源為朝2(改定)
『と言う訳で、今回の件はテロリストが起こした事件として処理する事となりました』
「ふむ……そうか」
伊勢さんの報告を、牛若は不承不承と言った感じで受け取った。まぁこいつの気持ちも分からんでもない。一線を超える覚悟をもって行動したが、ふたを開けてみれば、肩すかしとなった感じだろう。
牛若は公衆の面前で、あちらの世界の技術を大盤振る舞いした。事態の収拾を図るために、自分たちの素性をオープンにして今回の事件の矢面に立つつもりだったのだろう。
なにしろ今回は死亡者が多数出ている。ついにと言うべきか、とうとうと言うべきか、いずれは避けられない事態だったのだろうが、やはり死亡者が出てしまうと一線を越えてしまったと言う後悔が押し寄せてくる。いや、やはりこの少人数で今まで死亡者を出さずにやってこられたのは、単なる幸運だったのだろう。
『牛若様、お気持ちは分かりますが。今は為朝殿の動静に集中してください』
そんな牛若の心中を察したのだろう、伊勢さんは言葉を続けた。
『為朝殿の目的は不明なれど、かの御仁です。援軍として現れたとしても、敵方として現れたとしても、大いなる騒乱を巻き起こすでしょう。あの方はこの平和な世界には危険すぎます』
「援軍としてか、気休めを言うな義盛。叔父上の使用していた八正は義仲のそれと類似していた、それに未だに姿をくらましていることから敵方に相違あるまい。
あの叔父上が義仲と連携行動をとるとは考えにくい故、おそらくは別の任務で出立したに違いない。現れる時期が早すぎるのが気になるが、おそらくは叔父上が早すぎたのでなく、義仲が遅く着きすぎたのだろう」
『そうですね、私も同意見でございます。そうなると義仲殿の請け負っていた任務が気にかかりますが、過ぎたことは気にしても仕方ありません。少なくとも、彼の請け負っていた任務は、彼を打ち取った以上、妨害に成功していますので、良しとしておきましょう』
「うむ、義仲の事は置いておくとして、問題は叔父上だ。義盛、正直に効かせてほしいが現状の戦力で叔父上を打ち取る事は可能か?」
『……無理でございましょうね。あの御仁は全てにおいて規格外すぎます。忠信君が到着したとしても残念ながら変わりはないでしょう。それほどまでの存在でございます』
「ふぅ……。某も同意見だったが、やはり貴様にそう言われると応えるな。とは言え手をこまねいている訳にもいかん。手段は無いか?」
『そうですね、戦闘では同じ土台に立てないので。交渉ですかね、気まぐれなあの方ですので、上手くいけば自軍に引き入れることが出来るかもしれませんが……』
「そうだな、上手くいけば上手くいく交渉と、最初から問題外な戦闘では、交渉の方がいくらか目があると言った所か……」
『ですが……問題があります』
「問題が無い事の方が少ないが、何だ?」
『私は利害を利用した交渉術しかしてきませんでした。それがあの御仁には全く通じないと言う事です』
「あー、野生の獣に現金をちらつかせても全く意味がないのと同じか」
『左様でございます』
「仕方ない、某が当たろう。交渉事は不得手だが、この中で叔父上と一番接する機会があったのは某だ。そんな事に意味があるかは分からんが、少しでも確率が上がれば儲けものだ」
「あー、そうか。嬢ちゃんはガキの頃、あの人に可愛がってもらったんだってな」
「某が四つか五つの頃、一方的に遊びをせがんだだけだがな。今にして思えば怖いもの知らずと言うものではなかったな」
「いやいや、笑いながらそう言えるのがすげーよ。ガキはおろか老若男女誰一人としてあんなおっかない人に好き好んで近づく人はいなかったぜ?」
「ふむ、某は特に意識しては居なかったな。よじ登るのにいい背中があったから肩まで上っては放り投げられていたな」
はっはっはと笑う牛若。御付きの人の胃痛が想像できる。野生のライオンで遊ぶ貴人の子のお守なんて死んでもしたくない。
とも言え一応の結果は出た。為朝さんとは交渉を中心とし可能な限り戦闘は避ける方向で相対すると言った方針だ。俺としても正直助かる、あんな化け物と戦うなんて想像しただけで胃に穴が開きそうだし、戦うことになったら心臓に穴が開くどころか、消し炭すら残らなそうだ。
三蔵ちゃんイベントはやっぱりごちゃごちゃしてるよなぁ。
けども、毎回新しいことにチャレンジする姿勢は見習いたいものです。




