。逢えることを祈って。   弓姫


 弦助は泣いたままだった。

 自分の両親がそんなことを……。それも、自分のために……。

 彼はとんでもない人を恨んでいたのだ。


 カズもお晴も何も言えなかった。


 しかし、もう一度冷静に考えてみる。弦助の両親は何をしたいのか。もうそれはわかっていた。

 海賊の棟梁を殺すことだ。


 おそらく、寵愛の隙をついて殺す作戦に出たのだ。

 〈國次〉という「高価な武器」を使って。カズは考えていたことを全て仲間たちに話した。皆の反応は様々だったが、今からどうする。


「もし千鶴ちゃんが案内してた女の人が弦助の母さんならもう遅いかもしれない。でも、今なら間に合うかも」


 カズたちは堺に戻ることにした。時間は残されていない。もう手遅れかもしれないけど、やるだけのことはやっておくのだ。


 ***


 夕方になり、西の海に太陽が沈もうとしていた。海が橙に染まる。

 西道から数里離れたところにある峠。


「みんな、ちょっと待って」

「どうしたの?」


 カズが足を止めると、お晴が顔をのぞかせた。


「誰かの声がする」


 カズはみんなに見てくると言って先に進んだ。


 崖越しに峠を覗き込む。その光景にカズは一瞬驚いた。


「ぐ、群太郎様! わ、我らはそのような無様なことは……」


 中年の男が、大きな海賊の防具を身につけた男に首元を掴みあげられている。男はどうやら棟梁のようだ。そして、掴みあげられている男の隣では女がひれ伏していた。

 棟梁は右手に太刀を携えていた。

 その太刀……。

 柄や鞘にメノウが埋め込まれている……。


 カズには見たことがある光景がいくつも見えた。男の隣でひれ伏す女。あの女は千鶴が道案内していた女だ。

 そして……。


「あれって……、〈國次〉!?」


 後ろから千鶴の声。カズが振り向くと、そこにはお晴や喜平さらには弦助まで一緒になって覗き込んでいた。

 千鶴は思わず口をふさいでいる。


「なんで来るんだよ! 見て来るって言ったのに!」

「だって、心配なんだよ? 弦助君も早く会いたがってたから……」


 お晴は小声に小声で返した。

 弦助はそのさまを目の当たりにした。彼は歯を食いしばって、あふれ出しそうな涙をこらえていた。


「弦助……。でも、危険だよ!」


 カズは弦助に叫ぶ。


「下がるんだ! 危ないぞ!」


 しかし、カズの言葉は弦助の感情を抑えることができなかった。


「父ちゃん! 母ちゃん!」

「あかん! 弦ちゃん!!」


 しかし、千鶴の呼びかけもむなしく弦助は飛び出していった。


「やばい。お晴さん、とりあえず弦助を守ろう」

「うん」


 海賊たちの前にガキが現れる。ガキは小さい体ながらも精一杯男たちを睨みつけていた。

 棟梁がガキを注視する。


「あんだぁ? このガキ」


 ガキはひるまず叫んだ。


「父ちゃんと母ちゃんを返せーっ!!!!!」


 その叫び声は腹の底から放たれたものだ。想像以上の大声が爆音となって周りにいた者の耳を襲った。

 男たちはもちろん、カズたちも耳をふさいだ。

 棟梁も思わず耳をふさぐ。同時に首元を掴みあげられていた男は地面に落とされた。男はむせていた。


 母親は目の前に我が子がいることが信じられないようだった。


「弦助、どうして……」


 だが、母親は事に気づいたのかすぐに声を上げた。


「弦助! やめなさい!」


 後ろから母親の声がするが、彼の耳には届いていないようだ。


「くそぉ……。こいつはお前らの小僧だったのか」


 弦助は息を切らせているが、身体もふらついていた。さっきの大声で力を使い果たしたようだ。

 彼は何も口に出すことができない。

 弦助はそのまま倒れこんでしまった。


「しっかし、度胸だけは一人前だあ。だが、俺はガキであろうと容赦はしねえ」


 棟梁、群太郎は弦助の両親を凝視する。


「声だけがでかいのはまさにお前らのガキだぜ。だがな、勇み足のようだな」

「う、うちの息子に手は出さないでください!」


 母親は必死で頭を下げる。


