第11話 闇夜に映ゆる炎(真夜中の鬼火)
秋、国内では地方都市を中心に大火に見舞われている、そんな話をカズとお晴は耳にする。都中にもうわさが広がり警戒態勢に当たる中、カズが住む長屋の近くで火の手が上がった。
都を揺るがす、不気味な鬼火事件の幕開けだった。
長月上旬、華の都下京。夏は過ぎたというだけあって、日中はまだまだ暑いが朝晩は涼しくなってきた。特に夜は鈴虫やコオロギの鳴き声が田畑に響いていた。そして、先月より気温は下がったのでかき氷を売る店はかなり減っていた。
カズは今日も仕事を終え、お晴と別れた。今日は上京の貴族屋敷の掃除で、今日の報酬はかなり多かった。家により多く仕送りができる。貧しいこの国の庶民にとって少しでも多く実家に送れることは何よりの親孝行なのだ。
さっさと両替商に頼んで送金してもらい、家に帰ろうとしていた。いつものように長屋街に入る。いつものごとく、嫌な気配が漂い始めた。通常はここで気を引き締めなければならない。カズは木刀を握り締めた。
しかし。
ザバッ!
どこからか、冷水がカズにかかった。体が一瞬冷たくなる。着物や袴がびしょびしょだ。
「よう、掃除屋の兄ちゃんや……」
カズは一瞬ぎょっとした。下京一のチンピラ、入江成樹は獲物を仕留めた猛獣のような笑みを浮かべていた。成樹は水桶を辺りに捨て、ゆっくりと近づいてくる。
「どうやら今日は多いみてぇだな。女はいないようだし、ちょうどいい」
「わ、渡さねーからな!」
カズは巾着袋をすぐに懐にしまった。しかし、成樹は巨体に似合わぬ速さで突進してきた。
カズは護身用の木刀を抜き、とっさに木刀を構えた。お晴にこいつを見かけたらすぐに引き抜けと散々言われていた。
ところが、成樹はそれを読んでいたかのごとく木刀を跳ね飛ばした。
「お前のその行動はわかってんだよ!!」
その声のあと、カズの腹部に激しい痛みが走った。
「うぐっ」
思わず吐きかける。胃液が下からの衝撃で、逆流した。成樹の太い拳が、カズの腹に深く食い込んでいた。
カズは吹っ飛ばされて、長屋の外壁にあった水の入った水桶に体をぶつけた。桶から水がこぼれ、カズは頭から水をかぶった。
「これは頂くぜ、じゃあな」
成樹は大股でその場から立ち去った。カズはびしょ濡れで長屋の壁にもたれかかっていた。その光景は実に哀れだった。
悔しかったし、惨めだった。今日手に入ったはずの報酬をほとんど持って行かれてしまった。いっつもあいつにしてやられる。
しかしカズはそんなのは慣れっこだった。それが普通だったから。
***
翌朝。今日も掃除の仕事に出かける。
「ヘーックション!!」
桜通りにくしゃみの音が響く。くしゃみが出るたびにちり紙や手ぬぐいで口を拭く。今日は朝からずっとこの調子だ。
お晴はその様子を見て心配していた。
「風邪ひいてるようだけど、何かあったの?」
「いや、昨日あいつにやられて。本当に散々だったよ……」
「はあ、これで何回被害にあってるのよ」
お晴は深くため息をつくと、両手を腰に当てた。
「今度出てきたら私がなんとかする。またしばき上げないと」
「ええっ……。本気なの?」
「あなた一人じゃどうしようもないからよ。あと、あいつのことだし他の子もお金盗られてる思うから、今度こそ懲りさせないと」
しかし、成樹にひどい目に遭わされている。カズ以外にもお金を盗られる人は多いと聞く。そして、成樹はお晴が苦手ということはわかっている。彼女が動けばしばらくは首を引っ込めるだろう。
