源為朝(改定)
「先ずは、お礼を申し上げます」
応接室へ通された俺達に、駅長は深々と頭を下げた。どこの馬の骨とも分からない、怪しさ満点の、無暗に偉そうな小娘と、モブキャラっぽい平凡な俺に、そんな態度を見せるとは随分と懐の広い人だ。
俺は、アタフタと対応してしまったが。牛若はこんな事に慣れているのか、落ち着いた様子で謝意を受け取った。
「いえ、余所者が出しゃばったまでです。貴方の部下の練度は大したものだ、某は彼らの実力が発揮できるよう多少背を押したに過ぎません」
「そう言って頂けると、彼らも救われます。
それで……、ふぅ、一体何からお聞きすれば良いのか迷いますが……まず、お聞きしたいのは、この事故は終わったのですか?」
「そうですね、今回の件は終わったものと思われます。元凶は既に排除されています」
「元凶?排除?」
「ええ、話すと長くなりますので、概要をお話しします」
そう言い、牛若は自らの出自とGENの事について話し始めた。荒唐無稽でざっくりとした説明だったが、駅長自身、前代未聞な事故や弁慶さん屋島さんの説明不能な能力を見ているのだ、様々な疑問を腹に置いたまま、黙って牛若の話を最後まで聞いてくれた。
「以上が事のあらましとなります。裏付けとしては、某が本拠地としております北九州市の市長殿か、総理大臣殿にお尋ねください。いえ、むしろあちら側から説明を要求されるかもしれませんが、その際にはご協力お願いします」
堂々と、しかも微妙に慇懃無礼に語り終わる牛若。これも、小娘が戦場で嘗められないように作り上げられた会話術なのかと思ったが、今までのこいつを見るに単に生まれ持った性質なのだろう。付き合わされる俺としては胃が痛くなる。
突拍子のない話を聞かされた駅長は非常に難しい顔をしていたが、屋島さんから終了の連絡と、牛若の予想通りに内閣の危機管理室下部の極秘対策室から連絡があった事により、俺たちはなし崩し的に応接室を後にする事となった。
パトカーと救急車で十重二重と囲まれた駅を、光学迷彩を使い後にする。取りあえずは仲間内で情報整理をしなければならない。佐世保での戦いに始まり、避けなければならなかった事態と目的不明の乱入者、矢継ぎ早に色々な事がおこってしまい、訳が分からない。
そんな訳で、俺たちは近所のカラオケボックスにやってきていた。勿論みんなで仲良く歌を歌う訳でなく、堅気の方に迷惑をかけないよう内緒話をするためだ。
「すまねぇな嬢ちゃん、遅れちまって」
「よい、叔父上とじゃれ合ったのだろう。あの人と相対して五体満足であるだけで上出来だ」
「はっ、じゃれ合えてすらねぇよ。旦那が振った手に自分から当りに行ってぶっ飛ばされただけだ。まぁ、たったそれだけで腕が吹っ飛びそうになったのは事実だがね」
継信さんたちが為朝さんと相対したのは救援に駆けつける途中だったそうだ――
時刻は逢魔が時、日が暮れ、昼から夜に切り替わる黄昏の時間だった。福岡の大動脈国道3号線のとある交差点、そこに鬼が現れた。
運転していた男は不運だった、信号が切り替わり、アクセルを踏んだ瞬間の時だった。突如目の前に光が生まれた。対向車が間違ってハイビームに入れたのかとも思った。だが違う、光は間違いなく男の目の前に突如現れた。
男は反射的にブレーキを踏み込んだ、衝撃と共にエアバックが作動する、ついでに後ろからも衝撃が来る玉突き事故に巻き込まれた、いや巻き起こしたのか。
何かとてつもなく硬いものに当ったと思った、交差点のど真ん中に鉄柱がいきなり生えたかと思った。すると先ほどの光は鉄柱が地面に衝突した時の爆発か?隕石でも落ちて来たのか?ついてない、どんな確率だ。後ろからはクラクションの音が鳴り響いて来る。
エアバックが萎み、白く汚れたフロントガラスが見えて来た、いや、見えるのはそれだけでない。鉄柱だ、愛車と自宅での寛ぎタイムを駄目にした鉄柱が見える。
鉄柱……、違う、何か違う、さっきまであんなに五月蠅かったクラクションの音が遠くに聞こえてくる。代わりにカチャカチャと硬い音が頭に響いて来る。視界が小刻みに振動する、何だこれは!五月蠅い!
