源為朝4(改定)
「物の怪だ。奴は鬼だ。」
「正しく、人の子とは思えん」
「見よ、あの体躯、あの風貌」
「見てくれだけじゃない、あの態度、あの気性」
「全てが己の力の中にあると思っておる」
「なんだ、何なのだ。違う、違う、違う!貴様は我が子ではない、私の息子を何処にやったのだ!」
「…………下らん」
某所、高級ホテル最上階スイートルーム。豪華絢爛なその部屋に1匹の鬼が居た。鬼は2人掛けのソファーにどっしりと腰をおろし、悠々と酒精を煽っていた。
カラリと氷の揺れる音がする。度数の高いその酒をロックで流し込む。普段は飲まない種類の酒だ、ふわりと芳醇な香りが周囲に漂う。
だが、鬼には度数など関係が無い。その鬼には毒など効かない、酒も水も変わりはしない。ただ、用意されていたので飲んでいるだけだ。
壁には大きなテレビが掛かっている。鬼は静かにそれに映る映像を見ている。
流れる映像は戦いの記録だ、第1次、第2次、中東、アフガニスタン……、この世界で行われたあらゆる場所の記録映像が流されている。
戦争の悲惨さ、無意味さ、残酷さ。数多の兵器に蹂躙し、蹂躙され、数多の人々が殺し、殺される。それは正にこの世の地獄だった。
だが、鬼はそれを酷く退屈そうに眺めている、まるでこの世界の戦争があまりにも低級、この世界の戦力があまりにも幼稚と感じており、興味のない大の大人が幼稚園のお遊戯会を眺めている様だった。
ふと、鬼が窓に目をやる。カーテンは開け放たれており、そこには煌々たる光の海、人類の築き上げて来た文明の夜景が広がっている。鬼はニヤリと笑みを浮かべた後、興味を無くしたように退屈な映像に視線を戻した。
その後、時間を図ったかのように扉がノックされる。鬼は動かない、返事もしない。するとカチャリとノブが回された音が鳴る。ドアは勿論オートロックであり、内部から開けないと言うことは、ドアを開けた人物は鍵を持っている者と言うことになるのだが。
「牛若様、為朝様の居場所が判明しました」
牛若の、特訓やめた宣言の翌日。吉野さんが唐突に来てほしくあり、来てほしくなかった知らせを伝えて来た。
「ほう、何処だ?」
「東京でございます」
「ふむ、ならば義盛の網に引っ掛かったのか」
「いえ、作業の合間に。この国の全ての監視カメラを洗い流したら偶々見つけました」
「ふむ、ご苦労」
相変わらず、スケールの大きなことを酷くあっさりと言いやがるのはほっとくとしても、ついにこの時が来たと言った。そう言えば牛若に為朝さん説得について聞いていなかった。俺も同席することになっている以上、聞いておく権利はあるだろう。
「説得の方針ですか、勿論決まっておりますよ」
その質問に対し、さらりと何でも無いように牛若は答える。
「大体、伊勢は難しく考えすぎなのです。叔父上を説得する方法なぞ簡単でございましょうに」
そう言って、牛若が続けた答えに俺は唖然とするしかなかった。
……って言うかやっぱり馬鹿だこいつ。
都内の高級ホテル、ドレスコードに引っかかり「貧乏人はお帰り下さい」と大人の口調で追い出されるのではないかと心配していたが、牛若の自信あふれる歩き姿か、弁慶さんの美貌によるものか、あっさりとロビーを抜けた俺たちは目当ての最上階スイートルームへと進む。
エレベーターにはカードキーを差し込むところがあり、最上階へはそれを使わなければいけないが、この程度のロック弁慶さんには有って無きが如しだ。スルスルと我が家の様に迷いなく進み、ドアをノックした後スイートルームのロックを解除した。そして弁慶さんはドアを開け俺達に入室を促した。
「お久しぶりでございます、叔父上。この前は挨拶もせず申し訳ございません」
ずかずかと勝手に乗り込んでいった牛若は、部屋の主の返事も待たずどかりとソファーの対面に腰を下ろす。勿論俺にそんな度胸はない、と言うか目の前の人物の視界に入る事さえ正直御免こうむる。俺は牛若の背後に立つ弁慶さんに隠れる様な場所をキープして部屋の空気と一体化することを試みていた。
しかし、ヤバイ。この前は10kmの距離を隔てた相対だったが(まぁあの時の俺にその距離が意味あるかは置いといて)実際にこうして生身の体で目と鼻の先に居ると、何と言うかヤバイ。語彙が消失してヤバイと言う言葉しか出なくなってくる。
目の前にいるのは圧倒的存在感を放つ生物。一度目にしたら二度と忘れることは無いだろう呪いじみたオーラ。本来広々としているはずのスイートルームがこの人が一人いるだけで、窮屈に見えてしまうほどの巨大な異物感。
「それで、この国を観光したご感想はいかがでしたか。山海の幸が豊富で豊かな国です満喫頂けたのでは」
ペチャクチャとよく回る牛若の刈る口に、ついには鬼が地の底からにじみ出るような笑いが漏れる。
「道化芝居はもう良い、要件は何だ」