今日の仕事は上京にある喜久七の屋敷の掃除だった。彼に会うのは皐月以来で、喜久七はそのころと全く変わっていなかった。相変わらず男だが、まるで女のような声で話し、そして着物に着けられた香水そして顔の化粧が濃かった。
強い印象を与える依頼主のもと、彼から指示された場所を掃除する。ガラスの張替え、厠の掃除、屋敷の畳の交換……。広い屋敷だったので、すでに時間は正午を過ぎていた。
「ありがとうネ。アナタたちのおかげで助かったワ」
喜久七はそう言ってカズたちに報酬を渡した。
カズは巾着袋の感触を確かめた。いつもよりも一回りも、二回りも大きく膨らんだ巾着袋が中で軽やか高めの金属音を響かせた。昨日に引き続き、大量の報酬だ。
「ありがとうございます!」
二人は声をそろえて頭を下げる。
「ところで最近、田舎で大火事が多いの知ってる?」
大火事? カズたちは頭を上げた。
「いや、知りませんでした」
「この前ネ、歌を作ってる友人から手紙があったのネ」
喜久七の友人によれば、葉月の下旬から国内の地方都市や一部の農村では大規模な火災が頻発しているという。この国の都市部にある城下町や宿場町では長屋や民家が密集していて、火の手が上がると瞬く間に燃え広がってしまう。町が焼け野原になり、犠牲者が何百、何千と出ることもあった。そのため、ほとんどの領地では放火は死罪とするところも多かった。
「あ、その話かな。私が聞いたのって」
そう言い放ったのはお晴だった。
「私の長屋の大家さんが言ってました。都でもにわかに噂になっているって」
まだ噂の範疇は出ないが、時折都の近くの山で火の手が上がるのを見た人がいるらしい。だが、都周囲の村で火事が起こったという報告はなかった。
しかし、都には国の内外からの出入りが多く、噂も流れ込みやすい。面白半分に火事が起こると煽り出す者も現れており、立札の落書や瓦版の記事も火事のことが記載される始末だった。
お上は風説に惑わされないように呼び掛け、奉行所は放火を防ぐために火の見櫓を増設し、長屋の長や家の主に水桶を設置しておくように命じていた。都は人口が多く、もしも火災が起きれば大惨事になりかねないのだ。
「火事になったら、僕ら本当に終わりだよね、お晴さん」
「うん……」
だが、それ以上にお晴は言葉を詰まらせていた。想像するのはたやすいけど、もしそうなればカズたちは一巻の終わりだ。
少し喜久七と話し込んだ後、カズたちは屋敷をあとにした。
昼はひさめの祖母、ことみばあちゃんのお茶屋で過ごすことにした。もう夏も過ぎているので、かき氷は売っていなかった。でも、頼むものは変わらず、いつものように団子とお茶を注文した。
しかし、注文を持ってきたのはおばあちゃんだった。いつもならひさめがしているはずだ。でも、今日はひさめがいない。
「あれ、ひさめさん、今日もどこかに手伝いに行ってるんですか?」
カズはお茶を置いた。
「いや、散歩らしいよ」
おばあちゃんは厨房で食器を洗っている。
「でも、最近は悩み事があるらしくてね。たまに家の中で窓を見ながら空を見てたよ」
悩み事か……。
思い返せば夏の時もそうだった。喜平と千鶴の足取りを追って、このお茶屋にいた時にも何か後ろめたいことがあるような雰囲気だった。自分の祖母にも何が原因で悩んでいるのか打ち明けていないという。
