博多駅の惨状(改定)
源為朝。平安時代、いや日本史上最強の武将の1人だろう。身長2mを超える巨体の剛力無双、5人張りの弓を易々と使いこなし、その力を頼りに乱世の時代を自由気ままに暴れつくした。
13歳の時、父親の手におえないと九州に追放されたがこれ幸いと九州制覇をなした。また、二度と弓が引けないように肘を壊されたにも関わらず、異常な回復力で力を取り戻し300人乗りの軍船をたった一射で沈めた等の伝説が残っている。
そのあり方は、牛若達の世界でも全く変わりないようだ。艦砲射撃と見間違うほどのあの一射が全てを物語っている。そんな彼が何故ここに現れたのか、継信さんはどうしたのだ?第三者が来るにしても継信さんの弟である忠信さんではないのか?たったの一撃で一切合切ご破算にしといて、何故何も言わずに消え去ったのか?底知れぬ不吉さに思考が強張り、暗い妄想が湧き上がってくる。
いや違う、あの目だ、悪鬼の様なあの目が焼き付いて離れてくれない。弓の威力は凄まじかった、とても1人の人間が生み出した威力とは思えない。だけど、それよりも深く刻まれたのは、あの目だ。
単純な攻撃力だけではない。あの目が、あの顔が、あの存在が、何よりも恐ろしい。恐怖だ。そう、この身が感じたものは、絶対に勝てない、いや勝負にすらならない絶対的な存在を目にした時に感じる生物的な恐怖だ。
今の自分には存在しない、背筋を振るわさせている時に、牛若からかけられた声で我に返った。
「主殿、駅の様子を見に行きましょう」
悲鳴と怒号、嘆きと恐怖。血煙の揺らぐ駅構内は正に地獄の有様だった。俺は授業で多少なりとも血の匂いや、内臓の匂いを嗅ぎ慣れている。そのおかげか、辛うじて嘔吐や気絶をすることは無かったが、そんな事は何の慰めにもならない。むしろまともな精神状態でこの惨状を直視しなければならないことこそが狂気の沙汰だった。
赤、赤、赤、一面の赤。線路内どころかホームまで血と肉片でコーティングされていた。
少しでも血の海から逃げようと、力の入らない手足でもがいている人がいた。
放心し、血まみれのまま座り込んでいる人達がいた。
泣きじゃくる子供がいた。
恐怖のあまり絶叫する人がいた。
狂気が臨界点を超え笑っている人がいた。
逃げ出す人がいた。
邪魔だと突き倒される人がいた。
駅員だろうと、乗客だろうと関係が無い、彼らの主観ではほんの少し前までは何時ものホームだったはずだ、それが一瞬で、唐突に、なんの脈絡も無く、この世の地獄と言う言葉ではとても追いつかない非現実的な惨状に代わってしまったのだ。
GENの事を知っている俺ならば説明することは出来る。GENに感染され制御不能となった電車がホームに突っ込み、GENに感染され気を失ったホーム上の待合客が将棋倒しに線路内に落下したことによる大規模な衝突事故、それだけだ。
それだけで、多数の、あまりにも多数の人間が、肉片となった。
老若男女なんて関係ない。普通に生活を行っていた、普通の人たちが、いつも利用していた駅で起きた惨状だった。
「うろたえるなッ!」
狂気と混乱と死臭に満ちた空間を、凛とした少女の声が切り裂いた。発生源、そんなものは言うまでもない、俺の隣に立つ少女、牛若からだった。
「某の声を聴け!某の姿を見よ!此処は戦場だ!恐怖を捨てよ!」
小柄な彼女から発せられたとは思えない、芯の通った力強い声が響き渡る。マイクなどは使っていないが、その声はホームの端まで行きわたる程であり、混乱を切り取るには十分だった。
「駅員諸君!」
牛若の声に、駅員たちは混乱しながらも反射的に返答をする。
「緊急事態だ!日頃の訓練の成果を見せよ!」
なんの前触れもなく出現した非現実的な惨状による混乱。その混乱を牛若の檄は一閃する。
思考の大部分を占めていた混乱はひとまず頭の片隅に追いやられ、代わりに緊急避難マニュアルが思考の表面へと浮上する。
「乗客たちよ!」
発せられる檄は少女のものではない、ここにいるのは少女の姿をした1人の武将のものだった。
「自力で立てる者は立ち上がれ!余力のあるものは弱者を助けよ!皆で協力し合いこの窮地!潜り抜けよッッ!」
しんとした構内に牛若の声が隅々まで響き渡った後、彼方此方で動きが起こる。それは今までの様な無秩序な混乱でなく、明確な方向性を持った避難活動だった。
駅員の誘導が始まり、乗客同士が肩を貸し合い避難をし始めた。
カリスマスキル発動!
グロ描写をどこまで入れるか悩みました。
ついでに当初のプロットなんて何処か星の彼方まで行ってしまったので
忠信さんの出番がいつになることやら
ラストは決まっているのですが