鉄柱?違う、違うと思う。フロントガラスには見覚えのあるものが見える。
手だ!大きく、太く、硬い手が見える。
恐る恐る、ハンドルにしがみつく様に身をかがめのぞき込む、そこには1匹の鬼が居た。それを直視した途端に意識が遠のいていった。
光の中より現れた鬼は、ただ立っていた。自動車に追突されても、震える様にクラクションを鳴らされてもどこ吹く風、ただ、立っていた。
視線だけを左右に動かし周囲を見渡す。そしてつまらなそうに手に持った柱を少し持ち上げる。恐慌状態のクラクションに流石に少しは煩わしさを感じたのだろう。鬼にしてみれば、鬱陶しい蚊を手で振り払うのと同じだ。そう、鬼にとっては蚊も自動車もどちらも等しく一払いで消し飛ばせるものだった。
「ちょっとまったッ!」
嬢ちゃんの救援に向かう途中だった。強力な八正反応が発生し、進路を少し反らしそちらに急行した。
そこで見たのは為朝の旦那に無邪気にクラクションを鳴らす一般市民の皆さんと、面倒くさそうに弓を持ち上げつつある旦那だった。
「でっ、旦那にぶつかった運の悪い車の代わりに、俺がふっとばされてその場は終了って訳だ」
「まったくねー、私もつぐっちから降りるのが遅れちゃってさー。その余波で吹き飛ばされちゃったのよー。いやーそれにしても聞きしに勝る化け物っぷりだよねーあの人。
つぐっちも一般人から比べれば大概化け物なスペックなんだけど。あの人の前では大人と赤ちゃんだよ」
うっせーな、その通りだよ。と憮然とした態度でそれに同意する継信さん。この負けず嫌いな剛の者をして、そう認めざるを得ない、それ程の相手。
「で、なんの目的でやって来たんだと思う?」
恐る恐る、俺はそう切り出してみる。
「ふむ、十中八九敵としてでしょうな」
牛若はあっさりとそう返事した。
「一応、為朝さんは源氏の一員なんだよな。裏切ったと言う事なのか?」
「そうですね、それこそまさに一応所属は我ら源でした。ですが実際には、叔父上には源氏も平家もありはしないのです。
あの人はあまりにも強すぎた。最強を超えた無敵、並ぶものなき天下無双。並の兵をはるか下に置き去りにして天涯孤高の武の頂に居続けたのです。
あの人には、源氏や平家と言った枠組みなど全く興味は無かったでしょう。求めるのは自分と対等に戦える敵、血沸き踊る戦、それだけだったと思われます」
牛若は昔を懐かしむようにそう語った。こちらの世界ではこの二人にあまり共通点は無かったと言われる。義経が為朝に遠慮して八郎でなく九郎と名乗ったと言う逸話はあるが、そんな逸話が真っ先に上がる程度の付き合いしかなかったと言うことだ。
だが、牛若の世界ではそれなりに付き合いがあったのだろう。そう言えば以前にも為朝さんとの思い出を語っていた覚えがある。
「それに、あの人は自軍にいても、何時も俺様基準で好き勝手に行動していましたからね。ぶっちゃけ、行動の読めない第3軍扱いでした。いつかこんな日が来るとは心のどこかでは思っていましたね。心底そんな日が来ない事は望んでいましたが」
ため息まじりに、心底面倒くさそうにそんな事を漏らす。
どうやら源為朝が制御不能の暴れん坊と言う面は、二つの世界で共通しているらしい。
「要するに俺達と戦いたいから敵になったってことか?」
「いやー、正直。某達では勝ち筋が見えません。叔父上と対等に戦うとなれば、兄上にご出陣頂いた上、源氏の精兵総出で当たらねばならないでしょう。
勿論、叔父上もその位承知でしょうが……。
正直、あの方の考えなど某には分かりかねます。何時もの気まぐれとしか言いようがございませんね」
なる程、よく分かった。源為朝と言う男は、姿形は人間だが、中身は鬼や怪獣の類で、普通の人間にはその物差しが理解できないと言う事だろう。
「牛若様、伊勢様よりご連絡でございます」
グチグチと先の見えない話をしている途中で、屋島さんの治療を受けている弁慶さんより連絡が入った。連絡先は、佐世保に続いて博多の件でも事務作業を行ってもらっている伊勢さんからだった。
為朝さんはFGOに実装されたとしたら
アーチャーなんだろうか、バーサーカーなんだろうか
俵の兄さんと同じく山7巻半分の化生(為朝は蛇、俵は百足)を退治しているから
神秘性も強そうだ