「うるせえな。俺はガキだろうと容赦はしないんだ。目の前で死ぬ様を見るがいい」

「それだけは……、ご勘弁を!」

「容赦はしないって言ったろ。大人しく見るんだな」


 群太郎は〈國次〉を振り上げた。


「ああっ……!」


 母親は思わず目を強く閉じた。

 喜平も、千鶴も、そして弦助も――。


 しかし、二人はすでに動き出していた。


 カンッ


 金属音が鳴り響く。カズの木刀はしっかりと宝刀を捕らえていた。

 〈國次〉が地面に転がっている。

 カズは木刀を構え、男を睨みつけていた。後ろではお晴が弦助をかばっている。その光景に、弦助も、彼の両親も喜平も千鶴も釘付けになっていた。


「お兄ちゃん、お姉ちゃん……」


 弦助は言葉を失っていた。


「弦助君、あなたはよく頑張ったよ。もう大丈夫だからね」


 後ろでお晴の声が聞こえた。


「また邪魔が入ったか。てめぇはそのガキの取り巻きか」


 群太郎は落とされた〈國次〉を拾い上げた。


「しかし木刀の腕はなかなかじゃないか。この〈國次〉を打ち払うとは」

「あんた、町をなんだと思ってるんだ。町の人々がどういう思いをしたかわかってるのか?」

「何偉そうな口訊いてるんだ。こうでもしねえと食っていけないんだよ。俺を恨むなよ。世の中を恨めよ」


 群太郎は〈國次〉を弦助の両親に突き付けた。


「こいつらはな、この刀で俺を殺そうとしたんだ。命を恵んでやったのに、恩をあだで返そうとしたんだよ!!」

「ぐ、群太郎様、そのようなことは……」

「ええい!! 喋るな!!」


 弦助の父親のかすれ声を、群太郎は怒鳴り声でかき消す。弦助は息を切らせながら、ただ茫然と目の前の様子を見ていた。涙も出せない。

 お晴はいざという時のために鉄扇を広げて待機している。


「あんた、弦助や町の人にひどいことをして、よくそんなこと言えるよな」


 カズは木刀を郡太郎に突き付けた。


「僕はあんたを倒す。覚悟しな」


 木刀を突き付けられ郡太郎は不敵に笑った。


「こいつらがどう思おうと俺の勝手だ。倒せるもんならやってみろよ。まずはお前から血祭りにあげてやる」


 群太郎が宝刀を大きく振り上げ襲いかかってきた。素早く避ける。宝刀はカズのすぐ後ろにあった岩を真っ二つにした。

 さすが、斬れないものは無いと言われる宝刀〈國次〉。

 迂闊に近づいたて、攻撃が当たれば一巻の終わりだ……。


 群太郎は容赦なく宝刀を振り回す。カズは避けと鍔迫り合いを混ぜながら、相手を突き放して距離をとっていた。


「ふっ! 近づけねえようだな。当たれば死ぬからな。真っ二つだぜ?」


 相手の嘲笑を交えた口振りにカズは歯を食い縛った。だが、相手に近づくことができない。

 次に鍔迫り合いで相手から距離をとった時だった。


 いきなりカズは足の感覚を失った。


 やばいっ!


 すぐさま右手で崖を掴む。


 砂ぼこりと小石が崖の斜面を高速で落ちていった。崖の下には〈西の海〉が広がっている。落ちたら……。

 ここでカズは終わっていた。

 攻撃する機会を掴むために後ろに下がっていたのが仇となったのだ。


「いきなりの危機じゃないか。さっきまでの威勢はどうした」


 棟梁がじりじりと近づいてくる。

 すぐに上がらないと!

 カズは右手に力を入れて、上ろうとした。

 だが、思うように力が入らない。

 そして棟梁はカズのすぐ近くまで来た。


「逃げようたってもう無駄だぜ。俺が墓場に送ってやろう」


 棟梁は大きな足でカズの右手を踏みつけた。


「ぐっ!」


 しびれるような痛みがカズの右手から全身に広がった。右手から力が見る見るうちに抜け、少しずつ手が崖から離れようとしていた。


「てめぇ……!」


 カズはそれでも力を入れる。しかし、踏みつけられるたびに力が抜ける。次第に腕が地面から離れていく。


「その度胸も無駄に終わったな。じゃあな」


 棟梁は足を引き下げた。


「じゃあな。中身の無いクズやろうめ」


 群太郎は〈國次〉を両手で大きく振りかぶった。

 もうだめだ……!

 カズは思いっきり目をつぶった。


 ――なにっ!?