何か大事なことなのだろうか。
結局その日は昼から仕事はなかったので、昼食を食べたあとすぐ分かれた。真夜中は用心しておけ、と言い合っていた。
その日の夜、カズの長屋。
長屋では部屋長が夜、もし火事が起こったときの対処法を同胞たちに教えていた。今日役人から指示があったという。しかし、ここの部屋長の話はとにかく長い。次第に眠くなり机にうつ伏せて眠ってしまった。
だが、そんな眠りもすぐに打ち破られた。辺りから人が叫ぶ声。騒がしく張りまわる音。さらに、外から鐘を叩く音が聞こえてきた。
ふと外を見る。夜空が異様に赤く明るくなっている。空の下から何かメラメラと音がする。その瞬間、カズの目は信じられない光景を目にすることになる。
急いで玄関に行き草鞋を履くと外に飛び出した。外に出ると家の近くの長屋が激しく燃えていたのだ。
うそ、だろ……。カズは思わず立ちすくんだ。
都でもついに起こってしまったのか? しかも、自分の家のすぐ近くで……。
中にいる人は走って外に逃げてきた。周囲の人々は消火に努めている。若い男が長屋の長と思われる男に叫んでいる。
「大変だ! 成樹が、成樹がいねえ!!」
成樹? あそこの長屋って成樹の住む場所だったのか。ということは、成樹はもう……。
「カズ! お前も早く逃げろ! 火が燃え移るぞ!」
後ろから鋭い声。振り向くと、カズの長屋の長が顔をしかめて立っている。
「で、でもまだ逃げ遅れた人がいるって……」
「お前らの命が先だよ! すぐに逃げろ!!」
カズたちは長屋の同胞と一緒に桜通りに一時退避した。
成樹が見つからない……。あの大きな火事だ。
あいつには散々な目に遭わされている。これまでに掠め盗られたお金はどれくらいになるかわからない。
だけど、いくら自分にとって天敵であったとしても、そんなやつが死んでしまうなんて……。純粋に衝撃が大きすぎた。
「成樹、しっかりしろ! 成樹!」
どこからか成樹の名前を呼ぶ声。カズはまさかと思い、その声の方向に振り向く。骨董屋の一角に人が集まっている。そこから成樹の名前を呼ぶ声がした。
カズは急いで人をかき分け、前に出た。
床几の上に、成樹はいた。
カズは一瞬目を背けた。見たくもない事実が、目の前に横たわっていたから。
成樹は着物や袴の下が焼け焦げ、さらに皮膚もただれていた。顔や首に煤が付着し、目を閉じてぐったりしている。
ただ、非常に弱いが息はあった。しかしそれも虫の息。いつ途切れるか……。
町火消しの一人が成樹の長屋の長とみられる男に呼びかける。
「火傷の程度がひどいな。いつまで持つかわからねえ。とりあえず、医者を呼ぼう」
「ああ、任せた」
そんな……。カズは一瞬激しい脱力感に襲われた。
いくら成樹が天敵とはいえあんな惨たらしい姿をさらけ出すなんて、信じられなかった。いったい誰があんな目に遭わせたんだ……。誰が、長屋に火を点けたんだ……。
そう思うと、カズの腹の底から燃え上がる炎のような激しい怒りを覚えた。
その後、炎は夜が明けるまで、下京の空を焦がし続けた。一部を焼け野原にして__
***
翌朝。ここは長屋。
結局火が消えるまで長屋には戻れなかった。火が消えた後、カズは自分の長屋の一室で眠ってしまった。
「カズ、玄関に掃除屋の嬢ちゃんが来てるよ」
長屋の長の声だ。目を開けると、すでに明るくなっている。そして、中庭の水時計を眺める。やべっ! もう集合時間過ぎてるじゃねーか!!