「はっはっは、道化と言うならば、叔父上とて同じこと。どこの誰様の策に乗ったかは知りませんが。何することなくこんな所で時を費やしている叔父上に言われたくはありません」
軽口ついでに、相手を煽る牛若、相変わらずこいつの恐怖心は人とずれている。頼むからニトログリセリンでお手玉するのはやめてほしい。
「やはり、こちらの世界にも叔父上の興を引くものはございませんでしたか」
牛若は少しトーンを抑えて会話を再開する。ここからギアを上げていくと言う事だろう。
「ふっ、期待は……していなかったがな」
鬼は静かにそう漏らす。
鬼が望むのも、それは――
「まぁ、そうでしょうね。某の目から見てもこの世界の民は脆弱すぎます、科学技術もそれしかり。叔父上が望むような戦などこの世界にはございません」
戦いだ。全身全霊を掛けた血が沸くような戦い。命を燃やし、命を食らい合う戦い。彼方の世界で最強を超え無敵となった彼には、対等の存在などいやしなかった。孤高の最強、孤独な強者、その者が求めたのは孤独を埋める対等なる存在だった。
「はっ、それを人に求めるのはとうに諦めた」
「ほう、では何を求めます?」
「世界は俺に等しいものを用意し忘れた、ならばその無聊は世界に慰めてもらう」
「ははっ!」
「俺が求めるのは世界を射抜く一矢。俺は俺の力で世界を貫く」
馬鹿だ、馬鹿がいる。
この人が言っているのは比喩でない。人間社会を混乱させるとか、そんなサイズの話をしているんじゃない。文字通り、物理的にこの星をぶち抜き破壊する力を求めているのだ。
彼の意思が、言葉でなく心で理解できてしまう。そんな重みをもつ発言だった。
「あんた馬鹿か。そんな事して何になる」
つい、思った通りの言葉が口から出る。そんな事を言っても何も意味が無いのは分かっていたとしてもだ。
しかし鬼には俺の発言など聞こえていない、彼が人として認めるのは戦闘力を持つ者のみ。それ以外は路傍の石や草むらの虫にしか過ぎない。
静かに、握る拳に力が入る。
「なる程、その為に我らと戦うと!機が訪れたと!果てさて、我らを打ち倒したとして世界を破壊する力が手に入るとは思いませんが。叔父上の中では当然の通過点なのでしょう!
それは良いです、それで良いです。
では、某の言葉を伝えさせて頂きます。源為朝、無双の勇者、無敵の兵にして世界の破壊者にならんとするものよ!」
鬼の勢いに飲まれたのか、乗ったのか。牛若は狂気じみた上機嫌で言葉を紡ぎ――
「某と共に世界を救いましょう」
静かにそう締めくくった。
「くくくっ、はっはっは!」
呵々笑い。鬼は牙をむき地獄の太鼓を打ち鳴らす。
「そもそも、皆勘違いを、見て見ぬふりをしている。叔父上は唯一人、そこに在るだけです。叔父上の前には源氏も平家も、それ以外もありはしない。
しかし、叔父上。今回は、今回の世界の危機に当っては、源氏の、この牛若の味方となって頂きます」
「如何にして?」
鬼は上機嫌でそう問いただす。
「無論戦にて」
ああ言いやがった、昨夜聞いた通りの回答だ。因みに居合わせた継信さんはニヤリと笑い、忠信さんは困ったように笑っていた。ついでに俺は屋島さんに胃痛を訴えていた。
戦いを避けるための交渉なのに、自ら進んで戦いに行ってどうするのだ。それとも為朝さんは実は話の分かる人で、可愛い姪っ子の為に死人が出ない優しいルールで戦ってくれるとでもいうのだろうか。
だが、正面に座り狂気じみた獰猛な笑みを浮かべる男からはとてもそんな気遣いは感じ取れない。
「いつやる?今からでも構わんぞ」
「はっはっは。叔父上は戦を求めますが、虐殺に興味はございますまい。暫し……そうですな、時は3日後、場所は……折角ですので我らが再開した博多でいいでしょう。
弱者の戦を当とお見せいたします。正々堂々不意撃って見せますので、博多にて鏑矢を撃ちかわしましょうぞ」
「くくく、鏑矢とは今狙いをつけているアレの事か?あの程度が工夫と言うのなら今すぐ殺すぞ?」
「派手な音がします故あれでもよいのですが、隙あれば射殺すため戯れに狙っているだけです。本番ではもう少し趣向を凝らしますよ」
なんて奴だ、気づいてやがった。今この部屋は10km先から荷電粒子砲の照準が向けられている。撃ってしまえば俺達も巻き添えになるので照準テスト以外の意味は無いのだがそれでも気づいていやがった。先日の継信さんの話は眉唾物と思っていたが、聞くと見るとでは大違い、なんて化け物だ。
そうして俺たちは3日後の決戦の約束を取り、魂まで刻まれるような、何処までも楽しそうな鬼の殺気を背中に感じながら、その部屋を後にした。
源為朝、イメージはバキの勇次郎。ホテルのスイートルームが似合う男。
今日のFGO話、前回書き込んだ後、持っている石を全部ぶっこんで見たら、
アキレウスと先生が1人ずついらっしゃいました!
全部で50連位かな?コツコツため込んできた無償石が全部消えたので
当分ガチャは回せません。だが、それがいい。