 群太郎の驚きの声。そして、ぶんぶんと何かが高速回転しながら空気を切り裂く音がする。


 目を開けて上を向くと、お晴が立っていた。

 お晴は手を差し伸べている。


「カズ、早く上がって」

「う、うん」


 お晴に手を引かれ崖に上がる。

 群太郎は唖然としていた。〈國次〉は数尺離れたところで、地面に突き刺さっていた。


「ありがとうお晴さん……」

「小娘ぇ!」


 我に返った群太郎は〈國次〉を引き抜き、カズたちを鬼の形相で睨みつけた。


「死ね。とにかくここから消え去れ」


 棟梁は太刀を持って突進してきた。渾身の力で〈國次〉を振り回している。

 カズは木刀を構えなおす。

 相手は我を失っている。


「お晴さん、どうしよう。あいつ……」


 〈國次〉には近づけない。


「とりあえず私が引き付けるから、その隙に」

「うん」


 今はそうするしかない。

 〈國次〉の刃先がカズたちめがけて振り下ろされる。カズたちは素早くかわすと、後ろに回り込んだ。


「小娘ぇ! お前のせいで……!」


 群太郎は〈國次〉を横からお晴を薙ぎ払うように振り払った。

 だが、お晴は素早く回り込むと群太郎の腕を鉄扇で切り払った。


 〈國次〉が落とされる。


「なにっ!」

「カズ! 今よ!」


 群太郎が振り向いたとき、カズはすでに頭上に飛び上がっていた。カズは思いっきり木刀を群太郎の脳天めがけて振り下ろした。


 ***


 棟梁、いや、群太郎という大男は仰向けに倒れ、気絶してしまった。


 カズは着地すると同時に体勢を崩れるように倒れこんだ。


「うう、いてえ……」

「大丈夫?」


 お晴が手を貸す。


「ちょっと、無理したかも……」


 カズは苦笑いした。

 カズとお晴のもとに弦助の両親がやってきた。


「名前は存じませぬが、ありがとうございます。九死に一生を得ました」


 両親はカズたちに深く頭を下げた。


「いや、それほどでもないですよ」


 カズは苦笑いしながらも、後頭部を掻いた。

 そういえば、聞きたいことがあった。


「そうだ。やっぱり海賊になったのはあの棟梁を討つためだったんですか?」


 その声に両親は一つ頷いた。


「でも……、結局あのざまで……。とにかく、ありがとうございました」


 手紙の通りだった。やはり弦助の両親は勇敢で優しい人たちだったのだ。


「そこの者!下がれ!」


 峠の向こう側から声がした。向こうからちょんまげの侍が紋所を持って走ってきた。

 堺奉行所の役人のようだ。話によると堺の玉造屋で名刀〈國次〉を奪った罪として弦助の両親を捕まえに来たのだ。


 取り調べは近くの宿場町で行われたが、カズたちも証人として尋問を受けた。カズたちは弦助の両親の真相を全て話した。

 両親は群太郎に仇を取りたかったのだ。その甲斐あって、弦助の両親は減刑され、数か月後には堺に戻れることとなった。

 カズたちが締め上げた海賊の根城も奉行所の捜査が入り、海賊のしもべたちは全員お縄にかかった。


 このことは西道の町人らにも伝えられ、弦助の両親は誤解させてしまったことを深く謝罪していた。町人側も誤解していたことを認めると、両者は和解し西道を復興させていくことで合意した。

 一方、弦助の両親が逮捕された翌日。カズたち四人は奉行所からの褒美として米を数俵分進呈すると言われたが、カズは断った。貰えるのはとても嬉しいが、むしろ西道の復興として使ってほしかったからだ

 まあ、奉行所側が米俵を西道に回すかどうかはわからないが。


 弦助は両親が釈放されるまでは吉川の祖母に引き続き預けられることになった。彼は両親と別れる直前、今度はずっと一緒にいようと強く約束した。

 弦助はまた両親に出逢える日を心待ちにしていた。


 まあ忙しい日が続き、事件から三日後。


 カズたちは都行きの船が停泊している船着場にいた。弦助は彼らを見送りに来ていた。


「ありがとう。お兄ちゃん、お姉ちゃん。この恩はずっと忘れないよ」


 弦助はお礼の意味も込めて微笑んだ。


「ああ。お父さんやお母さんと力を合わせて生きるんだぞ」


 カズのその言葉に弦助は頷いた。その時、隣で誰かがつついた。


「ねえ、カズ。それはまだ先の話じゃないの?」

「あ、そうだったね……。お晴さん」


 思わぬツッコミが入った。カズは頭の後ろを掻いた。弦助も含めてみんな笑った。

 そして、都行きの船が到着した。


「じゃあ弦助。元気でな」


 カズは弦助と握手した。


「うん」


 お晴や他のみんなとも握手をした。

 特に弦助をかわいがっていたお晴や千鶴は彼を軽く抱きしめていた。

 喜平はつまらなさそうにその様子を見ていた。


「ガキはいいよなあ。可愛がられるし」

「喜平、千鶴ちゃん取られた気がして焼いてるのか?」


 だが。


「あたりめーだろ! 千鶴はオレの女だからな」


 喜平はきっぱりと言い切った。そういえば闇夜の事件の時も似たような事を言っていた。はっきりと言われると返す言葉が何もない。


 だが、喜平は何も言えないカズを見越してか、こう言い放った。


「お前も嫉妬してるだろ。掃除屋の姉ちゃんを取られた気がして」


 その言葉にカズは何も返せなかった。喜平はにやにや笑っていた。


 結局旅行からとんでもないことに発展したけど、でもよかった。カズ達は船に乗り込んだ。船上からカズたちは手を振っていた。

 弦助もまた大きく手を振っていた。


 形は違うかもしれないけど、弦助の両親は彼を愛していた。目には見えないかもしれないけど、家族はひとつだった。

 どんな形でも、つながっているのだ。


 (『どんな形でも』一件落着)


©ヒロ法師・いろは日誌2018

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