急いで支度をして外に出たので、朝食は食べる時間が無かった。
外に出るとお晴が赤い鉄扇を煽いでいた。肩まで伸びる栗色の髪が揺れている。
「あ、おはよう、カズ。昨日長屋の近くで火事があったみたいだけど大丈夫だった?」
「まあ、ね。今日の仕事はどこから?」
「戌亥神社だよ。春樹さんも待ってると思うし、急ごうよ」
洛外の田んぼ道を歩く。すでに稲穂が成長し、刈り取りの時期を迎えている。青く澄んだ空には羊雲が広がっている。夏が過ぎて、じめじめした暑さは収まり、秋の空気が感じられた。
でも、正直言ってカズの表情は晴れなかった。
焼け焦げた長屋。成樹のむごたらしい姿。そして、前触れもなくいきなり燃え上がったという炎。
都を出てから、昨日の火事のことばかり考えていた。
「カズ、何かあったの? 元気ないみたいだけど」
お晴の気遣う声が聞こえた。彼女は心配そうな顔でカズの顔をのぞき込む。
「う、うん……」
でも、あんな大火事人に話せるような事件じゃない。
「お晴さん、火事がついに都で起こっちゃったんだよ……」
「え……。ほんとなの?」
首を縦に振るしかない。恐れていたことが、起こってしまったのだ。そして、その火事で成樹は酷い火傷を負っていた。図体も大きく、悪い意味で声も大きかった成樹。そんな彼も今にも消えそうなか細い息で辛うじて生きていた。
「許せないよ。いくら成樹って言ったって、死んでいい奴じゃない」
お晴は下を向いた。ふとカズはお晴の様子を見た。
少しばかりの沈黙が流れたが、お晴は顔を上げた。
「そうだよね。私も一緒に捕まえる。あなたと考えは同じだから」
「お晴さん……」
「元気出して? これまで一緒に来たんだから、私たちでもなんとかできるよ」
そういうとお晴は軽やかに数よりも前に足を運ぶと、振り向いて笑顔を見せた。
「さ、行こっか」
笑顔を見せる仕事仲間の少女。カズはお晴の言葉にカズは元気づけられた。
ありがとう――
***
ところ変わって洛北、戌亥神社。秋になっても広大な鎮守の森の中は静かだ。
小川のせせらぎと鳥のさえずり。それだけが聴こえる。ただ、夏と違いこちらにも秋の空気が流れていた。
秋になってもまばらながら参拝客はあるこの神社。
二人は境内を掃除し、神主の春樹から報酬を受け取った。
しかし、春樹もいつになくやつれ顔だ。彼は文月の初めに呪符が盗まれたと言っていた。
「春樹さん、呪符のほうは……」
お晴が話しかけると、春樹は首を横に振る。
「見つかってないよ。でも、最近の風の噂を聞くと妙に不安なんだ」
「不安?」
「葉月ごろから起きてる火災だよ。そのせいでたくさんの人が死んでる」
「でも、それが何で」
お晴も疑問に思っているようだが、それはカズも同じだった。都で喜久七や長屋の長も話していたけど、火災は大ごとだ。でも、それが呪符と何の関係があるんだろうか。
「夏にも言ったが、盗まれた呪符は〈炎の呪符〉。ただの放火じゃあそこまで火は大きくならない」
呪符の炎は強大なもので、小さな村なら一瞬で焼け野原にしてしまうという。しかもその炎は何もないところから一気に激しく燃え盛り、それはまるで地獄の業火のごとく燃え上がるのだという。
まさか、とカズは思った。
「呪符が大火事の原因だって思うんですか?」
「まあ、ね。呪符を使えるのは俺だけだし、そんなことはないと思うけど、神職者ともなると妙な勘が働いてしまって……。俺の考えすぎであることを祈るよ」
春樹は不安げな表情を混ぜながら笑っていた。一礼して二人は神社を後にした。
「呪符か……。そうなのかな……」
「でも、春樹さん以外に呪符は使えないんでしょ? なら、ただ火事が偶然周りで起こってるだけじゃないの?」
「うん」
火事が立て続けに起こっていることについて、情報が少なすぎた。今はお晴の言うようにただの偶然としか、考えられない。
帰りはそんなことを話しながら鎮守の森の石段を降りた。
あと、昨日発生した火事も原因はわかっていない。犯人が同じという確証はないし、そもそも放火かどうかもわからない。
「何もわからないんじゃなあ……」
カズはため息をついた。行く時は犯人を捕まえたい、という気持ちがあったのに今じゃそれもしぼんでいる。
まあ、根拠もないまま犯人がいると決めつけてここまで来たんだから、どうしようもなかった。
カズはなんとなく羊雲が並ぶ秋の空を見上げた。お晴はカズに手を差し出した。
「座ってないで、とりあえず都に戻ろうよ」
「そうだね、お晴さん」
昼からの依頼はない。二人はおばあちゃんのお茶屋で昼食にしていた。
昨日と違ってひさめはいた。おばあちゃんによると、ついさっき帰ってきたらしい。
いつものように注文の品を配る。だが、ひさめはほとんど無表情だった。時折おばあちゃんが客の前で笑顔を作れと言っているが、ひさめは無反応だった。ずっと地面ばかり見て、カズたちに目を合わせようとしない。
いったい、彼女に何があったんだ……。
ひさめが厨房に戻ったのを確認すると、お晴は話を切り出した。
「今日は昼から仕事はなし。早速放火事件について調べてみる?」
「そうだね。昨日の火事の原因とかも知りたいし、田舎の火事もだけど……。やっぱり、春樹さんが言うように、呪符が関係してるのかなあ……」
「それはちょっと考えすぎだって」
「だよね」
だが、二人の話声は厨房の中まで聞こえてたようだ。
「おい、おまえら」
暖簾を分けて、ひさめが出てきた。瞳を隠してひさめが口を開いた。
「放火って言ったな……。昨日の、下京の火事のことだろ」
「そうだけど……、ひさめさん、何か知ってるの?」
カズは問いかけてみるが、ひさめはずっと口を噛み締めている。
「おまえたち、事件に首突っ込もうとしてるなら言っておく」
ひさめは顔を上げる。眉間にしわを寄せ、ひさめは二人を睨みつけた。
「おまえらはこの事件に関わるな。絶対だぞ」
二人は驚いた。
ひさめは鋭い剣幕を二人に向ける。
「関わるなって、どういうこと? 僕らが思ってる以上に危険なの?」
「ああ。正直おまえらを巻き込みたくない。相手は本当に危険なやつなんだ」
危険なやつ――
「犯人が、いるってこと?」
だが、ひさめは間髪入れずに、
「カズ、それ以上立ち入るな。鬼火事件はただの放火事件じゃないんだ」
「じゃあなんで落ち込んでたの? 放火事件と関係あるの?」
「……」
「ねえ、教えてよ」
「……」
「だから」
「うるさい!! 黙れ!!」
ひさめの声が桜通りに響く。街行く人々が足を止めた。
しばらく、カズたちの間に沈黙が流れた。
「すまねえ。大声出してしまった。とりあえず、放火事件のことは忘れろ」
そのままひさめは無言になり、また厨房に戻っていった。
その後、カズとお晴の注文を片付ける時にもやってきたが、何も言わなかった。カズたちはお代を払うと、ひさめを気にかけつつその場を離れた。
その帰り道。二人は桜通りの床机に座っていた。結局ひさめは取り合ってくれなかった。
やることはもう一つしかないのだが、それよりもひさめのことが心配でならなかった。
「カズ。ひさめさん、何があったのかな」
「わかんない。でも、ひさめさんが言うように放火事件の犯人は恐ろしいやつなんだと思う」
結局、それ以上のことはわからない。
そして、ひさめが初めて見せたあの激しい怒り。本気で僕らを巻き込みたくないと言っていた。それだけ、ひさめはカズとお晴を心配していた。命にかかわるという放火事件の犯人は、いったいどんな奴なんだ……。
「お晴さん。やっぱりひさめさんの言うように、この件は忘れたほうがいいのかな」
「かもしれないね。でも、あなた成樹のこと言ってたじゃない。あいつのためにもって」
カズの脳裏に昨日見た成樹の姿が浮かんできた。あの惨たらしい成樹の焼けただれた姿。彼をあんな目に遭わせた犯人を捕まえたいって言ったのはほかならぬ自分じゃないか。
「そうだね。ありがと、お晴さん」
「とりあえず今はわかる範囲で調べようよ。多分、ひさめさんは無理するなって言ってるだけだと思う」
「うん」
今は瓦版や聞き込みを通じて放火事件を調べることにした。
しかし、カズの頭の中は疑問だらけだった。ひさめが言っていた「命に関わること」とは一体何なのか。まさかこの放火事件に〈炎の呪符〉が関わっているのか。そして、放火事件の犯人は何者なのか……。
だが、事件はさらに思わぬ方向に進もうとしていた。
(つづく)
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